あの夏の日、先輩は

「ヤバいものにはヤバいものをぶつけるに限りますね」

拍手をしながら近づいてくるスーツの男。

先輩をそんなエイリアンVSプレデターみたいな争いに巻き込むな…


思わずチョークスリーパーを食らわせてやろうと1歩踏み出そうとした俺を、先輩の手が遮る。


「やはりあなたでしたか…

自分が一番かわいい、という考えは今も変わらぬようですね。

初めは金持ちになりたい。

事業が大変になってきたら

“事業管理もしなくていい、
足のつかない顧客でなおかつ大金を稼げる仕事”

それで対心霊相手のバイヤーですか」


「えぇ、金持ちになりたいと思って何が悪いんです?

そのための努力もした。

汚い墓場7つも掘り起こして、ソイツを作った」


もはや虫の息と言っていい人形神を一瞥するスーツの男。


「やっぱり…


人形神を作ったのは祖父ではなく、アンタだったんだな」


「おや、どこで分かりましたか?」


「あのアンタの家、独り暮らしをしていた亡くなった祖母の家との既視感がすごかった。

それに30代前半で、入れ歯ケースはいらないだろ」


そう。

恐ろしく若作りだがこの男、80歳を迎えている。


その若さも、人形神に頼んだ可能性は大いにあるが。


「家ごと祟る憑き物筋は犬神みたいな動物霊だ。

人形神は家を祟ったりしない。

あくまで作った本人に取り憑きー



ー地獄に落とす」



「けどこれで私は地獄に落ちずに済みそうですよ。

あなた方が人形神を退治してくれたので」


「何か勘違いしているようだけどー


人形神は“神”とはつくが名ばかりの、
呪いのようなものだ。




そんなものをわざわざ退治するために神は力を使わない」


ボコボコにしただけだ。

そしてそれは呪いに近い。



「瀕死の呪いが最期にやることって、なんだと思う?」



人形神のすでに瞳に当たる石は欠け、ただの空洞となっている2つの穴が、



確かに男を見た。




それから男の体をへし折る勢いで巻き付く人形神。

いや、実際に折れたのだろうー


80歳の体が硬い人形の体に締め付けられて耐えられるわけがなかった。


血反吐を撒き散らしながら男は「な…んで…」と嗄れた声を出す。


それは本当に80歳相応の老人の声だった。


「呪いの終結するところなんて決まってるー

地獄に落ちるところまでがセットだよ」





いやだぁぁぁあー……



人形神は男に巻きついたまま急速にしぼんでいった。


あとにはただ、静寂だけが残った。