未完成のトンネル、送り火、あの夏の校舎。先輩は、

ー切ってくればよかった。

肩口まで伸び、首筋に汗でまとわりつく髪の煩わしさに顔をしかめる。

東京から北陸へ来ても、夏の蒸し暑さは変わらないらしい。

前を歩く担任教師が「お母さんの地元なんだって?じゃあなんとなく村のことは知ってるか」とこちらを振り返るも、最後に来たのは10年も前の話だ。
答えあぐねている間に、古い木製の引き戸が目の前に来る。

懐かしい地元に転校が決まった俺がようやく教室へ足を踏み入れたのは、高2の1学期も終わりがけー
夏休み1週間前という微妙な時期だった。

扉を開けると、バラバラの年齢4人からの視線が一斉にこちらを向く。
先程担任に説明された通りであれば、ポニーテールの女子が小学2年生、顔からマッシュルームカットに太いフレームメガネまでそっくりな男子2人が中学1年生の双子だったはずだから、もう1人の坊主頭男子は同い年か先輩の…

「なんだ高等部は溝口だけか。3年はどうした?」

「山に山菜を採りに行ってます」

「日本昔ばなし?」

「今日は転校生を紹介するぞ〜

日本の魔窟、東京から来た神座 亮司(かむくら りょうじ)君だ」

「偏見がすごい」

「なお、初等部・中等部の教室クーラーがぶっ壊れたので全員授業は高等部クラスで行います。夏休み1週間前だし各自自習で」

カリキュラムに一抹の不安を覚えていると、足元に小学生、中学生3人の小さな頭がわらわらと集まってきた。

「シティーボーイが来たじゃぁぁ!」
「囲め囲め!」
「ロン毛のイケメンじゃあ〜〜メンズモデルながか?
お近づきの印にあだ名考案しちゃるからのぉ〜〜〜???」

『歓★迎』とお手製感満載の弾幕で体を簀巻にされ、子供特有手加減のできていない張り手がスパパパァン!!と両太腿を襲う。地方の歓迎激しいな…

「分からないか転校生」

「後ろの席の溝口くん」

「入学から変わらない顔ぶれに突然の都会からのニューフェイス…1ヶ月はこの感じが続く」

「夏休み全部使って村案内しちゃるから!逃げんなよ!」

恐喝のような歓迎文句にどうやらこの先1ヶ月、俺はフルでいじり倒されることが確定したのだった。