あの夏の日、先輩は

「はいそれではこの村で土地神様になりたい希望理由をお聞かせ願えますか」

「本当に土地神オーディションやってる」

「日当たりや日照時間気にされる神様にはこの土地はちょっと難しいかもしれませんね…えぇ、はい。

曇りと書いて晴れと読むくらい晴れ間の少ない土地なので」


物件探しの様相を帯びてきた。


「あれっ?りょう君?学校は??」

メガネをかけた先輩が驚いた表情でこちらを見る。


メガネ姿の先輩…


…良い…


形から入るタイプなのか、先輩は眼鏡に恰好は黒いスーツという出で立ちだ。

「ここに、人形神が来るかもしれないと…


上弓月村の葬列隊の方たちから伺って…」


今面接をしていたのは何…なんの神様だろう…?

豆腐にまち針が大量に突き刺さったような頭部から全身白タイツという、ちょっとギリギリ人ができるコスプレラインなんだよな…
不審者だったらどうしよう…
先輩の近くに寄り、俺は仮装大賞先輩(仮)の動向を伺う。

先輩は、俺が守る…!

「りょう君、あの豆腐に針が刺さった御方は“針供養”が意思を持った神様で、

正真正銘神様だしそういう方たちには総じて心の声聞こえちゃってるから注意してね」

『無礼だぞ、小僧』

床に対して前後開脚180度にの姿勢で、腕を組み上半身だけこちらをひねり睨みを…
…顔どこ…?
おそらく睨みを利かせてくる針供養神。
予想以上に渋カッコいい声で心に直接語りかけてくる…


「あとね、人形神のことなら大丈夫だよ」


先輩が片手を上げて集まった神様たちに声をかける。


「では第二次面接まで進んだ方はこちらまでどうぞー!」






「今からテストを行います」

「この面子で?」

先程と同じ姿勢で微動だにしない針供養神、

あとどう見てもヨーダ…ジェダイマスターがいる。
そしてこちらに向かって微笑んでくる…

「目を閉じて、想像してみてください。

今、あなたは自宅にいます」

東京でのアパート暮らしの方が遥かに長かったはずなのに、俺が思い浮かべたのは今現在暮らしている祖母の家だ。

「玄関から入ったらまず、家の窓をすべて開けてください」

窓が多い…

「開け終わりましたか?」

想像の中で俺はダッシュする。

「窓を開けたら玄関に戻って来てください」

想像の中の俺はもうすでに息絶え絶えだ。

「もう一度家の中に戻り、開けた窓をすべて閉じてください」

やることが多い…再びダッシュしようとしたところで、ふと。

階段の途中にあるガラス戸に映る巨大な人形の頭部(・・・・・・・・)

外にいた姿が見えたのではない。

ガラス戸に鏡のように反射した姿が映っている。

つまり、





もう中にいる。




ズルリ、ズルリと。



土蔵の中で見たあの蜘蛛のような素早く這う動きではなく、まるで蛇のようにヌラヌラと緩慢な動きで2階から絶望が忍び寄る。

人形神の頭部がこちらを向こうとー



「すると、大関がいます」



「すると、大関がいます???」




思わず同じ言葉を反芻してしてしまったが、
先輩の声がすると同時。




っドゴォォッッッ!!!





家の天井をブチ抜いて2階から1階が吹き抜けへと強制リフォームされる。



ブチ破ってきたのは大関だ。



ちょうど階段を下ってこようとしたいた人形神の頭を踏み潰している。


そして。




のこったのこったのこったのこった



大関にやる目にも止まらぬ速さの張り手が人形神を襲う。



気がつくと俺の隣には行司が必死に大関の動きに合わせて「のこった」を連呼している。








「窓を閉じ終わったら、玄関から出ましょう。
これで終わりです」



先輩が言い終わると同時、目の前にはピク…ピクッ…と子にかけの虫のような僅かな身動きのみとなった人形神の姿があった。



「ね?大丈夫って言ったでしょ?

この間は相手の俺封じがしっかり研究された場所だったせいで不覚を取ったけど。

このは俺のテリトリーで、他の正式な神様もいる。

負けたりしないよ」



ホッと息を撫で下ろすのも束の間。


パチパチパチパチと、

大仰なまでの拍手が鳴り響く。


「あぁ良かった…あなたに目をつけておいて。

こんなに気分のいい日はない」


人形神に取り憑かれていたー

スーツの男だった。