あの夏の日、先輩は

双子を家まで送ったあと、俺は学校に寄っていた。

本当は隕石が嘘で、立て札にある日付は“先輩が死んだ日”なのではないか、とか。

冥婚女幽霊に撮られた記念写真が20年前だったりしたことを考えると…

同じように、自分が洪水に巻き込まれた日も別の…

あの日が先輩が死んだ時代で、そのまま先輩は遺体を人柱にされ御石様となったのではないか、とか。


もし御石様の下に先輩の遺体が埋まっているのだったら。


そしてそれがさっきの男性の言うように高値で取引されるんだとしたら。


“対心霊バイヤー”が言っていた目当ての“報酬”は、先輩の遺体?


外は雨が降り始めていた。


土砂降りといってもいい雨脚が、容赦なく体の体温を奪っていく。


御石様の下を体育館倉庫から持ってきたスコップを使い、無心で掘り返す。

もしこの下に何もなかったら?

なかったならいい。

いや…もしすでに誰かに、先輩の遺体を暴かれたあとだったとしたら?

スコップが硬いものに当たる。これ以上スコップで掘り起こすのが難しいと分かると、俺は素手で地面を掘り起こし始めた。

石、石…今のところ出てくるのは石ばかりだ。

石以外のものが出てきたら、俺はどうする気なんだろう。

俺の肩に温かい手が触れる。

振り返れば俺に傘を差し出す先輩の姿があった。

「先輩、どうして…神社にいてくださいって…」

「約束を破ってごめん。

けど、」

無茶はしないでって言ったよね…

俺の泥まみれの、爪の割れた手を握りしめて先輩は泣いていた。




神社ではなく、すぐ近くの打ち捨てられたプレハブ小屋で雨宿りをする。
意外にも中は風が吹き込むとかそんなことはなく、本当に利用者がいなくなっていただけで今は先輩が綺麗に使っているのが伝わってきた。
それこそ神社よりもよほど先輩の生活感が感じられる。

先輩から借りたジャージに着替え、タオルで体を吹きながら何気なく部屋を見回す。

プレハブ小屋は扉で仕切られた3部屋ほどが連なったものらしい。
一方では今先輩が温かいお茶を入れてくれている。

ーこっちの部屋は?



見るなのタブーという言葉がある。


この場合俺は先輩に特に「こっちの部屋を覗いてはいけないよ」も何も言われてないのだが、

なぜ家主のいない間に開放されていない扉を開けてしまったのか。

これは後々も先輩から思い出すと言われる出来事の1つになってしまうわけだがー


このときの俺は本当に何気なく、扉を開けてしまった。



そこにはおびただしい数の、

目が飛び出し瞼はなく、牙と爪を鋭く尖らせた魚類にも似た異形の姿の奇妙な石像があった。


山の中に異形の神を象った石碑も目撃されていてー


双子の言葉がどこか遠く頭に響く。






それが、先輩の神様だった。