あの夏の日、先輩は

「底辺YouTuberの俺にやっと希望の光が差しました〜!

“絶対に辿り着けない心霊スポット!下弓月村!
廃村になる前に辿り着けるか!?”

企画撮影開始で〜す!」

不謹慎すぎる態度にママさん含め下弓月村在住者間で空気がピリッと張り詰める。

「お兄さんに着いてけば村に辿り着けるわけっすよね?」

「チャリで来てるんで…」

「俺車なんで乗せていーし帰り送ってくよ??」

ね?ね?ね?と俺の周りをぐるぐる旋回しだすYouTuber。
諦めねぇなコイツ…


「品格が疑われますよ。そこまでにしてはどうです?」

ずっと話を聞いていたのだろう、区切られた喫煙エリアから出てきた男性が俺とYouTuberの間に割って入る。

タバコの、少し甘めの香りが漂う。

男性は万札を数枚YouTuberに向かってバラ撒いた。

ひゃっほぉう!と飛びつき退散するYouTuber。

お札バラ撒く人って本当にいるんだ…

「同じ村出身者として許せなくてね」

男性は30代前半といったところだろうか。
仕立てのいいグレーのスーツに身を包み、清潔感のある黒髪はきっちり整髪料でまとめられている。

「皆好き勝手言ってるが…

災害が先か、犠牲者が先か、
今となっては確かめようのないことを現代の我々がこねくり回してもどうしようもないと思わないかい?

我々にできるのは死者がいたという事実に真摯に向き合い、供養することだけだろう」

男性が言っているのは“人身御供”がなされていたのではないかという噂のことだろう。

「ああいった輩が噂を聞きつけてやってくる…

中には本当に供養の石碑の下ー御石様のことだが、

そこに人身御供にされた人間が埋まっていると考える輩まで…

本来の隕石説よりそっちを信じるとは、ロマンがない。

なんでも人身御供として埋められた人間は土地神となり、
その体は即身仏のように価値あるご神体としてオークションで高値で売れるとか」

思わず席から立ち上がる。

タカ君、トシ君に帰ろうと声をかけて急ぎ店を出ていく。

「送ろうか?ちょうど里帰りに寄ったところなんだ」

男性は品のある顔立ちに悪意などなさそうな柔和な笑みを浮かべている。

喫茶店のママさんも思わず見惚れるような笑顔だ。

「きっとさっきの彼は辿り着けなかっただろうが、私はちゃんと君たちを村まで送り届けられると思うよ」

「「いや、知らない人の車には乗らないですね」」

双子のユニゾンがきっぱり男性の誘いを断る。俺よりしっかりしている…

それでなくとも、この男性に送迎を頼むつもりはなかった。

こんな感覚的なもので人を拒否するのはいかがなものかと自分でも思うのだが…


先程のYouTuberよりもなぜか、


俺はこの男性の方により強い不快感を持ったからだった。