「君が言うならここでずっと待つよ。
その代わり、無茶だけはしないで。
必ずここに会いに来て」
ここに無事に会いに来てくれる度に、俺の話を1つするよ。
先輩が俺の瞳を掌で覆う。
気がつけば俺は家のベッドの上に、先輩に膝枕されていたときの体制で横になっていた。
与えられていたものが嘘だったのと、
最初から与えられてもいないのと、
与えてから奪われるのと、
どれが1番残酷かと先輩は聞いた。
嘘をつかれていたのも、
与えられていないのも、
奪われているのも、
先輩じゃないといい。
そう思いながら眠りについた。
翌日ー
教室に着いた途端に双子のヘッドアタックを腰に受け、もんどり打つ俺。
どうやらすでに「ヘラクレスオオカブトを探してくる」と、溝口くん・千夏ちゃんは2日目の昆虫採集に繰り出していたらしく、昨日調べた成果を俺に聞いてほしいのだと言う。
そしてヘラクレスも野生で日本には生息していない。
「先生に成果を聞いてもらうのは?」
「グラウンドでずっと『インターハイ!』って言いながら走り込みしとるもん」
あの人はどこを目指してるんだろうな…
遠い目をする俺の隣で、タカ君が「アキちゃん病気でおやすみって聞いとる?もう夏休みなんに可哀想…」と俺の服の裾を引っ張りながら尋ねてくる。
トシ君も「お見舞い行こ〜」と反対側の俺の服の裾を引っ張りだす。
「…皆で行くと先輩の具合もっと悪くなっちゃうから、お見舞いは我慢しよう」
「そっかぁ〜家族の人もいるし、大丈夫だよね」
一瞬、先輩の家族事情を知らないのかと思ったがそうではない。
おそらく先輩に関する事柄で辻褄が合わない事象は、村人の中で自動的に補填される。
本来なら何代も前に久勢神社は絶えている家系だったのだろう。
「それじゃあな〜調べた内容聞いて!」
考えてみればこの村の郷土史を学ぶことは何らかのヒントになる可能性が高い。
そして来たるべき戦いに備えて一刻も無駄にできない俺は倉庫と化している隣の空き教室から運動用マットを運び出し、腕立てをしながら双子の話を聞く。
腕立てをする俺の背中にいつの間にか並んで座る双子。
いい負荷だ…
「これはこの村出身で、今は隣町で喫茶店をやってるママさんから聞いた話です」
すでに発表するモードで話しているのか、かしこまって書き上げた資料を読み始めるトシくん。
「我々は、元下弓月村出身、現在は隣町で喫茶店を営むKさんに話を伺った」
急にドキュメンタリー風の雰囲気醸し出したぞ…
「以下、Kさんの言葉をそのまま掲載させていただく。
『元は1つの集落だったんやけど、地すべりで分断されてね。
まだ車も普及してない頃で行き来が大変やから、手掘りで山に何個かトンネルを作ったんよ』
Kさん曰く、まだ隣町と合併して村になるより遥か昔、昭和初期頃ーここは麓から山腹へかけて形成された小さな集落だった。
婉曲に縦状の集落が並ぶ様が弓のようにも三日月のようにも見えたことから“弓月集落”と名付けられたそこは林業により生計を立てていたが、木々伐採の影響で起きた地すべりにより山腹側と麓側で集落が上下に分断される。
麓側は外界へ通じているが、山腹側は大きく山を迂回しなければ出られない孤立した地形となった。
山腹側へ取り残されたうち若い衆は麓側の集落に移っていったが、迂回していくしかない露悪な山道を超えることを断念した年寄りはそのまま山腹に残ったらしい。
豪雪地帯な上、年中雨が降る地域で交通の便も悪い。
年寄りだけの孤立した生活を憂慮した村長が、麓から山腹の集落へ物資や郵便を届けるために近隣自治体の協力を仰ぎ、手掘りのトンネルを開通した。
いつしか山の上部、山腹側を“上弓月集落”、
そして今我々が住む麓側を“下弓月集落”と呼ぶようになった頃、上流で発生した豪雨での増水による鉄砲水が上弓月集落を襲った」
「あとは我々も知っての通り、その災害で上弓月村がダムになったんだよね!」
「村になったのは隣町と合併してからだったんだね!集落時代のこと知らなくてずっと村だと思ってたよ!」
「その災害で上弓月村に家族がいた人が怒って一気に出て行っちゃって、集落に逆戻りするんじゃないかと危ぶまれた時もあったらしいね!」
少しYouTubeの某ゆっくり話すマスコットキャラを意識した話し方をし始めた双子…というよりもはやそれを模した手作りの紙お面をつけて話している。
かと思いきや、お面を外し今度はサングラスをかけて話し始める双子。
「ここからはあくまで我々の推測…
ご清聴いただいた最後には『諸説あります』で締めくくるので、そのつもりで聞いてほしい」
キャラの癖が強い。
「100年前の洪水被害で遺族が出ていった決定的な理由は、御石様横にある立て札に『今この村が無事なのは御石様のおかげです。必要な犠牲だった』と、不明の書き込みがあったせいだと、Kさんからお伺いしました。
Kさんのまさにご先祖様がその条件で村を出ていった人だったからなんですね。
犠牲になっていいと遺された人の中に思う者はいなかったためー
そうなると誰が書き込んだか、という話になってきます。
我々はここで『狂信者』説を立てた」
フリップを出してくる双子。
「狂信者とは!
昔から水害が多かったこの村は人身御供を立てていた。
その歴史の中で“人柱で災害をなくす”という考えに固執した狂信者が生まれた。
今回の洪水による被害も“人身御供”として数えた狂信者が立て札にあんな文面を書き込んだのではないか。
●実際村の中で黒いマント姿の怪しい集団を目撃した者もいた
●山の中に異形の神を象った石碑も目撃されている(狂信者の信仰する神?)
ーどんな歴史も不都合な部分には嘘があるものです。
村の中で現実味がないのは“御石様は隕石”説。
昔過ぎて資料もない。
これが嘘で、本当は人柱にされた方の命日なのではないかと、我々は考えるわけであります」
フリップ芸でそこまで説明すると、双子は満足げに「ご清聴、ありがとうございました!」とお辞儀をした。
思わず盛大な拍手を送る。
もうこれ、完成しすぎてグループワークでやる部分ないな…
その代わり、無茶だけはしないで。
必ずここに会いに来て」
ここに無事に会いに来てくれる度に、俺の話を1つするよ。
先輩が俺の瞳を掌で覆う。
気がつけば俺は家のベッドの上に、先輩に膝枕されていたときの体制で横になっていた。
与えられていたものが嘘だったのと、
最初から与えられてもいないのと、
与えてから奪われるのと、
どれが1番残酷かと先輩は聞いた。
嘘をつかれていたのも、
与えられていないのも、
奪われているのも、
先輩じゃないといい。
そう思いながら眠りについた。
翌日ー
教室に着いた途端に双子のヘッドアタックを腰に受け、もんどり打つ俺。
どうやらすでに「ヘラクレスオオカブトを探してくる」と、溝口くん・千夏ちゃんは2日目の昆虫採集に繰り出していたらしく、昨日調べた成果を俺に聞いてほしいのだと言う。
そしてヘラクレスも野生で日本には生息していない。
「先生に成果を聞いてもらうのは?」
「グラウンドでずっと『インターハイ!』って言いながら走り込みしとるもん」
あの人はどこを目指してるんだろうな…
遠い目をする俺の隣で、タカ君が「アキちゃん病気でおやすみって聞いとる?もう夏休みなんに可哀想…」と俺の服の裾を引っ張りながら尋ねてくる。
トシ君も「お見舞い行こ〜」と反対側の俺の服の裾を引っ張りだす。
「…皆で行くと先輩の具合もっと悪くなっちゃうから、お見舞いは我慢しよう」
「そっかぁ〜家族の人もいるし、大丈夫だよね」
一瞬、先輩の家族事情を知らないのかと思ったがそうではない。
おそらく先輩に関する事柄で辻褄が合わない事象は、村人の中で自動的に補填される。
本来なら何代も前に久勢神社は絶えている家系だったのだろう。
「それじゃあな〜調べた内容聞いて!」
考えてみればこの村の郷土史を学ぶことは何らかのヒントになる可能性が高い。
そして来たるべき戦いに備えて一刻も無駄にできない俺は倉庫と化している隣の空き教室から運動用マットを運び出し、腕立てをしながら双子の話を聞く。
腕立てをする俺の背中にいつの間にか並んで座る双子。
いい負荷だ…
「これはこの村出身で、今は隣町で喫茶店をやってるママさんから聞いた話です」
すでに発表するモードで話しているのか、かしこまって書き上げた資料を読み始めるトシくん。
「我々は、元下弓月村出身、現在は隣町で喫茶店を営むKさんに話を伺った」
急にドキュメンタリー風の雰囲気醸し出したぞ…
「以下、Kさんの言葉をそのまま掲載させていただく。
『元は1つの集落だったんやけど、地すべりで分断されてね。
まだ車も普及してない頃で行き来が大変やから、手掘りで山に何個かトンネルを作ったんよ』
Kさん曰く、まだ隣町と合併して村になるより遥か昔、昭和初期頃ーここは麓から山腹へかけて形成された小さな集落だった。
婉曲に縦状の集落が並ぶ様が弓のようにも三日月のようにも見えたことから“弓月集落”と名付けられたそこは林業により生計を立てていたが、木々伐採の影響で起きた地すべりにより山腹側と麓側で集落が上下に分断される。
麓側は外界へ通じているが、山腹側は大きく山を迂回しなければ出られない孤立した地形となった。
山腹側へ取り残されたうち若い衆は麓側の集落に移っていったが、迂回していくしかない露悪な山道を超えることを断念した年寄りはそのまま山腹に残ったらしい。
豪雪地帯な上、年中雨が降る地域で交通の便も悪い。
年寄りだけの孤立した生活を憂慮した村長が、麓から山腹の集落へ物資や郵便を届けるために近隣自治体の協力を仰ぎ、手掘りのトンネルを開通した。
いつしか山の上部、山腹側を“上弓月集落”、
そして今我々が住む麓側を“下弓月集落”と呼ぶようになった頃、上流で発生した豪雨での増水による鉄砲水が上弓月集落を襲った」
「あとは我々も知っての通り、その災害で上弓月村がダムになったんだよね!」
「村になったのは隣町と合併してからだったんだね!集落時代のこと知らなくてずっと村だと思ってたよ!」
「その災害で上弓月村に家族がいた人が怒って一気に出て行っちゃって、集落に逆戻りするんじゃないかと危ぶまれた時もあったらしいね!」
少しYouTubeの某ゆっくり話すマスコットキャラを意識した話し方をし始めた双子…というよりもはやそれを模した手作りの紙お面をつけて話している。
かと思いきや、お面を外し今度はサングラスをかけて話し始める双子。
「ここからはあくまで我々の推測…
ご清聴いただいた最後には『諸説あります』で締めくくるので、そのつもりで聞いてほしい」
キャラの癖が強い。
「100年前の洪水被害で遺族が出ていった決定的な理由は、御石様横にある立て札に『今この村が無事なのは御石様のおかげです。必要な犠牲だった』と、不明の書き込みがあったせいだと、Kさんからお伺いしました。
Kさんのまさにご先祖様がその条件で村を出ていった人だったからなんですね。
犠牲になっていいと遺された人の中に思う者はいなかったためー
そうなると誰が書き込んだか、という話になってきます。
我々はここで『狂信者』説を立てた」
フリップを出してくる双子。
「狂信者とは!
昔から水害が多かったこの村は人身御供を立てていた。
その歴史の中で“人柱で災害をなくす”という考えに固執した狂信者が生まれた。
今回の洪水による被害も“人身御供”として数えた狂信者が立て札にあんな文面を書き込んだのではないか。
●実際村の中で黒いマント姿の怪しい集団を目撃した者もいた
●山の中に異形の神を象った石碑も目撃されている(狂信者の信仰する神?)
ーどんな歴史も不都合な部分には嘘があるものです。
村の中で現実味がないのは“御石様は隕石”説。
昔過ぎて資料もない。
これが嘘で、本当は人柱にされた方の命日なのではないかと、我々は考えるわけであります」
フリップ芸でそこまで説明すると、双子は満足げに「ご清聴、ありがとうございました!」とお辞儀をした。
思わず盛大な拍手を送る。
もうこれ、完成しすぎてグループワークでやる部分ないな…
