あの夏の日、先輩は

「御石様は半端な神様だから、昨日の女性霊のような害意ある霊の侵入は防げないけど…

少なくとも、御石様の力で害意のある人間(・・・・・・・)は村に入れないようになっている」

けど、昨日の赤い封筒のような害意のある無機物ー呪具はどうだろうか?

「前例がなかっただけで、害意のある無機物ー
人に作られた呪具なんかは、害意ある霊と同じ括りになるとしたら」

それを手にした人間も害意ある霊と同じように、村の中に入れるのではないか。

「そしてもしあの女性霊をそそのかした人物が、この村にいる16歳の青年がりょう君と溝口くんしかいないと…
はじめから知っていて、けしかけたんだとしたら」

「俺か溝口くんが狙われたってことですか…?」

えっ?俺はいつの間にそんな恨みを買っちゃった?

「…昔から、霊力の高い人間が生贄にされたりといった話があるように

呪具を作るような人間なんかは霊力の高い人間を材料にした呪具を生成したりする。

そういう者とコンタクトをとる対心霊バイヤーなら、呪具製造師に霊力の高い人間を売り飛ばしたりもする。

そんな輩が村に入ってきているなら、見過ごせない」

どうやら先輩は今は郷土資料館となっている女幽霊の屋敷へ行って、その“対心霊バイヤー”と対峙するつもりらしい。

「先輩、俺もついていきます」

「…今、俺がりょう君に全部話したのはね。

この村を出ていってほしいからなんだ」


ここ数日での出来事。

これ以上巻き込まれる前に村を出ていてほしい。

「せめて9/7の送り盆の儀式が終わるまででいいから、村を出ててほしいんだ。

君のお父さんとお母さんも、りょう君と同じように色んなものが視える(・・・)人だよね?

事情を話せば分かってくれるはずだ」

「……」

かつて先輩を想い泣き暮らしていた俺を気遣い、里帰りを一切やめた母や、俺のために何も言わなかった父ならきっと村を出ていくことにするだろう。
けど、

「出るときは先輩も一緒です」

「俺はこの村から出られない」

りょう君も、もうなんとなく分かっているでしょう?

「…じゃあ、せめて。今は先輩について行かせてください。そうしたら両親には話してみます」

そんな、泣きそうな顔をさせたいわけじゃなかった。
苦しい妥協案を提案すれば、先輩は困った顔で笑いながら小さく了承してくれた。
結局俺は6歳の頃の、先輩を困らせる子供のままだ。


開け放たれた窓から図書室に風が吹き込む。
資料集のページが風に煽られて捲られる。


開かれたページには50年ほど前の村の様子が載っていた。

俺はある写真に目を留めると、先輩に「…グループワークの資料集めのために、この本借りてもいいですかね?」と先輩に聞く。

「そこの貸出カードに記載すれば借りれるからね」

俺は黙って頷くと、貸出カードにサインして本を持ち出す。
脇に抱えた本を握りしめた。


50年前、畑を耕し笑顔を浮かべる人々の後ろ。


たまたま映り込んでしまったのだろうー


今と変わらぬ姿の、先輩の姿があった。