目覚めるとそこは体育館で、俺は眠る先輩の胸元に顔を埋めるように抱きしめられていた。
マ゜ッ(呼吸の止まる音)
「もう…朝ですかね…?」と目隠しのまま放置されていた溝口くんの蚊の鳴くような声に続き、千夏ちゃんやタカくん、トシくんも寝ぼけ眼をこすりながら寝袋から顔を出し始める。
先輩の双眸がうっすらと開かれ、寝起きの掠れた声で小さく「おはよう、りょう君」と呟かれる。
この時俺の胸に強く飛来した想いー
ーもうずっと
学校お泊り会でもいい…(辞世の句)
「えーやることを思いつかないので夏休みの自由研究を前倒しでやる日にします。解散」
1限目ー
教室でいよいよ担任教師による職務放棄に近い発言を受けて、中学生双子のタカ&トシは「この街の郷土史を調べに野外調査に行ってくる!」と飛び出していき、溝口くんは「昆虫採集に行ってきます!」と駆けだしていった。
その自由研究、対象年齢逆じゃない??
「うちのがっこ、昆虫採集は全学年のなつやすみ自由研究課題になっとるよ?
昆虫採集提出せんと単位当たらん」
評価基準がイカれてやがる…
不穏なことを言うだけ言って千夏ちゃんも「チカもクジャクヤママユ採るー!」と溝口くんの後を追いかけていく。
多分そのエーミールのやつは日本にいない。
「学年全体で6人しかいないからね、郷土史はグループワークなんだ。
俺達は郷土史調べを手伝おうか」
残された先輩と俺で学校の図書室で調べものをすることになった。
そう、2人きりでね。
昨日からずっと先輩と2人の時間が続いて嬉しさが隠せない足が自然とスキップしだす。
リズムを刻みだす足と格闘していると、先輩は図書室の新聞コーナーへ歩み寄る。
先輩の手元には昨日の赤い封筒事件の女幽霊から渡された20年前の写真。本来存在しない時間軸に写っている俺達の写真というのは、なんとも不思議な感覚だ。それこそ最近はそんな別次元に迷い込んだりと立て続けに巻き込まれているのだが。
というよりここに来てから巻き込まれ過ぎじゃない?
「昨日の女性霊が言っていた“先日、やっとその方法を見つけて”という言葉が引っかかってね」
先輩が引っ張り出してきたのは20年前の地元の新聞ー
夫を亡くし娘を独り身で育てていた女性が、娘の病死を苦に投身自殺という記事が載っていた。
載っている女性の顔は、昨日の女幽霊と同じ顔をしている。
「あの赤い封筒が冥婚を強制的に成功させる呪具だとして、どうやって手に入れたんでしょうか?
生前すでに?」
「いや、“先日”と言っていたし、手に入れたのは最近だと思う。
あの大量の赤い封筒、どれも真新しくまだ未使用だった。
生前から赤い封筒をあれだけ大量に持ち続けて、“16歳の青年”という縛りがあったとしても、20年間冥婚が成功しなかったというのも考えにくい」
確かに、その年月赤い封筒にかけるよりマッチングアプリを始めたほうが勝率が高い。
「手始めに女性霊は自分が死んだ生まれ故郷で赤い封筒を試してみたんだろう。
今現在この村で16歳の青年はりょう君と溝口くんしかいないから、執拗なまでの赤い封筒攻撃だったわけだね」
「あと数週間で17歳なのに年齢で選ばれるとは」
「確かりょう君の誕生日は…そうか、8月31日だったね」
知っててくれた…(感涙)
「だからあと数週間で先輩と同い年になれるんです。先輩は誕生日いつなんですか?」
「9月1日だよ」
「同い年一瞬で終わる」
「…俺は、年齢とか関係なく、今この時代でりょう君と一緒にいれることが嬉しいけどな」
りょう君は違った?と覗きこまれれば、全然違わないですぅ〜としか言いようがない。
先輩があざとくて可愛い…
「娘を未婚で死なせたことが心残りで、あの女性霊はずっと彷徨っていたんだろう。
そして最近になって誰かから冥婚のことと、それを成立させる方法ー赤い封筒のことを聞いた。
死んだ者は呪具になることはあっても、呪具を作り出すのはいつだって生者だ。
おそらくあの女性は誰かが作った呪具を最近手に入れたんだ。
例えばAmazonでポチったとかそういう」
「Amazonでポチる」
霊が????
いや…でもチェキとか持ってたな…
「霊が直接“買い物をする”みたいな現実への干渉の仕方はできないだろうから、誰か仲介業者を挟んでね」
死んだ霊を相手に希望の商品を買い付ける仲介業者がいるらしい。
“対心霊バイヤー”と、先輩は言った。
「けど幽霊相手にそんな商売をしても金銭が発生しない気が…」
先輩は資料集の棚から“弓月集落の歴史〜上弓月村と下弓月村〜そして下弓月村へ至るまで”と、やたら長いタイトルの本を持ってくる。
開かれたページには“下弓月村の大富豪死去”、“妻が莫大な遺産相続”、“妻、娘の病死を苦に自殺”、“現在屋敷は郷土資料館として展示されるも、莫大な遺産の行方は不明”ー
「こういうお金を持ったまま亡くなった霊を相手に商売をするバイヤーはたくさんいる。
死んだあとの執着は様々だけど、昨日の女性霊は“娘のために同じ年頃の旦那様を用意する”という分かりやすい執着があった。
そのためならいくらでもお金は出しただろうね」
先輩は資料集の郷土資料館を指差しながらこう続ける。
ー今、女性霊の成仏を受けてバイヤーはこの村に報酬を受け取りに来ているはずだよ。
マ゜ッ(呼吸の止まる音)
「もう…朝ですかね…?」と目隠しのまま放置されていた溝口くんの蚊の鳴くような声に続き、千夏ちゃんやタカくん、トシくんも寝ぼけ眼をこすりながら寝袋から顔を出し始める。
先輩の双眸がうっすらと開かれ、寝起きの掠れた声で小さく「おはよう、りょう君」と呟かれる。
この時俺の胸に強く飛来した想いー
ーもうずっと
学校お泊り会でもいい…(辞世の句)
「えーやることを思いつかないので夏休みの自由研究を前倒しでやる日にします。解散」
1限目ー
教室でいよいよ担任教師による職務放棄に近い発言を受けて、中学生双子のタカ&トシは「この街の郷土史を調べに野外調査に行ってくる!」と飛び出していき、溝口くんは「昆虫採集に行ってきます!」と駆けだしていった。
その自由研究、対象年齢逆じゃない??
「うちのがっこ、昆虫採集は全学年のなつやすみ自由研究課題になっとるよ?
昆虫採集提出せんと単位当たらん」
評価基準がイカれてやがる…
不穏なことを言うだけ言って千夏ちゃんも「チカもクジャクヤママユ採るー!」と溝口くんの後を追いかけていく。
多分そのエーミールのやつは日本にいない。
「学年全体で6人しかいないからね、郷土史はグループワークなんだ。
俺達は郷土史調べを手伝おうか」
残された先輩と俺で学校の図書室で調べものをすることになった。
そう、2人きりでね。
昨日からずっと先輩と2人の時間が続いて嬉しさが隠せない足が自然とスキップしだす。
リズムを刻みだす足と格闘していると、先輩は図書室の新聞コーナーへ歩み寄る。
先輩の手元には昨日の赤い封筒事件の女幽霊から渡された20年前の写真。本来存在しない時間軸に写っている俺達の写真というのは、なんとも不思議な感覚だ。それこそ最近はそんな別次元に迷い込んだりと立て続けに巻き込まれているのだが。
というよりここに来てから巻き込まれ過ぎじゃない?
「昨日の女性霊が言っていた“先日、やっとその方法を見つけて”という言葉が引っかかってね」
先輩が引っ張り出してきたのは20年前の地元の新聞ー
夫を亡くし娘を独り身で育てていた女性が、娘の病死を苦に投身自殺という記事が載っていた。
載っている女性の顔は、昨日の女幽霊と同じ顔をしている。
「あの赤い封筒が冥婚を強制的に成功させる呪具だとして、どうやって手に入れたんでしょうか?
生前すでに?」
「いや、“先日”と言っていたし、手に入れたのは最近だと思う。
あの大量の赤い封筒、どれも真新しくまだ未使用だった。
生前から赤い封筒をあれだけ大量に持ち続けて、“16歳の青年”という縛りがあったとしても、20年間冥婚が成功しなかったというのも考えにくい」
確かに、その年月赤い封筒にかけるよりマッチングアプリを始めたほうが勝率が高い。
「手始めに女性霊は自分が死んだ生まれ故郷で赤い封筒を試してみたんだろう。
今現在この村で16歳の青年はりょう君と溝口くんしかいないから、執拗なまでの赤い封筒攻撃だったわけだね」
「あと数週間で17歳なのに年齢で選ばれるとは」
「確かりょう君の誕生日は…そうか、8月31日だったね」
知っててくれた…(感涙)
「だからあと数週間で先輩と同い年になれるんです。先輩は誕生日いつなんですか?」
「9月1日だよ」
「同い年一瞬で終わる」
「…俺は、年齢とか関係なく、今この時代でりょう君と一緒にいれることが嬉しいけどな」
りょう君は違った?と覗きこまれれば、全然違わないですぅ〜としか言いようがない。
先輩があざとくて可愛い…
「娘を未婚で死なせたことが心残りで、あの女性霊はずっと彷徨っていたんだろう。
そして最近になって誰かから冥婚のことと、それを成立させる方法ー赤い封筒のことを聞いた。
死んだ者は呪具になることはあっても、呪具を作り出すのはいつだって生者だ。
おそらくあの女性は誰かが作った呪具を最近手に入れたんだ。
例えばAmazonでポチったとかそういう」
「Amazonでポチる」
霊が????
いや…でもチェキとか持ってたな…
「霊が直接“買い物をする”みたいな現実への干渉の仕方はできないだろうから、誰か仲介業者を挟んでね」
死んだ霊を相手に希望の商品を買い付ける仲介業者がいるらしい。
“対心霊バイヤー”と、先輩は言った。
「けど幽霊相手にそんな商売をしても金銭が発生しない気が…」
先輩は資料集の棚から“弓月集落の歴史〜上弓月村と下弓月村〜そして下弓月村へ至るまで”と、やたら長いタイトルの本を持ってくる。
開かれたページには“下弓月村の大富豪死去”、“妻が莫大な遺産相続”、“妻、娘の病死を苦に自殺”、“現在屋敷は郷土資料館として展示されるも、莫大な遺産の行方は不明”ー
「こういうお金を持ったまま亡くなった霊を相手に商売をするバイヤーはたくさんいる。
死んだあとの執着は様々だけど、昨日の女性霊は“娘のために同じ年頃の旦那様を用意する”という分かりやすい執着があった。
そのためならいくらでもお金は出しただろうね」
先輩は資料集の郷土資料館を指差しながらこう続ける。
ー今、女性霊の成仏を受けてバイヤーはこの村に報酬を受け取りに来ているはずだよ。
