あの夏の日、先輩は

曰く、籠入れの服の上にポツンと置かれていたという溝口くんの赤い封筒には『受け取ってくれなきゃ許さないんだからね!』とやたらと可愛らしい丸文字(※ただし赤黒い血文字)が踊っていた。
キャラ変してきた…

「溝口くん…君には今からとても悲しいお知らせがあります」

「今幸せの絶頂なのに?」

「それはラブレターではなく、どちらかといえば不幸の手紙です」

「モテ期じゃないだと…」

思わず取り落とした赤い封筒を前にうおおおお!と泣き崩れる溝口くん。

「この赤い封筒はどういう基準で配られてるんでしょうか?」

「多分…年齢かな…?

今日一緒に学校でお泊りはちょうどよかったのかもしれない。

大丈夫だよ溝口くん。

君が音楽室で“ピアノ演奏10曲当てるまで帰れま10”の怪異に囚われたときも、どうにかなったじゃないか」

「むしろそんなのがいる学校に今からお泊りはヤバくないですか?」

「封筒の中身を見てないからまだ大丈夫…
ただ、赤い封筒はどうもりょう君への執着がすごいから、りょう君はずっと俺のそばにいてね」

流れるような先輩からの「ずっと俺のそばにいて」発言。
俺でなきゃ聞き逃しちゃうね…

先輩の言葉を噛み締めながら気がつけば裏門の前。

グラウンドを抜けた先の体育館が本日寝泊まりする場所だ。

ただし担任教師は「俺?俺は体育館で雑魚寝より宿直室で快適に寝るよ」と言って校舎へまっすぐ歩いていったため不在。
あの人風呂入ってROOKIES布教しただけだな…

校舎と同じく年季の入った木造建ては中に入ると床だけが新しいフローリング仕様になっており、チグハグな印象を抱かせる。

「去年床が抜けたからフローリングだけ張り替えとったもんね」

怪奇現象に追加で物理的な恐怖が増えた。

しかし掃除は行き届いているようで、小奇麗な床に寝袋が人数分用意されている。

各々用意された寝袋に入るところから、戦いが始まる。
俺は厳かに先輩の隣へ寝袋をスタンバイする。

「アキちゃんの隣空いとる?わぁ〜〜〜コンパクトに運ばれる」

割り込んできたタカくんを脇下から持ち上げ、寝袋の上へぺいっと転がす。

「溝口くんは…端っこには寝ないほうがいいね…

それから体育館の外が見えちゃうような…窓際の近くもやめたほうがいいね…」

「意味深で何やら怖い」

赤い封筒の件が終わっていない溝口くんは、先輩から安全を考慮されサークル上に並べられた皆の寝袋中央に眠る形になる。

「目を合わせたら駄目だからね…」

「真っ暗…」

先輩から何か文字の書かれた布で目隠しをされる溝口くん。

「その赤い封筒って結局なんだったん?」

すでに寝袋の中でスヤスヤと眠りについている千夏ちゃんを気遣ったトシくんが、小声で先輩に話しかける。

「台湾では“冥婚”と呼ばれる俗習があって…
例えば若くして未婚で亡くなった娘さんに旦那さんを見つけてあげるために、道端にわざと赤い封筒を落とす。

拾ったくれた人が旦那さんになるっていうものだね」

とんでもねぇ悪徳マッチングアプリ…

「中身は亡くなった人の爪や髪、写真が入っていたり…

まぁでも台湾で実際にそれを見たことある人はいない、都市伝説みたいなものだね。

今回の問題は、この伝承になぞらえて拵えられたこの赤い封筒が完全に呪具だってとこ」

“必ず死者と添い遂げるように”という念を込めて、その筋から購入したんだろうね…

先輩は俺に向き直ると、「りょう君も今日は何か目線を感じたりしたらそっちを見ないで、俺の方を見てね」と寝袋から半身出して頬杖をついていた俺の手を取る。

「ずっと見てます…」

「眠くなったら寝てね?」

先輩の手を握り返し「起きてます…」「夜ふかしはダメだよ…」と問答を繰り返していると、

カサリ。

音の方に振り返れば、眠たいのか目をこすりながら千夏ちゃんが俺の寝袋に何かを差し込んでいるところだった。

「忘れとったぁ…さっき銭湯で女の人にな、てんこーせーに渡してほしいって言われとったんよ」

渡したかんね〜おやすみ〜と言うと、そのまま寝袋に潜り込んで再び寝息を立て始める千夏ちゃん。

差し込まれていたのは赤い封筒だった。