あの夏の日、先輩は

学校から出たあと少し森へ分けいった先にある銭湯は、いかにも昔からある木造建築だ。

後でな〜と、千夏ちゃんは女湯の暖簾の向こうへ消えていく。

先輩との銭湯デートに浮足立っていたが、よく考えると学校お泊りが初耳の俺は着替えも何も持参していない。

比較的家も近いようなので一旦戻るか…と考えていると、隣の先輩がスクールバックを探り出す。

「りょう君は学校お泊りの連絡網いってなかったもんね。着替えのジャージと下着があればいいかな?」

「俺は準備してきたけど替えのパンツを忘れたな」

「俺も」

「俺も」

「俺もだ」

「先生まで…」

皆パンツ忘れ過ぎじゃない???

先輩がスクールバックから『お得用』と印字された5枚組トランクスの袋を出す。
溝口くん、タカくん、トシくん、担任教師は先輩に口々に「感謝!」と言いながらパンツを手に勢い良く銭湯の暖簾をくぐって行く。

残ったトランクスは、股間位置に天狗のイラストというなかなか攻めたデザインだ。
図らずも先輩から初めてもらったプレゼント。大事にしよう…

トランクスを抱きしめながら先輩と暖簾をくぐる。

古い家屋、それから少し塩素の香りが鼻孔をくすぐる。

クラスメイトたちはすでに風呂場へ入っていくところだった。

ここがちょうど空いてるね、と木目調のロッカーに並んで場所を取ってくれた先輩が、シャツのボタンを外していく。

先輩から聞こえる衣擦れの音に俺は視線を前に向けたまま動けなくなる。
銭湯デートすなわち裸の付き合いis俺の下半身が大暴投の可能性…
よし、両親の顔を思い出しながら鎮静効果を期待ー

「りょう君?着替えないの?」

先輩の晒された肩が視界の端に入ってきて『すまん…』と言いながら霧散していく両親のビジョン。

先輩を半裸で待たせるべきではない。俺もシャツを脱ごうと手をかけたその時、逆隣に誰かが並ぶ。

そこには。

皆が『黒まんまい様』と呼んでいた真っ黒な影が立っていた。