「遅刻してきた上にビショ濡れとかお前ら〜川遊びでもしてきたんか?」
あの後、先輩は何事もなかったかのように『とりあえず学校に行こうか。どっちが速いか競争で』と駆け出す→『じ、自転車は!?』と言いながら慌てて走って追いかける俺→1時間遅刻しながら教室INとなったわけだが…
「なんだ…?転校生からアオハルの気配がする…」
そう。色々起こりすぎて触れずにいたが、何しろ俺は先輩とキスをした男…
今ならなんでもできてしまうな…?
「無表情なのにドヤってるのが分かる…」
「腹立つな〜〜〜」
「取りあえずシャワー浴びてこい。流石に風邪ひくぞ」
走っている間に乾いてきたとはいえ、まだ雫が滴っている。
担任に促され、先輩に案内されたのはプール横のシャワー室。
プールにはすでに透明な水が貼られ、日差しを反射して煌めいている。
水面を見つめていると、先程の蓮の沼地が頭をよぎる。
垣間見た回想でかつての人々が口にしていた“水神様”。
どうしてあんなにたくさんの子どもたちを捧げたのに、“水神様”は村を助けなかったんだろう。
「水神様なんて初めからいなかったからだよ」
声に出ていたらしい。
先輩は肌に張り付く濡れそぼったシャツのボタンを外しながら言葉を続ける。
「水害の恐怖を“水神様の怒り”と当時の人は考えた。
子供を口減らしするのに“水神様への捧げもの”っていう理由があれば、多少は罪悪感が紛れたんだろうね…
そこに信仰はなかった。
信仰されなければ神様は生まれないから」
…話が難しくなってきた…
えぇと、つまり…
「…じゃあ、今信仰されている“御石”様は神様ってことですね」
「あんなの神様じゃない」
違ったっぽい…
「りょう君も見たよね?
山腹にある大水害で今はダムの底に沈んだかつての上弓月村」
先輩曰く、元は1つの弓月集落と呼ばれる土地だったが、地すべりで分断されてから山腹に孤立した側を上弓月村、俺達の今いる山麓側を下弓月村と呼ぶようになったという。
「上弓月村が地すべりで孤立した土地になったのは昭和初期…
大きく山を迂回して移動するのは当時一苦労で…
移動できない老人たちが取り残された。
だから山麓のここ、下弓月村から手掘りのトンネルを開通して物資や手紙…
上弓月村に生家がある下弓月村の者が亡くなれば、こちらで火葬した骨壷を届けていた」
この間の夢を思い出す。
あの薄暗いトンネルの中を、どれだけの時間をかけて運ぶのか。
先に火葬してしまうここの風習はそれが由来だろう。
「トンネルから洪水が下弓月村へ流れ込まないように、上弓月村の人は御石様に願った。
本来なら洪水がトンネルから流れ込み、下弓月村の人間も死ぬはずだった。
死者の人数は変えられない。
トンネルを土砂と、岩と、家財と…
上弓月村の老人たちの体で塞いで、
御石様はその願いを叶えた」
下弓月村は誰も死ななかった。
上弓月村は誰も助からなかった。
それで死者の数は死ぬはずだった人数と同じになった。
「御石様が神様もどきだから上弓月村の人たちは死んだ…」
下弓月村の者が総出で上弓月村の老人たちの遺体をトンネルから掘り出せたのは、水が干上がってからようやくだったという。
「遺体を弔った後ー
上弓月村に家族がいた下弓月村の住人が最初に村を出て行った。
“御石様が守ってくださってるのなら、なぜ私の家族はあんな暗いトンネルの中…土砂で圧死しなければならなかったのですか”
って…」
先輩が、まるで自分を責めるように話すから。
「先輩のせいじゃないです」
俺は先輩の両肩を掴む。
ボタンを外していた先輩のシャツが肌蹴る。
違うよ?狙ってやったわけじゃないよ?
覗く先輩の素肌に荒ぶってしまう俺の鼓動。いい子だから鎮まれ…
ふと、先輩の胸元に走る傷に気づく。
真新しいものではない、古い傷だ。
その傷を俺は知っている。
転校初日、懐かしさに撫でていた御石様に走る亀裂…それと同じ傷が先輩に走っている。
「先輩がー
御石様なんですか?」
あの後、先輩は何事もなかったかのように『とりあえず学校に行こうか。どっちが速いか競争で』と駆け出す→『じ、自転車は!?』と言いながら慌てて走って追いかける俺→1時間遅刻しながら教室INとなったわけだが…
「なんだ…?転校生からアオハルの気配がする…」
そう。色々起こりすぎて触れずにいたが、何しろ俺は先輩とキスをした男…
今ならなんでもできてしまうな…?
「無表情なのにドヤってるのが分かる…」
「腹立つな〜〜〜」
「取りあえずシャワー浴びてこい。流石に風邪ひくぞ」
走っている間に乾いてきたとはいえ、まだ雫が滴っている。
担任に促され、先輩に案内されたのはプール横のシャワー室。
プールにはすでに透明な水が貼られ、日差しを反射して煌めいている。
水面を見つめていると、先程の蓮の沼地が頭をよぎる。
垣間見た回想でかつての人々が口にしていた“水神様”。
どうしてあんなにたくさんの子どもたちを捧げたのに、“水神様”は村を助けなかったんだろう。
「水神様なんて初めからいなかったからだよ」
声に出ていたらしい。
先輩は肌に張り付く濡れそぼったシャツのボタンを外しながら言葉を続ける。
「水害の恐怖を“水神様の怒り”と当時の人は考えた。
子供を口減らしするのに“水神様への捧げもの”っていう理由があれば、多少は罪悪感が紛れたんだろうね…
そこに信仰はなかった。
信仰されなければ神様は生まれないから」
…話が難しくなってきた…
えぇと、つまり…
「…じゃあ、今信仰されている“御石”様は神様ってことですね」
「あんなの神様じゃない」
違ったっぽい…
「りょう君も見たよね?
山腹にある大水害で今はダムの底に沈んだかつての上弓月村」
先輩曰く、元は1つの弓月集落と呼ばれる土地だったが、地すべりで分断されてから山腹に孤立した側を上弓月村、俺達の今いる山麓側を下弓月村と呼ぶようになったという。
「上弓月村が地すべりで孤立した土地になったのは昭和初期…
大きく山を迂回して移動するのは当時一苦労で…
移動できない老人たちが取り残された。
だから山麓のここ、下弓月村から手掘りのトンネルを開通して物資や手紙…
上弓月村に生家がある下弓月村の者が亡くなれば、こちらで火葬した骨壷を届けていた」
この間の夢を思い出す。
あの薄暗いトンネルの中を、どれだけの時間をかけて運ぶのか。
先に火葬してしまうここの風習はそれが由来だろう。
「トンネルから洪水が下弓月村へ流れ込まないように、上弓月村の人は御石様に願った。
本来なら洪水がトンネルから流れ込み、下弓月村の人間も死ぬはずだった。
死者の人数は変えられない。
トンネルを土砂と、岩と、家財と…
上弓月村の老人たちの体で塞いで、
御石様はその願いを叶えた」
下弓月村は誰も死ななかった。
上弓月村は誰も助からなかった。
それで死者の数は死ぬはずだった人数と同じになった。
「御石様が神様もどきだから上弓月村の人たちは死んだ…」
下弓月村の者が総出で上弓月村の老人たちの遺体をトンネルから掘り出せたのは、水が干上がってからようやくだったという。
「遺体を弔った後ー
上弓月村に家族がいた下弓月村の住人が最初に村を出て行った。
“御石様が守ってくださってるのなら、なぜ私の家族はあんな暗いトンネルの中…土砂で圧死しなければならなかったのですか”
って…」
先輩が、まるで自分を責めるように話すから。
「先輩のせいじゃないです」
俺は先輩の両肩を掴む。
ボタンを外していた先輩のシャツが肌蹴る。
違うよ?狙ってやったわけじゃないよ?
覗く先輩の素肌に荒ぶってしまう俺の鼓動。いい子だから鎮まれ…
ふと、先輩の胸元に走る傷に気づく。
真新しいものではない、古い傷だ。
その傷を俺は知っている。
転校初日、懐かしさに撫でていた御石様に走る亀裂…それと同じ傷が先輩に走っている。
「先輩がー
御石様なんですか?」
