あの夏の日、先輩は

目の前には桃色の蓮と、後ろには真っ赤な彼岸花。
気がつくと俺と先輩はそのピンクと赤のコントラストに囲まれるように立っていた。

周りは少し小高い丘になっており、来たはずの道も鬱蒼としげる木々で覆い隠されてしまっている。

綺麗な景色とか言ってる場合じゃない。遭難…俺のせいで先輩が遭難…


「この香り…蓮や彼岸花のものではないね。

この香りに誘われた人を迷い込ませるんだろう。

俺達がここに来るのは2回目だ」

「えっ」

「りょう君、神隠しって分かるかな?」

「もしかして怖い話をしようとしてます??」

「前回は“招待された”って感じで、今回は“帰さない”って気配がすごいね〜」

一体全体なぜ…

「ツクツクボウシが鳴いてる…周りの立地も違う…

ここは下弓月村になるよりも、もっと前のいつかの9月(・・・・・・・・・・・)なんだと思う」

つまり…このままだと現実に帰れなくなってここで俺と先輩はアダムとイブになってしまうと…

「俺と先輩の創世記が始まる…?」

「怖いのは分かるけど俺が守るからね、気をしっかり持つんだ」

俺のうっかり声に出していた発言に、先輩が痛ましいものを見る目を向けてくる。
YACCHIMATTA…今すぐ弁解したい。

「この場合の創世記というのはですね…」

先輩に弁解しようと向き直ったその背後、桃色の蓮群から頭1つ分高く生えている白い蓮が見えた。
俺の記憶には存在しない白い蓮。
ということは、ここから出るための手がかりかもしれない。

「先輩、あの白い蓮ー」

先輩の横をすり抜け白い蓮の近くまで走る。

「待ってりょう君、それはー」



ー蓮じゃない!


先輩の叫び声が耳に届く前に、白い蓮が俺の目の前に伸びてくる。


小さな白い、

子供の手だった。