病弱陰陽師と封鬼の娶嫁

「…は?」

以外にもそう口を開いたのは父でも牡丹でもない。
それは一際離れた場所で静かに一連の騒動を静観していた宗次郎からの声だった。彼はニコリと微笑む手前、冷たく放った言葉の威力には何処か薄気味悪ささえある。だが直ぐ父の声で空気はかき消された。

「桔梗を…五芒家が貰い受けるですと⁉ですがその娘は既に妖のお手付き済み。そんな穢れ者を五芒家へ嫁がせるなど。穢れた血が陰陽師の血と交わるなどあってはなりません!」

両親の必死めいた形相に五芒は何食わぬ顔をすればチヨを抱き上げる。

「わざわざ説明が必要か?所詮は下弦程度のお前達に拒否権を与えたつもりなどない。口を慎め」

強い陰陽師のオーラに威圧されればひとたまりもない。
先日の優しさは何処へやら。
五芒の冷酷さに両親は恐れ慄き非礼を詫びれば、次に五芒は穏やかな表情に戻り桔梗を見つめた。

「俺の式が君を認めている。鬼の刻印がされた龍の加護を受け継ぐ者よ。桔梗、今日をもって君を我が五芒家当主・五芒斗李(ごぼうとうり)の花嫁とする」

にこやかに微笑んだ斗李の顔は桔梗一筋に向けられていた。そんな様子を牡丹は一人憎悪の感情を隠すことなく凄い剣幕で桔梗を睨みつけていた。鬼に娶られ邪気を宿した穢れ者。華族の落ちこぼれ。加護すら失った無能な姉。それを五芒様が見初めたですって?牡丹は悔しくて一人歯を食いしばっていた。五芒が桔梗を連れて部屋を出ようとすれば焦った父が声を荒げる。

「なぜです!なぜそのような娘を!妖の刻印など五芒家にどんな災いを及ぼすか…もしものことがあれば」
「それほど己の地位が心配か?安心しろ、お前達が勝手な真似さえしなければ陰陽師は華族に協力を惜しまないと誓おう。だが桔梗に手を出せばその時は容赦はしない」

念を押して去っていく後ろ姿に悔やむ父。
だがやがて確信をついたように顔を上げた。

「……いや、これは好都合かもしれん。面倒な穢れ者が一族から消えたのだ。五芒家にどんな災いを及ぼそうと所詮は病弱なあの小童一人に何ができる。陰陽師など当主は幾らでも務まろう。華族の地位は盤石。加護ある十二華族がそれを証明してるではないか」
「厄介払いできるのなら、むしろ宜しいのではなくて?」

両親の謎の納得力に牡丹は暗い顔をしていた。

「五芒様の花嫁がお姉様だなんて許さない」

不意に放った冷たい声も嬉しがる両親には聞こえていないよう。宗次郎は未だニコニコと笑いながら立ち上がれば「僕も行きます」と牡丹の呼び止める声に目も暮れず退散する。脳裏に浮かぶ五芒に手を引かれた桔梗。おかしい…君の隣にいるのは自分であった筈なんだと宗次郎は変な感情に駆られた。

「桔梗を陰陽師の花嫁に?そんなの僕が絶対に許しませんよ(笑)」