病弱陰陽師と封鬼の娶嫁

「聞いたかい、五芒様が辰ノ宮家にいらしてるそうだ。なんでも面を付けていて素顔が分からないときた」

次の日、桔梗の耳に入ったのは五芒様の訪問の知らせだった。突然の訪問に一同は驚愕するも直ぐに置くの部屋に通されたらしい五芒様は父が接待をしている真っ最中だという。見た目は不明だが顔を面で隠し、だいぶやつれた風貌をしていると言う。

「病弱な噂は本当だったようだね。聞けば華族の中から花嫁候補を探すべく各地を転々としてるみたいだよ」
「またなんで花嫁なんか」
「五芒家当主の座を狙って内乱が起きてるそうなんだ。前当主の直系の子とはいえ、今の当主様は病弱だし陰陽業にも支障が出ている。血の薄れも危惧して華族から加護の強い娘を娶るって噂だよ」

そんな理由があったのかと桔梗は女中達の話を盗み聞きしていた。早々に残飯の入った器を突き出されれば出てけ!と怒鳴られてしまったので逃げるように帰ってれば目の前には見知った子供。

「チヨちゃん?」
「あい?あい!花嫁しゃまでしゅ!!」

桔梗に気付いたチヨは大喜びで駆け寄ってくる。

「チーちゃん待ってたのよ?」
「もしかしてまたあの方が倒れちゃったの?」
「チーちゃん花嫁しゃま迎え来たでしゅよ」
「む、迎え?」

ひとまず彼は元気らしいので桔梗が安心していれば急にチヨは手を引いて走り出す。今度は何事かと桔梗が笑って相手していればチヨが向かう方向に違和感を覚えた。そっちは辰ノ宮家の本殿しかない。それなのにチヨは気にせず敷地内を跨げば桔梗を本殿に誘導しようとしていた。

「チ、チヨちゃん⁈ダメよここは辰ノ宮家の本殿よ?」
「あい!」
「チヨちゃん戻ろ?あの方は何処?」

だがチヨは聞く耳を持たずついに桔梗を連れて本殿に入ってしまった。廊下をすり抜けて視界が開ければ大広間に出る。そこでは父達が五芒様と会合の真っ最中だった。桔梗は顔を真っ青にさせた。

「桔梗?なぜお前がここに⁈」

突然現れた桔梗に父はビックリするも直ぐに怒った顔で睨みつける。

「無礼者が!五芒様を前にその穢れを晒すでない!早々にここから立ち去らんか!!」
「も、申し訳ありません!」

そこには父に加え、脇には母、牡丹、一つ間をおいて宗次郎も控えていた。牡丹はこの失態を静かに笑って観察していた。桔梗は体を震わせ首を垂れて謝罪すれば何も言わない彼を横目に父が慌てた様子で頭を下げた。

「申し訳ございません。ウチのものが大変失礼を。今後よく言って厳しく罰しますので(笑)」
「必要ない」
「は?」

だが当の本人は不意に声を漏らせば立ち上がる。
静かな動作で移動する度、袴の布が擦れた音だけが響き一同は息を吞んで彼の動向を見守っていたが、やがて音は桔梗の目の前で止まれば静かにその場に座り込んだ。

「桔梗」

名前を呼ばれ、驚いて顔を上げれば面の男は笑っていた。
だが見覚えのある白い肌に白い袴。
その声はあの時の声そのまま彼のものだった。

「久しぶりですね。約束通り会いに来ましたよ」
「貴方はあの時の…まさか貴方が五芒様⁈」
「こんな姿で失礼、色々と事情があるんです。チヨが働いてくれたようで良かった」

桔梗の横ではチヨがニコニコと二人を見守れば「あい!」と元気な返事をした。それを合図に彼は立ち上がれば驚いて未だ動けずにいる父を見つめその口を開く。

「辰ノ宮桔梗を我が花嫁に迎え入れたい」