その夜、桔梗の元を訪れたのは意外なお客様だった。
「あい、あい!!」
「んん…え?」
「あい、あいー!」
「あれ?え、チヨちゃん?なんでここにいるの??」
埃の被った粗末な布団上、ペチペチと叩いて自分を起こすのはチヨだった。相変わらず小さな手で片手には手毬を抱えていたが、今日は何処か焦った顔でニコニコ笑顔も泣きそうな顔をしていた。
「どうしたの?あの方と一緒じゃなかったの」
「コッチ、コッチ行くでしゅ!!」
「え、ちょっと待って、、」
チヨは桔梗の腕を掴めばテクテクと小さな足をしきりに動かす。そのまま外の暗い夜道を引っ張られれば、やがて小脇の道に入っていく。やがて奥には大きな社が見えてきて桔梗はビックリしてしまった。こんな場所に社なんてあった?記憶にない社の存在には桔梗も不気味がるもチヨは必死に腕を引っ張ってくる。
「当主様!当主様のとこ行くでしゅ!!」
「え、当主様??」
「あっち!あっち行くでしゅ!!」
チヨに案内されて社を潜れば本殿の階段前、そこにはこの間の男性が倒れていた。桔梗が駈け寄れば意識はあるも相変わらず苦しそうにしていた。
「君…は、、、」
「大丈夫ですか⁈チヨちゃんに連れられて助けに来ました」
「それは助かるな…でも困ったな(笑)。この暴走は抑えられそうにない」
「暴走?」
すると彼の胸元からは黒い煙が漏れ出ているのが見えた。
また…あの時と同じ。
その煙はとても嫌悪感が漂い、彼を内側から苦しめているようだ。見かねたチヨが「ここに置くの!」と桔梗の手を取ればすかさず彼の胸元に押し付けた。
「チヨ?オマエ何をして」
「あい、あ~い!!当主様元気いっぱい!ぱい!」
「え、噓…だろ、、、」
煙は桔梗の手を置いた途端、パッと消えて無くなってしまった。
それを最後に苦しそうにしていた彼もまた顔色が良くなっていき、目の前でおきた現象に驚きを隠せずにいた。
「一体どうやって…今までこの呪いを浄化できたことはなかったのに」
「あの…」
「っと、失礼。驚かせてしまったね。もう大丈夫。君のお陰で助かったよ。君、名前は?」
「あ、辰ノ宮桔梗です」
「辰ノ宮…あの龍の式を持つ一族か。そういえば君からも龍の匂いを感じるね。しかもかなり強大な。俺がいながらなぜ出てこないんだ?」
「え…それどういう」
桔梗がビックリしていればやや血色の悪い白い肌が目立つ彼はゆっくりと起き上がる。チヨはニコニコ笑って「ご当主様!」と足に抱きついていた。
「ここは五つある属性のうちの一つ、水神の社だ。亀裂の騒動を聞きつけて参内してみればコッチに邪魔されてね。お陰で祓いきれなかった残影を山に散らしてしまった。後で片付けておかないと」
「あの…貴方は一体」
「はは、怪しい者じゃありませんよ。この通り、普段は神職をしていますが人手不足でして。最近は都でも妖による出没被害が後を絶たない。陰陽師の隙をついて社を穢す輩もいるのですよ。特に夜はね」
辺りには討伐した後なのか、妖らしき残骸が数体転がっていた。妖を見たのはあの時以来だった為か、過去の記憶を呼び起こし身震いしてしまった。
「陰陽師の方でしたか。大変失礼致しました」
「怖いですか?」
「え、あ、」
「当然です。華族の方は妖に嫌悪と抵抗があります。陰陽師はそんな華族を保護し皇國を守る。華族に式を献上した過去を持つのは陰陽師の人手不足からくる華族の被害を低減する為です。彼らがいなければ政治は成り立たない」
陰陽師と言えば五芒家の人間を指す。
この方は陰陽師であるのと同時にこの社は五芒家の所有する五芒星の社の一角。水神の社なのは、辰ノ宮家や真睦家といった龍や蛇の式が水に精通する生き物故に相性がいいから。そんな式は華族を加護し陰陽師から承ったもの。それ無くして華族の地位は無いも同然。
「如何せん華族と陰陽師は相性が悪い。妖が消えぬ以上、総力を上げても無意味も無意味ですが。まあいいでしょう。チヨの力で君をここまで連れて来てしまったようだ。この子がここまで誰かに懐つくなんてまずないのに…」
「あい、あい!」
「ん?なんだい??」
チヨが彼の袴の裾を引っ張る。
興味深そうに顔を桔梗に向けながら。
「この人、お嫁様でしゅよ!!」
「え?」
チヨはニコニコと桔梗を指させば瞳が隠れた眼帯を見つめた。刻印は本来鬼が娶ろうとして桔梗を取り逃がした結果である。大妖怪ともなれば次に桔梗を逃がすことはしないだろう。加護のない生身の体で桔梗は日々恐怖と戦っていた。
「桔梗といったか。君の瞳に宿る鬼の力…とても高度だが上手く蓋がされてるようだね」
「どういう意味ですか?」
「その眼帯はさほど意味がないんだ。力が弱すぎる。俺には今も君から鬼の力が漏れ出ているのを感じるよ。けれど当の本人である鬼は君を迎えにこない。普通なら娶られていても可笑しくはないのに」
「そんな!でも妖と遭遇したのは過去その一回だけで。それからは一度も、ましてや鬼なんて見ていません!!」
「それが不思議なんだ…それに何故君の龍は表に出てこない。俺の中に宿るこの呪いと何か関係があるのかな?色々と知りたいことだらけだけど一つ確かなことがあるよ」
彼は桔梗に近づくと至近距離で顔を見つめる。
月明かりに照らされた彼は人間とは思えない綺麗な顔で静かに微笑めば、やがて桔梗の手を取る。
「可愛いお嬢さん。俺は君に興味が沸いた。今度また会いに来るよ」
「え、それって、、、」
彼が微笑むと下にいたチヨが「あ~い!」と手を叩く。
すると桔梗は次に目を開くと自分の小屋に戻っていた。
幻?だか確かにさっきまで社にいた筈だ。それは手に持つこの鞠が証明していた。
「これチヨちゃんの」
どうしよう…これがないと泣くかもしれない。
自分のおもちゃがないって今頃泣いていたら…そう思うも桔梗は会える保証のない彼らにどう会おうか考えたが諦めてしまうのだ。
「あい、あい!!」
「んん…え?」
「あい、あいー!」
「あれ?え、チヨちゃん?なんでここにいるの??」
埃の被った粗末な布団上、ペチペチと叩いて自分を起こすのはチヨだった。相変わらず小さな手で片手には手毬を抱えていたが、今日は何処か焦った顔でニコニコ笑顔も泣きそうな顔をしていた。
「どうしたの?あの方と一緒じゃなかったの」
「コッチ、コッチ行くでしゅ!!」
「え、ちょっと待って、、」
チヨは桔梗の腕を掴めばテクテクと小さな足をしきりに動かす。そのまま外の暗い夜道を引っ張られれば、やがて小脇の道に入っていく。やがて奥には大きな社が見えてきて桔梗はビックリしてしまった。こんな場所に社なんてあった?記憶にない社の存在には桔梗も不気味がるもチヨは必死に腕を引っ張ってくる。
「当主様!当主様のとこ行くでしゅ!!」
「え、当主様??」
「あっち!あっち行くでしゅ!!」
チヨに案内されて社を潜れば本殿の階段前、そこにはこの間の男性が倒れていた。桔梗が駈け寄れば意識はあるも相変わらず苦しそうにしていた。
「君…は、、、」
「大丈夫ですか⁈チヨちゃんに連れられて助けに来ました」
「それは助かるな…でも困ったな(笑)。この暴走は抑えられそうにない」
「暴走?」
すると彼の胸元からは黒い煙が漏れ出ているのが見えた。
また…あの時と同じ。
その煙はとても嫌悪感が漂い、彼を内側から苦しめているようだ。見かねたチヨが「ここに置くの!」と桔梗の手を取ればすかさず彼の胸元に押し付けた。
「チヨ?オマエ何をして」
「あい、あ~い!!当主様元気いっぱい!ぱい!」
「え、噓…だろ、、、」
煙は桔梗の手を置いた途端、パッと消えて無くなってしまった。
それを最後に苦しそうにしていた彼もまた顔色が良くなっていき、目の前でおきた現象に驚きを隠せずにいた。
「一体どうやって…今までこの呪いを浄化できたことはなかったのに」
「あの…」
「っと、失礼。驚かせてしまったね。もう大丈夫。君のお陰で助かったよ。君、名前は?」
「あ、辰ノ宮桔梗です」
「辰ノ宮…あの龍の式を持つ一族か。そういえば君からも龍の匂いを感じるね。しかもかなり強大な。俺がいながらなぜ出てこないんだ?」
「え…それどういう」
桔梗がビックリしていればやや血色の悪い白い肌が目立つ彼はゆっくりと起き上がる。チヨはニコニコ笑って「ご当主様!」と足に抱きついていた。
「ここは五つある属性のうちの一つ、水神の社だ。亀裂の騒動を聞きつけて参内してみればコッチに邪魔されてね。お陰で祓いきれなかった残影を山に散らしてしまった。後で片付けておかないと」
「あの…貴方は一体」
「はは、怪しい者じゃありませんよ。この通り、普段は神職をしていますが人手不足でして。最近は都でも妖による出没被害が後を絶たない。陰陽師の隙をついて社を穢す輩もいるのですよ。特に夜はね」
辺りには討伐した後なのか、妖らしき残骸が数体転がっていた。妖を見たのはあの時以来だった為か、過去の記憶を呼び起こし身震いしてしまった。
「陰陽師の方でしたか。大変失礼致しました」
「怖いですか?」
「え、あ、」
「当然です。華族の方は妖に嫌悪と抵抗があります。陰陽師はそんな華族を保護し皇國を守る。華族に式を献上した過去を持つのは陰陽師の人手不足からくる華族の被害を低減する為です。彼らがいなければ政治は成り立たない」
陰陽師と言えば五芒家の人間を指す。
この方は陰陽師であるのと同時にこの社は五芒家の所有する五芒星の社の一角。水神の社なのは、辰ノ宮家や真睦家といった龍や蛇の式が水に精通する生き物故に相性がいいから。そんな式は華族を加護し陰陽師から承ったもの。それ無くして華族の地位は無いも同然。
「如何せん華族と陰陽師は相性が悪い。妖が消えぬ以上、総力を上げても無意味も無意味ですが。まあいいでしょう。チヨの力で君をここまで連れて来てしまったようだ。この子がここまで誰かに懐つくなんてまずないのに…」
「あい、あい!」
「ん?なんだい??」
チヨが彼の袴の裾を引っ張る。
興味深そうに顔を桔梗に向けながら。
「この人、お嫁様でしゅよ!!」
「え?」
チヨはニコニコと桔梗を指させば瞳が隠れた眼帯を見つめた。刻印は本来鬼が娶ろうとして桔梗を取り逃がした結果である。大妖怪ともなれば次に桔梗を逃がすことはしないだろう。加護のない生身の体で桔梗は日々恐怖と戦っていた。
「桔梗といったか。君の瞳に宿る鬼の力…とても高度だが上手く蓋がされてるようだね」
「どういう意味ですか?」
「その眼帯はさほど意味がないんだ。力が弱すぎる。俺には今も君から鬼の力が漏れ出ているのを感じるよ。けれど当の本人である鬼は君を迎えにこない。普通なら娶られていても可笑しくはないのに」
「そんな!でも妖と遭遇したのは過去その一回だけで。それからは一度も、ましてや鬼なんて見ていません!!」
「それが不思議なんだ…それに何故君の龍は表に出てこない。俺の中に宿るこの呪いと何か関係があるのかな?色々と知りたいことだらけだけど一つ確かなことがあるよ」
彼は桔梗に近づくと至近距離で顔を見つめる。
月明かりに照らされた彼は人間とは思えない綺麗な顔で静かに微笑めば、やがて桔梗の手を取る。
「可愛いお嬢さん。俺は君に興味が沸いた。今度また会いに来るよ」
「え、それって、、、」
彼が微笑むと下にいたチヨが「あ~い!」と手を叩く。
すると桔梗は次に目を開くと自分の小屋に戻っていた。
幻?だか確かにさっきまで社にいた筈だ。それは手に持つこの鞠が証明していた。
「これチヨちゃんの」
どうしよう…これがないと泣くかもしれない。
自分のおもちゃがないって今頃泣いていたら…そう思うも桔梗は会える保証のない彼らにどう会おうか考えたが諦めてしまうのだ。



