十二華族を五芒様が訪問されてるらしい。
その噂を聞きつけたのはそれから数日のことだった。
辰ノ宮家では本格的に次期後継者となる牡丹とその婿入り養子を決めるべく、五芒様の件と並行して家中が騒がしくしていた。
「来な、あんたを当主様がお呼びだよ」
女中が小屋を尋ねてくれば、桔梗は父達のいる本殿に通された。中には父、母、牡丹、その他の人間達が腰かけた状態で待機しており、その中には幼馴染である宗次郎の姿も確認できた。目が合った宗次郎は嬉しそうに笑いかけてくれるけれど…それをよく思わない牡丹が横から睨んできた。
「辰ノ宮家の後継者を決めるにあたり婿養子をとることとなった。分かっているとは思うが、次期辰ノ宮家の後継者は牡丹だ。これに加え、我が家では婿養子に真睦家から宗次郎を迎え入れることにした」
その言葉に桔梗は落胆した。
もしかしたら…なんて、それでも僅かな望みがなかった訳ではない。幼馴染の宗次郎とは仲も良かったし、自分が加護を持っていた当初は互いに婚約者候補として話も上がっていたのだ。それでも式神の加護を失った今、桔梗にとってそれは過去の思い出でしかない。
「異論はないな。牡丹、宗次郎、辰ノ宮家を頼んだぞ」
父の声に牡丹は嬉しそうに微笑めば宗次郎を見つめる。
宗次郎は一瞬チラリと桔梗を一瞥するも静かに頷いた。宗次郎は旧五芒家の父親を婿養子に持つ上弦華族の家系に生まれた次男で、辰ノ宮家では唯一繋がりを持てた上弦華族であったことを利用し、父は宗次郎に目を付けた。
「宗次郎、しっかりやれよ」
「はい」
周りから期待される彼の顔は何処か冷めていたが笑っていた。桔梗は早々に知らせを聞き終えれば部屋を後にする。だが戻る途中、「待って桔梗!」と後ろからは宗次郎に呼び止められた。
「宗ちゃん?なんでここに…皆は?」
「会議は終わったでしょ。やっと会えたと思ったら直ぐに帰っちゃうんだもん」
「穢れ者がいつまでも本殿にいたら皆の迷惑だから」
「穢れ者って…」
桔梗の言葉に宗次郎は眉をひそめた。
相変わらず感情の読めない顔で笑っていたが、引くついている顔を見ればそれは彼からしたら否定的な言葉であって、彼の中で桔梗が穢れ者として移ることはないと言えた。
「それは皆が勝手に言ってる言葉だろ。君は穢れ者なんかじゃない」
「それでも私には妖怪につけられた刻印がある。この刻印は私を娶ろうとした鬼がつけた足跡。宗ちゃんも見たでしょ?」
「君が牡丹を突き飛ばしたなんて僕は信じないよ。何年君を見てきたと思ってんの?できれば君を助けたかった。あの日の事、今でも後悔してるんだ、、」
宗次郎は一歩桔梗に近づいた。
だが直ぐに後ろに下がる桔梗に寂しそうに笑いかけた。
「宗ちゃん、ウチに婿入りするんですってね」
「うん、牡丹さんとの婚約は前から決まっていたけどね。辰ノ宮様が強く推薦したみたいで婿養子に決まったんだ。次男の僕は家を継げないし。これでも式の加護は強いから好都合なんだよ。親も二つ返事で了承した」
宗次郎の家は序列五位と上弦でも上の階級。
蛇の加護を受け継ぐ真睦家は金運の華族と称され、財と富に恵まれた一族だった。それを証明するのが白蛇の式だ。宗次郎は真睦家の中で特に加護に秀でた人間ではあったが、強欲な兄との兄弟仲は最悪で逆上を買わぬよう常に感情を押し殺し、家に従い続ける肩身の狭い生き方をしていた。
そんな時、転機が訪れた。
同じ蛇属である辰ノ宮家との顔合わせで桔梗と出会い、二人は仲良くなったのだ。その頃から二人は互いに惹かれ合い、野心に飢えた華族の中、穢れのない桔梗の存在が宗次郎を刺激した。
「宗ちゃんが来てくれて良かった。牡丹一人じゃ不安だったし」
「はは、そうだね。僕も嬉しいよ。嬉しい…のかな」
だが不意に宗次郎は笑っていた顔を無にさせる。
「ダメだ…ねえ桔梗、僕ちっとも嬉しくなんてないや。辰ノ宮家に婿入りできれば桔梗といられるって。あんな家に帰らなくて済むって喜んでいた筈なのに。なのになんで…なんで僕の隣には桔梗がいてくれないんだろう」
「…宗ちゃん」
「約束したの覚えてる?大きくなったら結婚しようって。僕は片時も忘れたことなかったよ」
不意に愛おしそうな目が桔梗を見つめる。
静かに伸ばした宗次郎の手が桔梗に届こうとしたその時、背後では誰かの足音が聞こえた。そこにいたのは牡丹だった。
「宗次郎さん、ここにいらしたの?探したんですよ」
「…牡丹さん」
「ここでお姉様とは何を?穢れ者に近づかれては困りますわ」
「穢れ者?桔梗は穢れてなんていませんよ」
「なんですって?まさか宗次郎さん、お姉様に肩入れしようだなんて考えているつもりじゃありませんわよね?誰が貴方の婚約者であるかをお忘れで?」
怒った顔の牡丹が苛立ち気に宗次郎の腕を掴む。
二人を早くも引き剝がそうと必死だった。
そんな牡丹を冷たく一瞥した宗次郎はまた直ぐに笑顔に戻れば振り返る。
「まさかそんなつもりありませんよ(笑)。懐かしくて少し挨拶していただけですから。どうか気を鎮めて下さい」
「…そう、ならいいの。早く行きましょ!宗次郎さんがいなくなって皆探してますよ」
「はい」
牡丹はチラリと桔梗を見ればニッと笑って宗次郎に腕を絡める。遠ざかっていく二人の姿に桔梗は胸の奥が締め付けられる気分に襲われた。ここにいたくない。急いで二人を見ないよう走り去った。
その噂を聞きつけたのはそれから数日のことだった。
辰ノ宮家では本格的に次期後継者となる牡丹とその婿入り養子を決めるべく、五芒様の件と並行して家中が騒がしくしていた。
「来な、あんたを当主様がお呼びだよ」
女中が小屋を尋ねてくれば、桔梗は父達のいる本殿に通された。中には父、母、牡丹、その他の人間達が腰かけた状態で待機しており、その中には幼馴染である宗次郎の姿も確認できた。目が合った宗次郎は嬉しそうに笑いかけてくれるけれど…それをよく思わない牡丹が横から睨んできた。
「辰ノ宮家の後継者を決めるにあたり婿養子をとることとなった。分かっているとは思うが、次期辰ノ宮家の後継者は牡丹だ。これに加え、我が家では婿養子に真睦家から宗次郎を迎え入れることにした」
その言葉に桔梗は落胆した。
もしかしたら…なんて、それでも僅かな望みがなかった訳ではない。幼馴染の宗次郎とは仲も良かったし、自分が加護を持っていた当初は互いに婚約者候補として話も上がっていたのだ。それでも式神の加護を失った今、桔梗にとってそれは過去の思い出でしかない。
「異論はないな。牡丹、宗次郎、辰ノ宮家を頼んだぞ」
父の声に牡丹は嬉しそうに微笑めば宗次郎を見つめる。
宗次郎は一瞬チラリと桔梗を一瞥するも静かに頷いた。宗次郎は旧五芒家の父親を婿養子に持つ上弦華族の家系に生まれた次男で、辰ノ宮家では唯一繋がりを持てた上弦華族であったことを利用し、父は宗次郎に目を付けた。
「宗次郎、しっかりやれよ」
「はい」
周りから期待される彼の顔は何処か冷めていたが笑っていた。桔梗は早々に知らせを聞き終えれば部屋を後にする。だが戻る途中、「待って桔梗!」と後ろからは宗次郎に呼び止められた。
「宗ちゃん?なんでここに…皆は?」
「会議は終わったでしょ。やっと会えたと思ったら直ぐに帰っちゃうんだもん」
「穢れ者がいつまでも本殿にいたら皆の迷惑だから」
「穢れ者って…」
桔梗の言葉に宗次郎は眉をひそめた。
相変わらず感情の読めない顔で笑っていたが、引くついている顔を見ればそれは彼からしたら否定的な言葉であって、彼の中で桔梗が穢れ者として移ることはないと言えた。
「それは皆が勝手に言ってる言葉だろ。君は穢れ者なんかじゃない」
「それでも私には妖怪につけられた刻印がある。この刻印は私を娶ろうとした鬼がつけた足跡。宗ちゃんも見たでしょ?」
「君が牡丹を突き飛ばしたなんて僕は信じないよ。何年君を見てきたと思ってんの?できれば君を助けたかった。あの日の事、今でも後悔してるんだ、、」
宗次郎は一歩桔梗に近づいた。
だが直ぐに後ろに下がる桔梗に寂しそうに笑いかけた。
「宗ちゃん、ウチに婿入りするんですってね」
「うん、牡丹さんとの婚約は前から決まっていたけどね。辰ノ宮様が強く推薦したみたいで婿養子に決まったんだ。次男の僕は家を継げないし。これでも式の加護は強いから好都合なんだよ。親も二つ返事で了承した」
宗次郎の家は序列五位と上弦でも上の階級。
蛇の加護を受け継ぐ真睦家は金運の華族と称され、財と富に恵まれた一族だった。それを証明するのが白蛇の式だ。宗次郎は真睦家の中で特に加護に秀でた人間ではあったが、強欲な兄との兄弟仲は最悪で逆上を買わぬよう常に感情を押し殺し、家に従い続ける肩身の狭い生き方をしていた。
そんな時、転機が訪れた。
同じ蛇属である辰ノ宮家との顔合わせで桔梗と出会い、二人は仲良くなったのだ。その頃から二人は互いに惹かれ合い、野心に飢えた華族の中、穢れのない桔梗の存在が宗次郎を刺激した。
「宗ちゃんが来てくれて良かった。牡丹一人じゃ不安だったし」
「はは、そうだね。僕も嬉しいよ。嬉しい…のかな」
だが不意に宗次郎は笑っていた顔を無にさせる。
「ダメだ…ねえ桔梗、僕ちっとも嬉しくなんてないや。辰ノ宮家に婿入りできれば桔梗といられるって。あんな家に帰らなくて済むって喜んでいた筈なのに。なのになんで…なんで僕の隣には桔梗がいてくれないんだろう」
「…宗ちゃん」
「約束したの覚えてる?大きくなったら結婚しようって。僕は片時も忘れたことなかったよ」
不意に愛おしそうな目が桔梗を見つめる。
静かに伸ばした宗次郎の手が桔梗に届こうとしたその時、背後では誰かの足音が聞こえた。そこにいたのは牡丹だった。
「宗次郎さん、ここにいらしたの?探したんですよ」
「…牡丹さん」
「ここでお姉様とは何を?穢れ者に近づかれては困りますわ」
「穢れ者?桔梗は穢れてなんていませんよ」
「なんですって?まさか宗次郎さん、お姉様に肩入れしようだなんて考えているつもりじゃありませんわよね?誰が貴方の婚約者であるかをお忘れで?」
怒った顔の牡丹が苛立ち気に宗次郎の腕を掴む。
二人を早くも引き剝がそうと必死だった。
そんな牡丹を冷たく一瞥した宗次郎はまた直ぐに笑顔に戻れば振り返る。
「まさかそんなつもりありませんよ(笑)。懐かしくて少し挨拶していただけですから。どうか気を鎮めて下さい」
「…そう、ならいいの。早く行きましょ!宗次郎さんがいなくなって皆探してますよ」
「はい」
牡丹はチラリと桔梗を見ればニッと笑って宗次郎に腕を絡める。遠ざかっていく二人の姿に桔梗は胸の奥が締め付けられる気分に襲われた。ここにいたくない。急いで二人を見ないよう走り去った。



