病弱陰陽師と封鬼の娶嫁

二度目の診察日。
斗李は陰陽寮での公務が入っており、病院までは桔梗一人で来院した。それでも心配性な斗李は何かあっては困ると、数ある式神のうち攻撃と守備の二つに優れた風神・雷神夫婦である式達を護衛につけてくれた。

「おや、チヨも連れてきたのかい」

大先生は膝上に腰掛けるチヨを撫でれば小さな幼女はニコニコと笑う。どうしても一緒に行くと泣いて聞かないチヨに半ば諦めた顔の斗李が了承すれば今日は桔梗と共に行動している。

「チヨちゃんの癒しパワーが手元にないので。斗李様は大丈夫でしょうか?」
「その点は問題ない。花嫁である君を迎えた時点で契約は結ばれた。斗李様の呪いは君のお陰で軽減されているだろう」
「そうですか…なら良かったです」

今日は亀裂の入った社の管理と帝都のパトロール。
他の部隊を引き連れ、病み上がりの体で陰陽師の公務にあたる斗李が心配だったが国を妖から守る為だ。

「瞳の具合いはどうだい?」
「薬のお陰で臭いが薄くなりました。前までは妖を寄せ付ける強さだと聞いて警戒していましたが、体も軽く感じます」
「それは良かった。確かに前の状態は危険だった。封鬼といったか。その瞳の刻印の原因さえ把握できればいいんだが…今の化学でそこまで探知はできなくてな」
「そうですか…その、斗李様の持つ呪いとこの瞳の刻印。何か意味はあるのでしょうか」

ずっと気になっていた。
斗李の呪いは祖先からくる酒呑童子のものであるが、その呪いを吸収する瞳の刻印。その分、薬に頼らなければ臭いが濃くなってしまう。

「刻印が少し濃くなったかな。その刻印の主は君を娶る大妖怪。それが鬼であることしか分からない。だが本来、妖にとって人間とは捕食以外の目的を持たない。執着の域が外れている」
「え、じゃあ私は…本当に鬼に娶られたんですか?」
「そう考えるのが妥当だろう。どんな理由であれ、刻印は所有物の証。向こうは君の居場所を把握し、結界の外から君を手に入れる機会を伺っている」
「!!」

桔梗はガタガタと震え出した。
鬼が私を待っている?
結界の中にいるから安全だと思っていたが、相次ぐ五芒の社の亀裂問題。その隙間から今も大妖怪達が帝都を襲おうと侵入している状態だ。もしも騒ぎに応じて鬼が結界を潜り抜けるようなことがあれば…。

「彼に嫁いだのは正解だったかもな。君達は互いに救い助け合う運命なのだ。気を付けなさい」

診察を終えれば外は曇り空。
風神・雷神夫婦を使役中は天候が荒れやすい。
斗李様からは事前にそう言われていたのを思い出す。
護衛の式が後ろに二人、チヨと手を繋げば陰陽寮の控え室に引き返す。

『見つけたよ。穢れた血』

その声は何処からともなく聞こえてくれば辺りには雷が鳴り響き、目の前には牡丹が立っていた。突然現れた牡丹の存在に桔梗はビックリする。

「牡丹?どうして貴方がここに」
「お姉様、五芒様の花嫁の座から消えて貰うわ」
「どういうこと…」
「私こそが五芒様に相応しい花嫁になるの。辰ノ宮家の皆は誰も味方になってくれなかった。だから私がお姉様をその座から引きずり下ろす。穢れ者はさっさと妖に食われればいい」

狂気に満ちた牡丹は何処か様子がおかしい。
背後に現れた龍は青から今は黒く変色していて、牡丹もまた瞳にハイライトを無くした増悪の顔で桔梗を睨みつけていた。式達が前に躍り出れば、チヨが「あい!」と上を指さす。次の瞬間、辺りには妖達が四方八方、桔梗達を取り囲んでいた。桔梗は体から血の気が引いていくのを感じた。