病弱陰陽師と封鬼の娶嫁

牡丹の言葉に耳を疑った。

「ごめん…なんて言ったのかな」
「だ~か~ら、宗次郎さんにお姉様を返すって言ってんの」

今朝も早くから呼び出されていた。
まあ家で兄の相手をするよりはマシかと、今日はどんな我儘に付き合わされるのかな~と牡丹の元を訪ねてみれば、返ってきたのは意外な一言だった。

「私、五芒様の元にお嫁に行きたいんです!この前の土蜘蛛事件で初めて素顔を見たけど、とても美しい顔立ちの殿方でしたわ。彼の式に命を救われて。戦う陰陽師としての姿もカッコよくて。だから五芒家にお嫁に行きたいんです」
「…牡丹、お前は一体何を言っているのだ」

側で聞いていた牡丹の父は呆れていた。
宗次郎との婚約は解消。
辰ノ宮家の後継者争いからも辞退。
牡丹は全てを投げ出してでも五芒様に惚れたので、お嫁に行きたいと言う。こんな時でさえ、宗次郎は一人笑って話を聞いていた。だがその反面、心には何か良くない欲さえ生まれつつあった。

「五芒様は桔梗を花嫁にと選んだ。それを今になって取り消すなど、」
「それでも!今の五芒家には強い華族の娘が必要でしょ?私は式の加護も強いし、穢れ者のお姉様なんかよりもよっぽど五芒様のお役に立てるわ。辰ノ宮家の人間なら私であってもいい筈よ」

顔を輝かせて話し出す牡丹は何度も説得をしていたが、父は最後まで首を立てに振ることを良しとはしなかった。

「ならん。桔梗を辰ノ宮家の後継者に、お前を五芒の花嫁に送るなど。この話は以前の会合で既に済んだ問題。お前は宗次郎と辰ノ宮家を継ぐのだ」
「どうして…どうしてダメなのよ!」
「ダメなものはダメだ。穢れ者を連れ戻すなど。宗次郎、牡丹を連れて行きなさい」

不貞腐れる牡丹は怒ったように部屋を出ていった。
宗次郎は笑顔の崩さない顔のまま頭を下げれば、後について部屋を出る。廊下の先、そこでは牡丹が悔しそうに指を噛んでいるのが見えた。

「牡丹さん、部屋に戻りましょう。体を冷やします」
「宗次郎さんはどう思うの?」
「何がです?」
「私が五芒に行く件よ。お姉様のこと好きなんでしょう?婿養子なら辰ノ宮の娘と結婚は避けられない。五芒家に嫁げたら私がお姉様を辰ノ宮に帰すよう説得するから。そしたら宗次郎さんもお姉様と結婚できるのよ?悪くない話じゃない」
「……僕は、、、分かりません」
「っ、何よ…それ。宗次郎さんっていつもそう。何を考えているか分からない」

変わらない笑顔。
黙って見据える宗次郎に牡丹は落胆した。
本当はお姉様が好きで好きでたまらないくせに。
それに態と気づかないふりして気丈に立ち振る舞う姿がイライラして仕方なかった。どれだけ頑張ってもこの男はそれ以上の視線を牡丹に向けることはしない…ただ一人を除いて。
初恋の相手は家庭の境遇からか感情に疎い。
何を考えているのかサッパリだ。

「もういい!」
「あれ?牡丹さん、どちらに行くんですか?」
「着いてこないで。一人になりたいの」

牡丹は冷たく言い放てば宗次郎の元を離れて行く。
父もダメ。
初恋の婚約者もダメ。
大嫌いな穢れ者の姉は最愛の人の花嫁。
全てが納得できなかった。