病弱陰陽師と封鬼の娶嫁

土蜘蛛の出没騒動に陰陽寮では陰陽師達が街を閉鎖し、妖退治を開始した。知らせを聞きつけた斗李は目撃のあった場所へ向かう中、桔梗の行方を探していた。人々の行き交う都内。捜索は難航だった。あの状態で妖と遭遇すれば非常にマズイ…桔梗どこにいるんだ。斗李は冷や汗が止まらなかった。

「ボス、こっちにはいねーぞ!!」

屋根の上では討伐部隊壱番隊隊長・群青寺彰人(ぐんじょうじあきと)が二刀を振り回し大声で叫んだ。伝令によれば土蜘蛛は土神の社に亀裂が入ったことで帝都に侵入してきた母蜘蛛。腹に子を宿していたが不運にも出産。多くの子蜘蛛を産み落としたことで都は大混乱に陥り、重度の飢餓状態となった母子が人間を襲おうと暴れてるという。

「壱番隊はこれより先、弐と合流して東から回れ。俺はここで妖を止める」
「はいよ。一人で平気か?その体じゃ術が持たねーぞ」
「舐めるな。俺は五芒家当主だぞ」
「へいへい。くれぐれも無茶だけはすんなよ、ボス」
「いわれなくとも」

彰人が去ってしまえば斗李は数羽の八咫烏を召喚する。

「桔梗を探せ」

その言葉を聞けば四方八方に散らばる烏達。
次に目を向けた視線の先、数体の子蜘蛛が道の真ん中から向かってくるのが見える。

「五芒術――壱の金・青天の一矢(せいてんのいっし)

手をかざせば空間を支配するペンタルク陣と飛び出す無数の金の矢。角度を変えながら速度を上げれば遠距離からでも蜘蛛達を的確に攻撃していった。

「イヤ~!!!」
「!!」

声のする方に走れば令嬢が土蜘蛛に捕食される寸前だった。
よく見れば辰ノ宮家の令嬢だ。

「来るんじゃないわよ!汚らわしい!!」

泣きじゃくる牡丹は狂ったように叫び出せば土蜘蛛に立ちはだかる一人の女性。

「桔梗⁉」

斗李が驚いていれば、桔梗は「チヨちゃん!」と合図する。
チヨは「あいー!!!」と簡易結界を作れば土蜘蛛の下から牡丹を引き出しそのまま結界内に避難させる。桔梗達の無事が分かりホッと息を撫でおろす斗李は残りの妖を退治していく中で妙な違和感を覚えた。

「なんだ…この違和感は。妖にしては何かが可笑しい」

陰陽師を招集させれば土蜘蛛の子供を退治していく。
数百と放たれた子蜘蛛相手に苦戦を強いられるも着実に数は減っている。だが予想外のことが起きた。我が子を殺され怒り狂った母蜘蛛が暴走し帝都を破壊し始めたのだ。
牡丹はチラリと横目に桔梗を盗み見る。
高度な式神、更には五芒家に嫁いだ花嫁。
穢れ者がこうも優遇扱いされる未来などあってはならない。婚約者さえ未だその背を追いかけ、初恋すら奪われた。それら全ては今日の牡丹の気分を不快にさせるに十分だった。

「アンタのせいで…」

牡丹は桔梗に掴みかかった。
突然の対応に防げなかった桔梗は結界の外に突き飛ばされてしまったのだ。

「お姉様さえ帝都に来なければこんなことにはならなかったのに!穢れ者の分際で帝都になんか来るから私が妖に襲われたのよ!!…お姉様なんて妖に喰われればいいんだわ」

目の前に迫る母蜘蛛。
桔梗の瞳から漏れ出る妖の邪気に吸い寄せられたのか、陰陽師には見向きもせずにいた。

「桔梗!」

斗李は憔悴しきれば隙をついた妖の攻撃が面を直撃し二つに割れる。
現れた素顔とその美しい顔立ちに牡丹は目を見開いたのだ。