病弱陰陽師と封鬼の娶嫁

皇國の時代。
暦は太陰暦から太陽暦へ変化し、西洋文化が取り入れられた天皇の都。

五芒(ごぼう)家三十七代目当主が亡くなられたそうだ。陰陽師がまた一人消えた」

辰ノ宮家では朝の朝刊を広げた父が苦い声を出す。
五芒家とは陰陽師の本家と呼ばれる最後の異能一族。
この世を妖から守り、災いから人々を救う英雄と称される一族だ。そんな五芒家では昨日当主の五芒也吉(なりきち)様が亡くなられたとの通告があった。今日のニュースは専らこの話題で持ち切りだ。

「陰陽師がこれでは埒が明かん。異能持ちと聞いて呆れる。最近では都内で妖の報告も多いというのに…」
「随分と錆びれたものですわね。華族を守るお役目こそ陰陽師に与えられた名誉とも言えますのに。やはり鬼による短命の噂は本当だったのかしら」

ソファーに腰かけた父と呆れ口調の母親。
二人とも下限と呼ばれる華族出身でこの辰ノ宮家の人間だ。桔梗(ききょう)は朝の配膳を終え部屋を出れば、正面からやってくる人物と鉢合わせる。妹の牡丹(ぼたん)だった。

「あら?穢れ者じゃない。朝から私の視界になんて入ってこないで頂戴」
「ごめんなさい。配膳は終わったから直ぐに出ていくわ」
「それだけ?配膳なんて普段は頼んでない筈だけど。なんでここにいるの?」
「あ…それはえっと、、厨房の人手が足りないと聞いて」

それは事実。
普段はめったなことがない限り、家の中でも人避けされた隔離小屋で過ごす桔梗だったが、何を思ったか使用人に招集されて厨房に立つことになった。朝餉の配膳をしに混ざってしてればタイミングよく朝刊も届いたので父の元に届けに行っていた。両親は五芒家に気を取られていたせいか、桔梗の存在には目も暮れずにいたので好都合に思っていたのだ。

「イヤ~!!お父様!お父様~!!」

突然、目の前では牡丹が大声を上げる。
中からは騒ぎに応じて大慌てで父親が「どうした⁈」と飛び出してきた。

「お姉様がいるの…怖い、怖いわ!!」
「牡丹、落ち着きなさい」
「怖い…また私を妖怪のとこに連れて行こうとしてるの。怖い…怖いよ。早く追い出してよ!!」
「桔梗…貴様、、、」

父は泣きじゃくる牡丹を抱き締めれば憎悪の顔で桔梗を見上げた。
すると桔梗の頬には衝撃が走る。
父が桔梗の頬を叩いたのだ。

「牡丹には関わるなと言った約束を忘れたか。穢れた姿を大衆に晒すでない!牡丹に傷がついたらどうする」
「ち、違います!私はただ配膳の準備を」
「この期に及んで言い訳とはいい度胸だ!第一お前に本殿への立ち入りを許可した覚えなどない。分かったらさっさと去れ!妖の邪気を本殿に垂れ流す気か」
「!!」

桔梗は垂れた頬からの血にハッとすれば慌てて頭を下げて立ち去った。それを見届ける牡丹の顔は不気味なほど笑顔で泣きじゃくっていた顔が噓のようだ。父の胸元から顔を上げれば涙で濡れた顔を拭う。

「ごめんなさい」
「なぜ牡丹が謝る」
「だって私がもっとしっかりしてたら。お姉様を見ただけで泣いてしまうなんて情けないわ」
「何を言うか。あれは全部桔梗のせいではないか。才能に恵まれたお前に嫉妬し、挙句妖の結界に追いやり傷物にしようとしたのだ。トラウマを植え付けたのも同然。さぞ怖かっただろう」
「ならばもっとお姉様に厳しく罰を与えてよ。このままじゃ納得できないわ」
「お前がそういうのなら、そうしよう」

父はその後、桔梗に厳しい罰を与えた。
以後、本殿及び辰ノ宮家への立ち入りを禁止とすれば、いよいよ桔梗は別邸のボロ小屋に追いやられてしまったのだ。