しがない死化粧師ですが、不眠症の暴君に「専用の抱き枕(眠り薬)」として溺愛されています

(……面倒なことになりましたね)

私は小さく溜息をつき、倒れた紅玉様の元へ歩み寄った。
「騒がないでください。貴女、手伝いなさい」
私は侍女頭と共に、紅玉様の身体を抱え上げた。

驚くほど軽く、まるで枯れ枝のようだ。
そのまま奥の豪華な寝台へと運び、静かに横たえる。
「お湯を沸かしてください。それから清潔な布と、暖炉に火を」

私は周囲でオロオロしている侍女たちに指示を飛ばした。
しかし、彼女たちの動きはひどく鈍い。足元はおぼつかず、顔色は青ざめている。
(……おかしいですね。気が動転しているだけじゃない)

私は目を細めた。
侍女たちの首筋にはうっすらと発疹が浮かび、呼吸も浅い。そして部屋全体に、微かな甘い腐敗臭が漂っている。
(紅玉様ほど重症ではありませんが、この者たちも同じ毒に当てられている。……使い物になりませんね)

私は舌打ちを飲み込み、自らと侍女頭の二人だけで処置を行うと決めた。
「まずは呼吸を楽にして、体温の低下を防ぎます」
私は手早く、紅玉様の豪奢な衣服の胸元を緩め、窮屈な帯などを外す。

続いて、水を含ませた布を受け取ると、紅玉様の顔に厚く塗られた化粧を拭い去っていった。

布が滑るたび、完璧だった『筆頭側室』の仮面が剥がれ落ちていく。
そこに現れたのは、もはや生者の顔ではなかった。
透けるように薄い皮膚の下には青黒い血管が浮き、頬は病的にこけている。

(……ひどいチアノーゼですね)

唇は藤色に変色し、生きている人間の血色が完全に消え失せている。
これがあの高慢で美しい紅玉様の、本当の顔。
あと数日、いや数時間処置が遅ければ、間違いなく私の『お客様』になっていただろう。

「体が氷のように冷たい。温めます」
私は自ら暖炉に火をくべ、焼き石を布で厚く包ませた。
即席の温石を、紅玉様の足元、脇の下、首の後ろに配置する。

太い血管を温めて血流を促しながら、冷え切った四肢を力強くマッサージしていく。

「……貴女、ひどく手慣れているのですね」
応急処置を手伝いながら、侍女頭が息を呑むように呟いた。
「まるで、こうなることが分かっていたように……」

私は、紅玉様の手を擦る動きを止めなかった。

「昔、よくやっていましたから」

それは嘘ではない。
やがて、紅玉様の呼吸がわずかに安定した。
私はようやく手を止め、鋭い視線を侍女頭へと向けた。

「さて。最低限の処置は終わりました。次は貴女の番です」
「え……?」
「先ほどの言葉。『あの者たち(医官)を呼んではならない』とは、どういうことですか」

私は逃げ場のない声で問い詰める。
「一体誰が、この宮に何を盛っているのです。詳しく教えてください」