株式会社〇〇の内線記録
事務「営業課、内藤さま」
内藤「はい、内藤です」
事務「ただいま、1階ロビーにて『まさふみ』さまがお待ちです」
内藤「まさふみさま……? え、誰っすかね」
事務「大切な用があると伺っております。あとは塩を忘れてくださいというお言伝も」
内藤「ええ、塩を忘れるってなんすかね」
事務「まあ、内藤さんに用があるそうなんで。お手隙の時にでも、ロビーをご確認頂けましたら幸いです」
内藤「あ、ありがとうございます。後で確認致します」
以下、調査報告書より。
当該、営業課内藤を株式会社〇〇販促部営業課の内藤祐也であることを特定。内藤に事情聴取を要請。事情聴取を了承するまでに9日間かかる。その間、当該人を要監視対象とし、調査員中野が対応。10日目。株式会社〇〇より了承の連絡あり。
事情聴取後、要監視対象から外された。
本人とのやりとり文字起こし
本人:内藤祐也 聴取:中野
中野「お忙しいところ、ご足労いただき誠にありがとうございます。所属と名前をお聞かせ願えますでしょうか」
内藤「はい。株式会社〇〇営業課の内藤と申します」
中野「ご丁寧に名刺まで。頂戴いたします。ご挨拶遅くなり、すみません。生活安全課の中野と申します」
内藤「頂戴いたします」
中野「では、事実確認をさせていただきます。会社から生活安全課への通報通り、先日こちらの受付にまさふみさんがいらっしゃったことはお間違いないでしょうか」
内藤「はい。私としましても、なぜ彼が私に会いに来たのかは検討もつかず」
中野「ほう。まさふみさんは"彼"でしたか」
内藤「なにか可笑しなことでもありましたか?」
中野「いえ。まさふみさんをまさふみさん以外の敬称で呼ばれる方が少ないもので、つい反応してしまいました。内藤さんはまさふみさんを視認しましたか」
内藤「いいえ」
中野「そうですか」
内藤「いたのかもわからないです。私が降りた時には、ロビーには誰もいなかったものですから」
中野「面白いですね。見てもいないのに彼と言うとは」
内藤「まさふみさんは男性の名前じゃないですか。ですから彼以外に形容する言葉が見つからなかったといいますか」
中野「内藤さんは防犯カメラの映像はご覧になりましたか」
内藤「まあ。確認する義務があると言われたものですから」
中野「渋々でも見ていただけたのであれば、あれを彼と呼ぶのは我々としては少々……おっと失礼」
谷平「失礼致します。中野の上司の谷平と申します。内藤さん、ここからは私が担当させていただきます」
内藤「……はぁ。内藤です、お願い致します」
谷平「中野。下がって、大丈夫です。では、一点のみ確認させてください。内藤さんは『まさふみ』さんを見ましたか。それとも見ていませんか。直接でも、防犯カメラ越しでも、今かけていらっしゃる眼鏡越しでも。大切なことは見たか、見ていないかです」
内藤「……み、見てないです」
谷平「わかりました。聴取はこれで終了です」
内藤「え、これだけでいいんですか」
谷平「貴重なお時間をいただき、誠にありがとうございます。また目撃した際は、情報提供のほどよろしくお願い致します」



