ホラー
完

- 作品番号
- 1775857
- 最終更新
- 2026/02/24
- 総文字数
- 2,383
- ページ数
- 1ページ
- ステータス
- 完結
- いいね数
- 0
朝焼けが夕方の色をしている。軽トラックの車内、回りはじめたカメラ。社会問題を撮るだけのはずだった取材は、捨てられたソファに包丁を刺してまわる一人の老人との出会いから、少しずつ軌道を外れていく。
「アタリマエだろ」と呟き、布の奥を確かめる男。ずぶり、と沈む刃。裂け目からこぼれる綿。その行為を、私たちは奇行として、素材として、淡々と記録する。もっと強い画が欲しい、と誰もが胸の奥で思いながら。
やがて廃屋の庭に置かれた三人掛けのソファ。不自然に膨らんだ布地。止めなかった私の声。「もう一回、深く刺してみてください」。次の瞬間、にじみ出る赤。裂け目の奥から、確かにこちらを見返す目。
事故として処理されたはずの映像は、編集室で別の顔を見せる。刃が入る瞬間、ノイズの底で重なる声。「ひとごろし」と、何度も、何度も。再生を止めても、耳から離れない。
カメラは回っていないはずなのに、どこかで記録は続いている気がする。柔らかなはずのソファの奥に、まだ確かめられていない“中身”があるように。
これは、映ってしまったものの話だ。
そして、映してしまった者の話でもある。
「アタリマエだろ」と呟き、布の奥を確かめる男。ずぶり、と沈む刃。裂け目からこぼれる綿。その行為を、私たちは奇行として、素材として、淡々と記録する。もっと強い画が欲しい、と誰もが胸の奥で思いながら。
やがて廃屋の庭に置かれた三人掛けのソファ。不自然に膨らんだ布地。止めなかった私の声。「もう一回、深く刺してみてください」。次の瞬間、にじみ出る赤。裂け目の奥から、確かにこちらを見返す目。
事故として処理されたはずの映像は、編集室で別の顔を見せる。刃が入る瞬間、ノイズの底で重なる声。「ひとごろし」と、何度も、何度も。再生を止めても、耳から離れない。
カメラは回っていないはずなのに、どこかで記録は続いている気がする。柔らかなはずのソファの奥に、まだ確かめられていない“中身”があるように。
これは、映ってしまったものの話だ。
そして、映してしまった者の話でもある。
- あらすじ
- 社会問題を追う取材班は、捨てられたソファに包丁を突き立てる男を記録しはじめる。
奇行のはずだった撮影は、廃屋で一変する。刃を深く入れた瞬間、布の奥から血がにじみ、
潜んでいた男の目がレンズを見返した。事故として処理された後も、映像には誰のものかわからない
「ひとごろし」という声が残る。
やがて自宅のソファを叩くと、内側からかすかな呼吸が返ってくる。
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