――――びぐ……っ、ぐ……っ。
「きゃーっ!篝くん似合うー!」
「これも一種の才能ねー!」
「昴くんの神眼冴え渡るー!」
俺は女子たちにメイド服を着せられていた。男として……屈辱過ぎる。
『すーばるくーん!できたよー!』
「ああ、義兄さん。ぼくの目は間違ってなかった」
天クマくんの頭を抱えながら昴がにこりと微笑む。ふぐーっ、ふぐーっ!
「うう……こんなのみんな引くって」
「どこが?かわいすぎるよ義兄さん」
「真顔で言わないでくれ、お兄ちゃんゾッとした」
しかし営業が始まれば真面目にやらなくては。
客によっては昴を訪ねに来る客もいるが『今日は仕事でいません』と答えるのをクラスの共通対応にしている。
文化祭前にも昴は仕事で参加できないと言うことは広めてもらっている。
これもトラブル防止のためなのだから仕方がない。
「篝ー!オーダーお願い」
「ほいほーい」
着実に仕事をこなしていけば、周囲の目など気にならなくなる。しかしその時。
「あれ……あの客」
外から遊びに来た客なのだろうが。
「お客さん」
そっと接客していた女子を後ろに下げる。
「そう言うの、お断りしてるんで」
「え……私は別に」
白々しい。明らかにメイド服の上からベタベタ触ってたろ。
「君、いくらなんでも失礼だろう!男のクセにメイド服なんぞ着てふざけすぎだ!」
『……』
しかしその時天クマがずいっと出てきて客の眼前に圧をかける。
「ヒィッ」
気が付けば周囲の視線は客を責めるように向いている。勝機はないと悟ったのか客はそそくさと逃げていく。
「ありがとう、篝くん、天クマくん」
「いいよ。それより大丈夫か?バックヤードに下がってていいぞ。どうせ俺、交替予定だったからそれを返上すれば人員は足りるはずだ」
「そんな……いいの?」
「いいって」
「ありがと。格好はそんなんでも意外と男らしいんだね、篝くん」
いや、これ着せたのお前らだろ……と言う言葉は呑み込んでおく。
『(義兄さん)』
「気にすんな。お前だけ楽しんできてもいいんだぞ?」
『(大丈夫。次の交替まで付き合う)』
「そう?サンキューな」
天クマ姿の昴が呼び込みに戻り、俺も業務再開っと。
「かわいいメイドさん」
ん?何だか聞き覚えのある声だが。
「はーい、男ですよー」
と振り返り固まる。
「オーダーいいかな?」
サングラスの隙間から見えた目元にドキッとする。
「いいですけど(バレたら大騒ぎですよ)」
「(昴にも言われて厳重に変装してきたよ)」
「(俺にバレてる時点で大丈夫ですか?)」
「(んー、信じたい)」
「(声でバレないように気を付けてください)」
「裏声で頑張るよ、お兄さん」
わっ、ホントに声のトーン変えてる!?そう言えばこの前声優にも挑戦してたし……すごいな。
「ご注文は?」
「この天クマケーキと天使のカフェラテで」
「かしこまりました」
パタパタと注文の品を届ければキョロキョロしている。
「昴はいないの?」
「今日は仕事でいません」
「え……?」
その時天クマがずいっと出てくる。
「(ああ、なるほど)」
トウキくんがクスクスと微笑む。どうやら察したようだ。
「この後も回られるんですか?」
「うん、露店によって、バレないうちに帰るよ。この後、仕事も入ってるし」
「そうですか……少しでも楽しめました?」
「もちろん、ありがとう。それからさっきの……君って意外と男らしくてカッコいいんだね」
「……!」
見てたのか。
「惚れてしまったらどうしようね」
惚れさせるのはトウキくんの方では?しかしその時天クマの手に圧力がかかりトウキくんの肩を追い詰める。
「分かった分かった、悪かったって。ほーら、仲直り」
トウキくんが天クマと握手する頃には昴も矛を収めたようだが。
天クマケーキを堪能したトウキくんが店を後にすれば天クマも安心したように持ち場に戻っていく。
「ねぇ篝くん、今の人、トウキに似てなかった?」
「へぁっ!?」
クラスの女子にそう問われドキリとする。
「こら、そんなこと言うとうちの昴に嫉妬されるぞ」
「そうだった!いっけなーいっ!」
そうそう、俺だっていっつも嫉妬されてんだから。女子の注意がそれたことに安心しその後もシフトをこなせば無事に天クマと自由時間だ。
「外で被り物は取れないから幾つか買ってバックヤードで食おうぜ」
『うん、にいさ……』
「こら、それじゃバレる」
声はぐぐもってるからともかく。
『ならどうすれば……』
「篝でいいんじゃね?」
クラスのやつらも斑鳩が2人いるから下の名前で呼んでるし。
『篝』
呼ばれ慣れているはずなのに……変な感じだな。
「さ、行こうか」
『うん、篝』
うう~~、慣れないけど我慢、我慢。
『すごいなぁ』
「昴……?」
『中学の時は参加したことないんだ』
「仕事か?」
『無理矢理入れてもらってた』
「どうして……」
『ぼくがいると騒ぎになって、ぼくのクラスだけ目立って不公平になるから。学校から断られたんだ』
「そんな……っ」
それなら学校としてもっと他に手があったはずだろう?それなのに昴を参加させないことで解決するなんて。
『でも高校では違ったから』
「だな。騒ぎになる可能性はあるし、中学の時と比べて外部の客も来る」
だからクラスで話し合ってこのかたちに落ち着いたのだ。あくまでも昴が安全に参加できるように。
『感謝してるよ。それに篝とも回れる』
「ふふっ、そうだな。何が食べたい?」
『たこ焼きとか、焼きそばとか食べたいな』
「んじゃーそれにしようか」
幾つか買い込み、バックヤードに戻ればやっとのことで昴が天クマの頭を外す。
「ふぅ……意外と暑いね」
「まぁ、本物よりは素材が薄いからましだろうけどな」
「だねぇ」
「ほら、食うぞ」
たこ焼き、焼きそば、他にもお焼きやあられ、クッキーなどなど。
「いただきまーす!んむ……おいひぃね」
「ははっ、だろ?」
「篝も……あ、ごめん。義兄さん」
「いいんだよ、ど、どっちでも」
でも少しだけ名残惜しい。
「義兄さんにするよ」
「……いいの?」
「ほら、言ったでしょ?義兄さんが欲しかったって」
「ん……そうだったな」
俺も兄弟が欲しかったんだ。恋人……でもあるんだけど。
「ほら、義兄さん。ついてる」
唇横のタレを指で嘗めとっていく。やっぱり仕草のひとつひとつが妖艶で洗練されてるんだよな。
「ん?どうしたの?」
「いや……その」
「(直接嘗めとった方が良かったかな)」
「(バッ、ほかのやつらも来るんだから、ダメ!)ほら、もうすぐ休憩終わるぞ」
女子たちのクスクスと言う苦笑が聴こえてくる。もう、見られたらどうするつもりだったんだか。
「待って、義兄さん。また天クマにならなきゃ」
「ああ。でも適度な水分補給はするんだぞ」
「はーい!」
不本意なメイド服ではあるものの、昴にも文化祭を楽しんでもらえたのなら俺も満足だ。
楽しくも忙しない文化祭が終われば、不在と言う設定だった昴は一応変装し俺の隣を歩く。
「楽しかったなぁ~~、文化祭」
「うん、美味しいものもたくさん食べれたし義兄さんとも回れたもんね」
「そーそー」
「でもSNSには学園祭に参加できなくてかわいそうってリプも多くって」
「ああ、事前にSNSにも不在ってことは投稿してもらったもんな」
これもトラブルを防ぐため。
「でもナイショでってのもちょっとドキドキして青春っぽかったよな」
「うん、確かに!参加させてくれた学校にも感謝だよ」
むしろ参加させない方がおかしなことに思えるが。
「義兄さん」
「ん?」
「来年も参加しようね」
「おう、もちろんだ」
頷けばおもむろに昴がマスクをずらす。
「お……おいっ!」
「周り、誰もいないみたいだから」
「だからって……」
「ちょっとだけ」
頬に触れる柔らかな熱情。
「ナイショだよ」
「……!」
おま……っ、最後にこんな……!昴に手を引かれながらもドキドキが止まらなかったのは……言うまでもない。


