いくらなんでも兄弟で付き合うなんて!?



――――昔々のことだ。

「なぁ、アイツ男のくせに花なんて植えてんの!」
クラスの男子が指を差してくる。俺はただ、ボランティアに誘われただけなのに。

それに花は嫌いじゃなかった。混ざりたいと思った世界に少しだけ触れてみたいと思った。

けれど子どもと言うのはどこまでも残酷だから。いつしか諦めたものの方が多い。

※※※

――――現代
HRの終わりを告げる鐘が鳴る。

「……何の因果だよ」
はぁ……と溜め息をつく。

「委員会活動なんてだりぃなぁ……もう」
「でも楽しそうだよ!義兄さんは何の委員になったの?」
呑気だなぁ、お前は。普段そこまで学校にいられない分楽しいのだろうが。

「……緑化委員。今度学校の花壇の植え替えやらされんだ」
一度諦めたはずなのに。

「へぇ……楽しそうだな。ぼくも行っちゃダメ?」
え……来るのか?

「ボランティアは募集中だけど……仕事は?」
「予定教えて!マネージャーに連絡してみる」
「おう、よろしくな」
コイツは。俺の諦めてしまったものでもキラキラとした目で見てくるのだから。
そして案の定、イケメンがやると言うことはクラス中に広まった上にボランティアがたんまりと集まってしまった。

※※※

――――両親の再婚が決まり、家を引っ越した頃。新しい家には大きな庭があった。定期的に庭師が来て整えると言うそこは手入れが行き届きさまざまな花が咲き誇る。

「少しくらいなら」
見てみたいと思った。

「誰も……いないよな?」
こっそりとベランダから出れば咲き誇る花を見て笑みがこぼれる。

「義兄さん?」
ビクンとなる。

「……昴、どうして」
「庭に行くのが見えたから」
見られてた……!
「……ごめん」
「謝らないでよ!ここは義兄さんの家でもあるんだよ!」
「それは……」
この家に受け入れてくれてるってこと……だよな?

「うちの庭、気に入ってくれた?」
「それは……その」
「花、きれいだよね」
「……笑わないのか?」
男なのに花を愛でるなんて。
「どうして?庭師が手心かけて設えてくれたのに笑わないよ。それにさ、義兄さん」
「……?」
「義兄さんは花が似合うね」
「……っ!」
そう言って昴はにこりと笑むのだ。思えばコイツはいつだって俺を否定しなかった。だからたまの休みは庭に出た。
この家の中でなら花を愛でることを恐れなくなった。
アイツはいつだって俺の好きなものを褒めてくれると知ったから……。

※※※

ガチャリと家の鍵を開け、玄関で靴を脱ぎながらも昴は楽しそうに懐いてくる。

「義兄さん、今マネージャーからメール来た。緑化委員のボランティア、行けることになったよ」
「マジ?」
「うん、マネージャーからその日はオフにしていいって」
本当に楽しそうなんだから。

「お前、そう言うの気が引けたりしないの?」
「え……どうして?」
「その、男がガーデニングとか笑われたりとか、そう言うの心配しないのかって聞いてんの」
「うちの庭師だって男性だよ」
「あ……」
確かにそうだ。

「それに義兄さんが庭の花を気に入ってること、話したら喜んでたよ」
「おま……っ、いつの間に」
ナイショにしたかったのに。

「だって花が好きな同士じゃない」
「それは……そうなのかも」
「今度好きな花を伝えてみたら?希望を聞いてくれるかもしれない」
「その、いいのか?」
「もちろん!ここは義兄さんの家なんだ」
「う……うん」
新しい環境でこんなにもやっていけるのは昴のお陰もあるのだろうな。

「ありがとう」
「どういたしまして!」
また……その笑顔。どうしてこうも魅力的に映るんだろう。それは芸能人とかそういうの関係なく俺の脳裏に輝いている。

「ふふっ、それに学校では義兄さんの好きな花を一緒に植えるんだよ。楽しみだなぁ」
「そ……そうだな。なら、早速準備しないと」
「準備……?」
「今度の休みに軍手とかホームセンターに買いに行かないといけない」
「ぼく、行ったことないや」
そう言えば文具店も初めてのお坊ちゃんだったな。

※※※

――――休日、昴を連れ目当ての場所にやってきた。

「ここがホームセンター!想像したよりもずっと大きいや」
「だろ?園芸に必要なものならここなら大体なんでも揃うよ」
「うちの庭も?」
「それはどうだろう?プロの業のことまではなぁ」
「なかなか知らないことが多いね。家のことは今までは業者に任せっきりだったから。家事もさ、家政婦さんが今よりも頻繁に……週に何度か来てたからね」
「マジでおぼっちゃんだよなー。まぁ、家の掃除手伝ってくれるのはありがたいよ」
何たって広いからな。

「そうだね。でも今は義兄さんの料理が食べられるのも嬉しいんだ」
「そ……そうか?」

「うん。前は出前やロケ弁が多くて。家政婦さんが作ってくれる日もあったけど……ぼくは義兄さんの味が一番好き」
「……っ」
好きって……味のことだよな?俺は何を意識してるんだ。

「ここが園芸グッズだな。スコップは学校で貸してくれるからエプロンや軍手を買おう」
「うん、義兄さん!」
「軍手は滑り止めついてればいいから……あとはエプロン。どれがいい?」
「義兄さんはどんなの使ってるの?」
「普通に黒だよ。汚れ目立ちにくいし」
「じゃぁぼくも」
「いいけど……お前も好きな色とか選んでいいんだぞ。何でも俺に合わせなくても……」
「だけど義兄さんとお揃いがいいし……」
「分かった。エプロンは同じにするとして……ついでに買ってこう」
「何を買うの?」
「こっち」

やって来たのは園芸コーナーとは売って変わった雰囲気の売り場である。

「じゃーん。ホームセンターってこう言うのも売ってるんだよな」
「キッチン用品!?」
「そ。他にも皿とかマグとか。だからさ、好きなマグを選べよ」
「えと……でも」
昴が不安そうに俺を見てくる。

「それを俺がお揃いにすればいいだろ?」
「義兄さん……!」
「だからお前の好みを教えろよ」
いっつも俺に合わせてくるんだから。

「その……でも、好みよりもお仕事を優先してきたから」
昴は考え込むようにマグカップをひとつ取る。
「お仕事で来たブランドの服やグッズ……嫌だなんて言ったらお仕事が来なくなっちゃうから」
「なるほどな」
芸能人も楽じゃないってことか。

「でも……俺は側にいる」
「え……?」
「お前が何選んだって、離れていかねえよ。だから好きなのを選べ。俺と一緒にいる時に遠慮すんじゃねーよ」
「……義兄さん」
ほどなくして昴が手に取ったのはチェック柄の色々鮮やかなマグカップだ。
クール系で売り出している昴とは真逆の色である。

「なら俺もお揃いを買うよ」
だけれど2人のお揃いとしてならばイメージなんてどうだっていい。

「お前とお揃いなのが一番だからな」
「うん、義兄さん」
俺もようやっとコイツの好みに辿り着けたな。

※※※

そして花壇の植え替え日がやって来た。土の匂いに苗。どうしてかこれが落ち着くんだよなぁ。

「さーて、植えていくぞ」
苗を手にスコップでサクサク掘っていく。

「わぁ、初めてだから緊張する」
「いいのいいの、俺の真似して」
「うん……!」
俺の真似をしながらたじたじになりながらも苗を植えていくようすがどこかおかしくて微笑ましい。

「どうだ?楽しいか?」
「義兄さんと一緒にってのがとっても楽しい」
「俺と……」
「そうだよ」
兄弟なのに、恋人なんだよな。フリ……とはいえ恋人になれば一緒にやることもこんなにも幸福に感じるのだろうか。

「どんな風に咲くんだろう」
「それを楽しみに水やりもするんだ」
「じゃぁその時もついてっていい?」
「その……お前が仕事じゃないならな」
「うん……!」
昴と一緒なら水やりも楽しいものになるだろうか。
今からでも楽しみ……だなんて。まるで本物の恋人みたいじゃないか。フリ……なのに。昴はどう考えているんだろう。それが気になって、気になって仕方がなかった。