――――ケーキに仕上げを施していく。
「よし、これで最後にイチゴを飾って……と」
後は冷蔵庫で冷やしておくだけだ。
「昴、早く帰ってこないかな」
思えば誰かの誕生日を心待にしたのは母さんの誕生日以来である。
その日もこうしてケーキを作って待っていた。けど途中で仕事で遅くなると連絡が来て泣いたっけ。そのまま俺は眠ってしまったけど。
「……翌朝、母さんはケーキ美味しかったよって言ってくれて……」
努力は無駄にならないと知ったのだ。
昴の帰りを心待にしながら、いつしか寝こけていた。
「……さん、義兄さん」
「んにゃぁ?」
「それもかわいいけど。こんなところで寝てたら風邪ひくよ」
「うわぁっ!?昴!?」
いつの間にかこたつに脚突っ込んで寝てた!?
「ど……どうして」
「もう仕事終わったから」
気が付けば部屋に西陽が射している。
「父さんたちは遅くなるみたいだから夕飯は先にって」
「あ……ああ、そうか」
「それから」
「ん?」
「喉渇いて」
「へ……?」
「冷蔵庫。開けないように言ったの義兄さんでしょ?」
「うわあぁぁっ!?そうだった!」
慌てて冷蔵庫を開きお茶を差し出す。
「あの、それから」
言いかけてリビングに置かれた紙袋を見つける。紙袋には大量のチョコレートが入ってる。
「それ……」
「ファンの子からもらったんだ。後でゆっくり食べてくよ」
「お前も自分で食べる派なんだ」
「そりゃぁせっかくもらったものだし。事務所が手作りNGにしてるから既製品のみで賞味期限もだいぶある。ぼくは毎年食べてる」
「あはは……トウキくんもそう言ってた」
「え……?いつ」
「あ……その、今日の午前中に遊びに来てくれて……」
「はぁ……アイツ、何勝手にウチ来てんの」
「でもその……」
「いいよ、義兄さんが好きなアイドルだし。ぼくも目標にしてるもの」
「トウキくんを?」
「もちろん。ドラマも好評だし、アイドル活動も今後もしていくつもり」
「そっかぁ、良かったぁ」
トウキくんがまたひとりにならなくて本当に。
「ありがとうな、昴」
「義兄さん?」
「あのな、トウキくんのこともそうだけど、昴には世話になってばっかりだ」
「義兄さんが天然気質だからでしょ」
「天然?そんなことないって」
「ある。その証拠に、あのチョコの山を見てまた迷ったでしょ」
「……それは」
その瞬間ぐわりと景色が反転する。
「昴」
「義兄さん。ぼくは義兄さんの彼氏だよ」
「う、うん」
ふりから始まったお付き合い。しかし昴は最初から本気だったんだ。
「だからいつだって本命は義兄さんだし、義兄さんしかいない」
「昴……」
「それとも義兄さんの本命はぼくじゃないとでも?」
「そんなわけ……っ」
頭上の昴の顔は真剣そのもの。そんな真摯な眼差しで見つめられたら。鼓動を速める頬の熱。射し込む西陽の輝き。
愛おしいほどに、昴の顔が輝いて美しい。
「ならその……今、持ってくるから」
そう言うと昴が俺の上からむくりと身体を起こす。
「ちょっと待ってて」
もう後になんて退けない。
冷蔵庫で冷やしておいたチョコの包みを持って戻る。
「これ……!」
両手でズイッと差し出す、ラッピングされたチョコレート。
「俺の本気!本命チョコだから!」
「義兄さん」
ふわりと昴が微笑む。こいつ、こんな幸せそうな顔で笑うんだ。
「ありがとう。嬉しいよ」
「う……うん」
「大切に食べる」
「当たり前だ!その……本命チョコなんて初めてなんだから」
「じゃぁ義兄さんの初めてをぼくがもらえるわけだ」
「そ……そうだ。光栄なことなんだからな?」
「うん、そうだね。こんな光栄な栄誉、他にない」
「お……おう」
「開けていい?」
「もちろん」
「それじゃぁ」
昴が包みを丁寧に解いていく。
「ぼくも手作りチョコは初めてなんだよ」
「学校でもらったりしないの?」
「もらうことはあったし、机に入れられてたこともあったけど、衛生的な観点から既製品以外は受け取ってない」
「俺のはいいのかよ」
「家族からのだからね」
家族……か。俺たちはいつの間にか家族にもなって、恋人にもなっていた。
「だからこれは義兄さんだけのトクベツ」
俺だけの……っ。
「わぁ、美味しそうだ」
昴がトッピングされたハートチョコをはむりと口に加える。
「その……どうだ?」
「美味しいよ。義兄さんの味」
「俺って……チョコレートだぞ?」
「それでも義兄さんがぼくのために作ってくれた味だよ」
「それはまぁ……お前のだけトクベツにしてあるんだからな」
「うん、ぼくだけの特権ね」
「あ……ああ!」
昴のためだけの特別なチョコレート。昴は大切に食べてくれた。
「あ、あんまり食べすぎるなよ?その……今日は誕生日だろ」
「今日はたくさん食べられるよ」
「それなら……少し早く夕飯にしようか」
作っておいたおかずを並べていく。唐揚げにサラダ、ハンバーグやシュウマイなど美味しそうなものをたくさん用意した。
「わぁ……っ!美味しそうだね」
「だろ?苦労して用意したんだからな」
「ふふっ、嬉しいなぁ」
「ほら、早速食ってみな」
「うん!ねぇ義兄さん」
「ん?」
「義兄さんってさ、本当にお嫁さんに欲しいくらいだよ」
「お……お嫁!?」
「いや、もらうつもりだけど」
「か、確定かよ」
「当然でしょ?ぼくらのお付き合いは真剣なお付き合いなんだから」
「そんなこと言ったって今後はそれぞれ独立すんだろ?」
「一緒に住めばいい。2人でマンションに住もう?そしてパートナーとして暮らすんだ」
「だからって母さんたちにはどう言うんだよ」
「仲の良い兄弟としか思わないよ。それにぼくは義兄さんのご飯じゃないと満足できない身体にされちゃったんだから」
「えっ!?」
「胃袋、掴まれちゃってるんだから。責任取ってよ」
「あうう~~っ」
胃袋以外は掴まれてるけどな!?
「ならその、昴の仕事の負担にならないところに住んで、仕事も探さないとな」
「専業主夫でもいいんだよ?」
「いやそれはさすがに……俺も働くから!」
「そう?義兄さんがやりたいなら止めないよ」
「う……うんっ」
こんなんで主夫になったら俺、昴がいないと生きていけなくなっちゃう。いや……それはそれでいい……とか何考えてんだ、俺!
「その……それよりもさ、ケーキ!用意してくるから!」
「うん、義兄さん」
テーブルに乗せたケーキは特製のチョコレートケーキである。
「俺の特製だ」
「ふふっ、嬉しいなぁ」
「でもその、普通だから。高級店のケーキとは全然違うぞ」
「それでも義兄さんがぼくのために作ってくれたのが嬉しいんだよ」
「昴……っ」
「ぼくは幸せ者だね」
「お……俺だって」
こんなスパダリな彼氏、そうそういないだろ。
「ほら、義兄さん」
「ん?」
「あーん、して?誕生日なんだから」
「あうう……その、」
緊張はするけど……せっかくの昴の誕生日なわけである。
「ほ……ほら、あーん」
ドキドキしながらフォークでケーキを掬い昴の口に近付ける。
「はむっ、ん、美味しいよ」
「良かったぁ。よーし、俺も食べる」
「義兄さんったら。食い意地張ってる?」
「こーら、変な言い掛かりつけるんじゃない!」
「え~~、だって~~」
くすくすと互いに笑い合う。2人暮らしになったら毎日がこんな微笑ましい毎日になるだろうか……?
って……今から何想像してるんだか。それにその前に。
「義兄さん?」
「その、昴」
「ん?」
「今からとっておきをやる」
「なぁに?」
「いいから、目を瞑れ」
「ええと……うん」
よし、覚悟を決めろ、俺!
それにしても……やっぱりきれいな顔だな。昴の両頬に掌を当て、ゆっくりと、そっと。
ちゅっと口付ける。
「もう、目開けていいぞ」
「……義兄さん」
「誕生日、プレゼント」
「義兄さん!あはは、嬉しい!」
ぼすんと後ろに押し倒される。
「ちょ……昴!?」
「大好きだよ、義兄さん」
「お……俺も」
昴の優しい抱擁に身を委ねる。
両親が帰ってくるまで。……もう少しだけこうしていよう。
【完】


