――――冬休みは明け学校も始まり、気が付けばもう2月である。
2月に入った学校での話題と言えばバレンタインもそうなのだが、もうひとつ。
「ねぇ、見た?昴とトウキW主演のBLドラマ!」
「もちろん!超エモいよね~~っ!」
うんうん、俺も見たぁ~~!女子たちの会話に入るわけではないが、こっそり聞きながら心の中で相づちを打つ。
はぁ……それにしても昴が。
『ぼくがいるのに他の女子なんて見ないでよ』
そう言ってトウキくんに壁ドンを決めるんだよ。ああ、ほんとドキドキしたぁ~~。
ルンルン気分で移動教室……と行こうとした時だった。
「義兄さん」
「ひぅんっ!?」
バンッと顔すれすれに押し当てられた手。間近に迫った昴の顔。
「ふぅ……3時限目、間に合ったね」
「ええ……あぁ……うんっ!?」
それで壁ドン決めたの!?この子!
しかも周りの女子から歓声が上がるし!
「ちょ……昴ったら」
「昨日のドラマ」
「へ?」
「見てくれた?」
「う……うん、もちろん」
「ふふっ、だと思った」
「え?」
「義兄さんったら……考えてること分かりすぎ」
ひいぃ~~っ!?てことは何か!?お前は俺を萌えまくらさせて何する気なんだ~~っ!
※※※
――――くっ。俺の欠点はそこか。分かりやすすぎるところか。
「バレンタイン、どうしようなぁ」
バレンタインと言えばだ。昴が公式プロフで明かしている通り【昴の誕生日】なのだ。
「サプライズで何か……とは思えども」
こんなに分かりやすすぎたらバレバレか。
「何かバレにくくてサプライズになりそうなもの」
と言うか昴って何が好きなんだ?公式プロフでは……趣味は【人間観察】。
これ……主に俺観察のことじゃないよな?いや……自惚れは良くない。でもあながち間違ってもない気がするのは気のせいか?
「特技は……っと」
【バイオリン、ダンス、スノーボード】
いやいや、何このハイスペは!
「てかバイオリン……?アイツ弾けるの?」
すっげぇ。家で弾いてるの見たことない。
「お願いしたら弾いてくれるか?いやいや、でも今は昴の誕生日サプライズだもんな。昴にお願いする回ではない」
なら趣味に応じた贈り物。スノーボード……なんて高くて変えるはずもない。
「シール……はいっつも交換してるもんな」
だとしたら何をあげるべきか。
昴が載ってる雑誌も隈無く調べていく。
「最近ハマってるものは……シール作り、シール交換、人間観察」
うう……っ、取り留めてサプライズできるものが……っ。
「……俺?」
いやいや、何を言ってんだ、俺。
「そんな恋愛ドラマじゃないんだから」
なしなしなし。
「義兄さん?」
「ひぃやぁっ!?」
「そんなに驚いたの?てかどうしたの?ぼくの出た雑誌ばかり広げて」
「な……何でもない!」
誕生日サプライズのことは悟られないようにしないと!
「それにその……見てたら不満か?」
昴ならば反対はしない……はずだ。
「ふーん」
予想に反して何だ!?その反応!
「まぁ、いいけど」
何とかごまかせたか……?
「あー、それと!今週末は冷蔵庫の中を開けちゃダメだ」
「え?何で?」
何でって色々とバレちゃうから!
「ど……どうしてもだよ、弟よ」
「飲み物飲む時どうすんの?」
「お……お兄ちゃんが取る」
「ふーん。ならいいど」
な……何とかやり過ごせたか?ふぅ……。
※※※
――――バレンタイン前日が来てしまった。
「幸い昴は仕事だからこの隙に作ってしまおう」
チョコレートを湯せんで溶かしながらトッピングの用意もしていく。
「母さんには毎年渡してるから……今年は義父さんの分も作ろう」
あれ……?今更なんだが。
「俺が母さんにあげてるの、逆では?」
あー……いや、でもホワイトデーにお菓子買ってきてもらえるからいっか。
「それから昴の分は……」
初めての、本命。
「本命ってどう作ろうか」
作りながらまだ悩んでいる。
母さんと義父さんの分を作りながら昴の分をこしらえる。
「ちょっとトクベツ感を出せばいいのかな?」
例えば俺型チョコ……。
「いや、何のギャグ漫画だよ」
どうせならケーキと被らない方がいいだろう。
「ハート型ならトクベツ感が出るかな」
母さんと義父さんの分は丸型にトッピングをしたから昴用はハート型にトッピングを。
「よし、これを冷蔵庫で冷やして……と」
明日は休日。ケーキ作りもあるから早起きしないとな。
※※※
――――翌日
仕事に向かう母さんと義父さんに義理チョコを手渡す。
「毎年ありがとうね、昴」
「息子にバレンタインチョコをもらえるなんてな。仕事の移動中に食べるよ。ありがとうな」
「うん、2人ともお仕事頑張ってね」
2人を見送り、さーてケーキ作りをと振り返る。
「義兄さん、ぼくの分は」
「ひぃんっ!?」
何でいきなり背後に立ってんのおおぉっ!
「それはその……」
「……」
「帰ってきたら……わ、渡すから」
どうしてか頬が熱を帯びる。
「ふぅん、そう」
何かいつも以上にあっさりとしてると言うか。もしかして欲しくなかったとか?
作り損だったろうか。
仕事に出掛けていく昴の後ろ姿を見送りちょっと落ち込んでしまう。
「……ケーキ、作らないと」
それはそうと昴の誕生日なのだから。
ケーキのスポンジを焼き、一休みしようとすればチャイムがなる。
「誰だろう?」
インターフォン画面に映った姿を見て、俺は急いでドアを開けた。
「どうも、篝さん!」
「はっひゃひゃひゃーっ!?トウキくん!?」
何故推しがぁっ!?玄関先では何なのでちゃんとリビングに案内してお茶をお出しして……と。
「ほら、事務所にチョコ、贈ってくれたでしょ」
見せてくれたのはバイト代で買ったちょっといいチョコ!一応宅配で贈ってもらうので手作りはしないようにしてる。トウキくんがお腹壊したらやだも!
「でもどうして……」
「名前、書いてあったし。時間あったから直接お礼にってね」
「その……トウキくんなら他にもたくさんもらってるだろうに」
「まぁね。でもファンの子がせっかくくれたものだから俺が責任持ってちゃんと食べてるよ」
あ……アイドルの鑑!
「それに俺が歌手生活で色々あったこと、篝さんなら知ってるでしょ?」
「それは……」
「昴はさ、俺の過去のライブ映像とかテレビ出演映像、曲も全部聞いてくれてたんすよ」
「……それ、俺の」
「篝さんのコレクションだって聞きました」
「う……うん」
「そんで俺のことすっげー追いかけてくれてるのも嬉しかったですし、シールの件も感謝してるんですよ」
「それって……」
「最初は篝さんのお手製が昴お手製って誤解されちゃったんですけど、その後昴が自ら作ったものを見せてくれて俺……嬉しかったんです」
「……!」
「昴が俺のファンになってくれたように俺も昴のファンになりました!その影には篝さんの献身があってのことでしょ?だから俺、すっげー感謝してるんです」
「トウキくん……」
「直接お礼言いに来るには充分すぎる理由でしょ?」
「はうああぁっ」
推しの笑顔眩しいいいっ!
「それで、因みになんですけど」
「は……はい!」
「篝さんのチョコ見せたら昴が嫉妬してるみたいで」
「えっ」
「昴ったらファンの子からもたくさんチョコもらってるけど……やっぱり一番欲しいチョコがあるんじゃないんですかね」
「……」
「まー、そんなわけで俺からは以上です」
「トウキくん……」
「俺、推しの幸せを何より願ってますんで!」
そう告げ、トウキくんは仕事の途中だと行ってしまった。
「昴……待ってるのか」
一瞬俺のチョコなどいらないのかとも思った。
ただほんのちょっとだけ……本命チョコを渡す勇気が出なかった。
「はずかし……かったのかも」
両親の手前だったんだもの。
「でも、帰ってきたら」
今度こそ……渡さなきゃ。頬の熱がさらに加速した気がした。


