――――街中ではクリスマスソングが響いている。学生たちは少し早い放課を満喫すべく沸き立っている。
「イブが終業式だと何だか得した気分だな」
「そっか……普通はクリスマスか」
「そうそ。お前は仕事ないのか?」
「今年はオフだよ。父さんと義母さんは泊まりでの仕事が入っちゃっけど」
「ああ、だけど今年は昴がいてくれるからな」
「義兄さんは寂しがり屋だものちゃんと側にいるよ」
「だ……誰が寂しがり屋だ」
最近なんてずっと昴がいるからそんな気すら起きなくなってきたってーのに。
「ほら、義兄さん。今日の予定、忘れたの?」
「忘れてないって!ほら、行こうぜ!」
向かったのはかわいらしい装飾がされたカフェである。周囲は女性客が多いものの、仲間がいれば問題ない!
「クリスマス限定コラボカフェ!サイコーだな!」
「ふふっ、義兄さんったら。でもこのBL作品はぼくもはまっちゃったし、嬉しいよ」
「だろ?それにコースターもゲット!」
「ふふっ、狙いどおり?」
「狙いどおりだよ」
でも一番は昴と来れたってことが嬉しいんだよなぁ。
「でも案の定尊すぎて食べられない」
「ふふっ、義兄さんったらかわいい」
「お前は余裕過ぎんの」
何の躊躇もなくキャラクターパンケーキを頬張る昴を見やる。
「でもここは……覚悟を決める時」
「頑張って、義兄さん」
「よっしゃぁ、行くぞ!」
パクッ。
「ん……うまっ」
「だねぇ」
味を堪能し始めれば、周囲から声が聴こえてくる。
「腐男子?」
「兄弟みたいだよ」
「萌え~~」
彼女らは一体どんな妄想をしてるんだろうか。そして多分それは……合ってる。
「ふふっ。義兄さんの同志が多そうだね」
「まぁBL作品のコラボカフェだかんな」
「そう言えば義兄さんのBL作品は?同人誌、できたんでしょ?」
「それは……そうだけど」
「見たいな」
「まだヒミツ」
「ええ~~、ぼくがモデルなんでしょ?」
「そ……そうとは限らないと認識するのなら」
「なーんか気になるなぁ」
「ギクッ」
何だか全て見透かされていそうな。
「それよりもほら、お前だって冷めないうちに食べろよ」
「まぁそうだね」
良かった。興味が食べ物に移ったらしい。
「それにしても義兄さん、ずっと楽しそう」
「当然だろ?」
「なら今日はもう少し散策してかない?」
「え……っ」
「義兄さんのBLコレクションみたいにイルミネーション、見に行こうよ」
「わっ、おま……っ、こんなところでっ」
「いいじゃない。周りは全員同志でしょ?それにだってとってもロマンチックだったし」
「確かにその、そんなシチュエーションがいいなって思ってはいる」
「じゃぁ見に行こ」
「分かったけど……ちょっとだけだぞ?あんまり遅くなったらダメ」
「せっかく父さんと義母さんもいないのに」
「それでもダーメ」
「厳しいなぁ、もう」
「お兄ちゃんだからな」
「ふふっ」
「何だよ」
「そう言うところもかわいい」
「……っ」
もう、お前はすぐそう言うことを言うんだから。
――――クリスマスイルミネーションのビュースポットを訪れれば思わず歓声が湧き出る。
「わぁ……っ!圧巻!イルミネーションが異世界のゲートみたい」
「ええ、それなら」
「どうしたんだ?昴」
「召喚される時も一緒だから」
「何言ってんだ。もう。それにあっち」
「ん?」
「イルミネーションが地面に投影されて本当の魔方陣みたい!」
「もう義兄さんったら捕まえたっ」
「ひゃぁっ!?」
「逃がさないから」
「ええ~~?」
「執着深いって、言ったでしょ?」
「奇遇だな、俺もだ」
クツクツと笑い合う。
「さ、そろそろ帰るぞ。ケーキも買って帰るんだから」
「うん、そうだね。クリスマスケーキもホールにする?」
「いやいや、もうそんな無茶しないよ。今年はひとりじゃないんだから」
「なら安心かも。小分けにして買おうか。ショートケーキやガトーショコラが美味しい店がある」
「ならそこにしようぜ」
「うん」
気が付けば自然と昴と手を繋いでいる。でもこの手を今さら放したいとは思わない。むしろ逃がさないと言う気概さえあるんだ。
――――帰宅すれば冷え冷えになった室温に出迎えられ、ケーキを冷蔵庫に仕舞えば早速暖房をつける。
「わーっ、冷えたなぁ」
「ふふっ、そうだね。でも義兄さん」
昴がぎゅっと抱き付いてくる。
「義兄さんあったかい」
「お前もだぞ?秘技、弟で暖をとる」
「んもう、義兄さんったら。お返し」
すると昴が押し倒してくる。
「おま……っ、ちょ……っ」
「義兄さんったら、顔、真っ赤。たーっぷり暖も取れそうだね」
「ひぁっ、そ、そのっ」
「ほら」
頬を擦り合わせてくる昴。でも不思議と放そうとは思えない。
「確かにお前、頬が冷えてるかも」
「こうして暖取らせて」
「ちょっとだけだぞ?」
「どうだろうなぁ」
「ええ~~っ」
しかしその時、2人揃って腹からぐぅ~~っとお腹が鳴る。
「カフェで食べたばっかりなのに」
「成長期だもの」
「思えばそっかぁ」
「ケーキ食べよ」
「その前にオードブルもあるんだから」
早速冷蔵庫から取り出し昴がテーブルに並べてくれる。
「クリスマスケーキとそれから買っておいたオードブル。飲み物はサイダーにしようか」
「うん。何だかいいな、こたつに入って2人で……こう言うの」
「まーな。それに2人だし」
「義兄さんはいつもはひとりで……?」
「母さんは夜には帰ってきてくれたけど……でもそれまではどうしようもなく寂しかったかな」
普通の家族はお父さんとお母さんと過ごすんだって知ってから。
「今年はぼくがずっと側にいてあげる」
ふわりと抱き締めてくれる熱が心地よい。
「うん……昴」
昴が俺のこの孤独を埋めてくれたんだ。
クリスマス特番を見ながらケーキをはむり。
「あ、トウキくん!今回はユニットじゃないんだ」
「うん。ソロ出演。年末は2人で出るから一緒に過ごせないな」
「大丈夫だよ、テレビの前でトウキくんに熱狂するから」
「ちょ……義兄さん、ぼくは?」
「もちろん。お前は熱愛だ」
「なら許す」
そう言えば自然と唇が重なる。
「義兄さんのキス、甘酸っぱい」
「お前もだぞ?」
「それもそうだね」
「ほら、たくさん食べたし後は明日に残しておいて……歯磨いて寝るぞ」
「はーい」
※※※
寝る準備を整えれば、そっと昴が部屋を訪れる。
「義兄さん、せっかくだし2人で寝よ」
「ええ、でもっ」
「父さんたちもいないんだし。BL漫画読みながら義兄さんの部屋で」
「確かにそのコースは魅力的だな」
しかしその時机の上から滑り落ちた薄い本に背筋が凍り付く。
「これって……ぼくがモデルの……?ねぇ、義兄さん」
昴が同人誌を拾い上げる。
「この相手の男」
「ひうんっ!?」
「……トウキ?」
「ほ……ホンニンジャナイヨ……モデルってだけで」
「なぁるほど……義兄さんはぼくと付き合いながらトウキとぼくがBでLする漫画を描いていたと」
「ご……誤解なんですぅっ!それは……それはSNS界では公認カップルなの!スバトーなのぉっ!」
「……はぁ。義兄さん」
「は、はい」
「今度BLドラマの出演が決まったんだ。主演はぼくとトウキ」
「じゃぁ公式スバトーが見られる!?」
「そうだけど義兄さん。義兄さんが付き合ってるのは誰?」
「昴ですとも」
「分かっているのなら許そう」
「ふあぁいっ!すみませんんんっ!」
「いや……その、むしろぼくは義兄さんが気にすると思って……」
「へぁ?」
「ぼくがBLドラマに出て、誰かと付き合うこと」
「ドラマはドラマ、リアルは別だろ?」
「ぶっ」
「何かおかしなこといったか?」
「ふふっ、ふははっ。いや、何も。義兄さんの逞しさを改めて認識した」
「なんだよも~~、俺のこと軟弱だとでも思ってたのか?」
「ナーイショッ」
「ずるい~~っ!」
「はいはい、駄々こねてないでそろそろ寝ようか、義兄さん」
「こねてないーっ!」
しかし部屋の明かりが消されれば、ふわりと心地よい腕が抱き締めてくる。
「昴」
「義兄さん、大好きだよ」
「し……知ってる」
「義兄さんは?」
「えと……」
「ぼくのこと、愛してる?」
「うう……愛してるよ、バカ」
全くもう。知ってるくせに。


