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【資料番号】国立〇〇医療センター・症例報告書(非公開)
【症例番号】Case-Report: 2026-F-0441
【執筆者】消化器外科・主任執刀医(事案後、精神科転科につき匿名)
【患者】27歳 男性(阿武隈川流域事案・唯一の生存者)
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本症例は、通常の消化器疾患の範疇を完全に逸脱している。
当初、患者は「腹部深層からの異常な咀嚼音」および「慢性的な激痛」を訴えて来院した。腹部レントゲンおよびCTスキャンにおいて、胃壁全域に及ぶ広範な「石灰化異物」を確認。開腹手術による摘出を試みた際の記録をここに記す。
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【1:術前画像診断における異常所見】
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CT画像およびX線写真により、患者の胃内部に大量の「高密度組織」が充満していることが判明した。
当初は毛髪胃石(ベゾアール)を疑ったが、画像解析の結果、これらは単なる未消化物の塊ではなかった。
組織の輪郭は極めて鮮明であり、ヒトの「臼歯」および「指骨」に酷似したパーツが、数百単位で胃壁を覆い尽くすように密集している様子が観察された。
特筆すべきは、これらが胃内に「停滞」しているのではなく、胃粘膜を貫通し、患者の固有筋層から直接「発芽」するように生着している点である。
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【2:開腹手術における実況記録(2026年2月21日 14時~)】
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14:15:
正中切開にて開腹。腹膜を露出させた瞬間、執刀医および助手全員が「異音」を感知した。
患者の腹腔内から、砂を噛み砕くような**「ジャリ……、ジャリ……」**という湿った振動が、マイクを介さずとも術者に直接伝わってきた。
14:30:
胃壁を露出。胃は通常の三倍以上に膨張し、表面には血管が異常に怒張していた。
メスを入れた瞬間、内容物の内圧により胃壁が裂開。
中から溢れ出したのは、未消化の食物ではなかった。
それは、数千個に及ぶ「石灰化した肉の礫(つぶて)」であった。
14:50:
吸引および摘出を開始。
内容物を解体したところ、胃の中心部に、直径約15cmの「肉塊(テラトーマ状組織)」を発見。
この肉塊は、患者の腹部大動脈から直接太い血管を引き込み、独自の「鼓動」を打っていた。
肉塊の表面には、不完全な形成を遂げた「顔の下半分」が露出しており、剥き出しの顎が絶え間なく上下に動き、周囲の「歯の欠片」を咀嚼し続けていた。
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【3:手術中の「反乱」と事故の記録】
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15:10:
主任執刀医が、肉塊と胃壁の結合部を剥離しようとした際、事案が発生した。
肉塊の顎が突如として異常な反射運動を見せ、執刀医の右手指(第二指および第三指)を強固に咬合。
術者のグローブを貫通し、骨に達する深傷を負わせた。
この際、麻酔下にあるはずの患者の喉ではなく、**「開かれた胃の中にある口」**から、
「……まだ……、……たりない……」
という、腐敗した空気の漏れるような不明瞭な音声が記録された。
術野からは大量の鮮血が噴出したが、それは患者の血液ではなく、胃の中から溢れ出した「別の何か」の血液であった。
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【4:病理鑑定結果:個体の不一致】
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摘出された組織および「肉の礫」を病理鑑定に回した結果、驚愕の事実が判明した。
1. 組織のDNAは、患者(息子)のものではない。
2. それは、二十年以上前に失踪した患者の母親、および数年前に死亡した父親の遺伝子が、「キメラ状」に混ざり合ったものである。
3. 組織の一部には、しじみの貝殻成分(炭酸カルシウム)が細胞レベルで同化しており、これが「ジャリジャリ」という音を出す原因となっていた。
結論として、患者の胃の中で成長していたのは「腫瘍」ではない。
摂取された死者のカケラが、患者の血を吸って再構築された、「ゾンビ的な特性を持つ生体パーツの集合体」であった。
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【調査員 A による補遺:術後の経過】
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手術後、摘出された組織は厳重に封印されたが、患者の予後は芳しくない。
摘出されたはずの「咀嚼音」は、現在、患者の胃ではなく脊髄の深層から聞こえ始めているという。
患者は病室で、自身の抜け落ちた歯や爪を、恍惚とした表情で飲み込み続けている。
「お母さんが、新しい場所を欲しがってるんだ」
彼がそう呟くとき、その瞳にはもはや人間の理性は残っていない。
儀式は、外科手術という「切断」によっても終わることはなかった。
むしろ、傷口という「新しい門」を得たことで、侵食は加速しているのである。
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記録終了
【資料番号】国立〇〇医療センター・症例報告書(非公開)
【症例番号】Case-Report: 2026-F-0441
【執筆者】消化器外科・主任執刀医(事案後、精神科転科につき匿名)
【患者】27歳 男性(阿武隈川流域事案・唯一の生存者)
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本症例は、通常の消化器疾患の範疇を完全に逸脱している。
当初、患者は「腹部深層からの異常な咀嚼音」および「慢性的な激痛」を訴えて来院した。腹部レントゲンおよびCTスキャンにおいて、胃壁全域に及ぶ広範な「石灰化異物」を確認。開腹手術による摘出を試みた際の記録をここに記す。
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【1:術前画像診断における異常所見】
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CT画像およびX線写真により、患者の胃内部に大量の「高密度組織」が充満していることが判明した。
当初は毛髪胃石(ベゾアール)を疑ったが、画像解析の結果、これらは単なる未消化物の塊ではなかった。
組織の輪郭は極めて鮮明であり、ヒトの「臼歯」および「指骨」に酷似したパーツが、数百単位で胃壁を覆い尽くすように密集している様子が観察された。
特筆すべきは、これらが胃内に「停滞」しているのではなく、胃粘膜を貫通し、患者の固有筋層から直接「発芽」するように生着している点である。
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【2:開腹手術における実況記録(2026年2月21日 14時~)】
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14:15:
正中切開にて開腹。腹膜を露出させた瞬間、執刀医および助手全員が「異音」を感知した。
患者の腹腔内から、砂を噛み砕くような**「ジャリ……、ジャリ……」**という湿った振動が、マイクを介さずとも術者に直接伝わってきた。
14:30:
胃壁を露出。胃は通常の三倍以上に膨張し、表面には血管が異常に怒張していた。
メスを入れた瞬間、内容物の内圧により胃壁が裂開。
中から溢れ出したのは、未消化の食物ではなかった。
それは、数千個に及ぶ「石灰化した肉の礫(つぶて)」であった。
14:50:
吸引および摘出を開始。
内容物を解体したところ、胃の中心部に、直径約15cmの「肉塊(テラトーマ状組織)」を発見。
この肉塊は、患者の腹部大動脈から直接太い血管を引き込み、独自の「鼓動」を打っていた。
肉塊の表面には、不完全な形成を遂げた「顔の下半分」が露出しており、剥き出しの顎が絶え間なく上下に動き、周囲の「歯の欠片」を咀嚼し続けていた。
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【3:手術中の「反乱」と事故の記録】
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15:10:
主任執刀医が、肉塊と胃壁の結合部を剥離しようとした際、事案が発生した。
肉塊の顎が突如として異常な反射運動を見せ、執刀医の右手指(第二指および第三指)を強固に咬合。
術者のグローブを貫通し、骨に達する深傷を負わせた。
この際、麻酔下にあるはずの患者の喉ではなく、**「開かれた胃の中にある口」**から、
「……まだ……、……たりない……」
という、腐敗した空気の漏れるような不明瞭な音声が記録された。
術野からは大量の鮮血が噴出したが、それは患者の血液ではなく、胃の中から溢れ出した「別の何か」の血液であった。
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【4:病理鑑定結果:個体の不一致】
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摘出された組織および「肉の礫」を病理鑑定に回した結果、驚愕の事実が判明した。
1. 組織のDNAは、患者(息子)のものではない。
2. それは、二十年以上前に失踪した患者の母親、および数年前に死亡した父親の遺伝子が、「キメラ状」に混ざり合ったものである。
3. 組織の一部には、しじみの貝殻成分(炭酸カルシウム)が細胞レベルで同化しており、これが「ジャリジャリ」という音を出す原因となっていた。
結論として、患者の胃の中で成長していたのは「腫瘍」ではない。
摂取された死者のカケラが、患者の血を吸って再構築された、「ゾンビ的な特性を持つ生体パーツの集合体」であった。
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【調査員 A による補遺:術後の経過】
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手術後、摘出された組織は厳重に封印されたが、患者の予後は芳しくない。
摘出されたはずの「咀嚼音」は、現在、患者の胃ではなく脊髄の深層から聞こえ始めているという。
患者は病室で、自身の抜け落ちた歯や爪を、恍惚とした表情で飲み込み続けている。
「お母さんが、新しい場所を欲しがってるんだ」
彼がそう呟くとき、その瞳にはもはや人間の理性は残っていない。
儀式は、外科手術という「切断」によっても終わることはなかった。
むしろ、傷口という「新しい門」を得たことで、侵食は加速しているのである。
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記録終了
