……さて、どうしよう。
僕は心の中でにっこりマークよろしく微笑んで、でも現実は焦りでいっぱいだった。
今日は体育があって、こればっかりはもう仕方ないと割り切ってる。
ただ、気分で動く体育教師が居るから、ほぼ毎回のように授業の場所が変わる。
一限目の授業中、先生が『今日は寒いから体育館に集合』って廊下から言ってきて、みんながザワついていた。
そりゃあ寒いの嫌だもんね。
でも今の問題は、これから二人一組になって準備運動をするということだった。
今までしなかったのに、出欠を取り終えた先生が『今日は趣向変えてみるかー』なんてのほほんと言ったから、僕は先生に向けて初めて悪態を吐いた。
なんでこんなこと考えつくんだ、僕みたいなぼっちはどうしたらいいんだよ!
……なんて、面と向かって言える勇気があれば苦労しない。もし言ったとして、怒られるのは確実だと思うけど。
「──お、糸瀬は一人か。仕方ない、どっかのグループ……いや、ここは俺と組むか」
「え」
すると僕が一人でぽつんと立ってるのに気付いたのか、先生がちょいちょいと手招きしてくる。
見ればもう二人一組のグループがいくつも出来ていて、立っているのは見渡す限り僕だけ。
改めて先生を見ると、上機嫌なのを隠そうともしていなかった。
……あれ、もしかして前に行って先生と一緒にお手本をやるんですか?
「……はい」
そう言いたいのをぐっと堪えて、僕は先生のところに向かった。
ああ注目されてる。みんなの視線が痛い。消えてしまいたい。
「──糸瀬っ」
「っ……!?」
でも脚を踏み出したと同時に、体操服のズボンの裾をくいと引かれた。
かすかな力にそのまま振り返ると、木嶋くんが僕を見上げてにっこりと微笑んでいるのが視界に入る。
「俺らと一緒に組も。な?」
「え、ええ……?」
突然の事に僕は目を瞬かせるしかできなくて、先生と木嶋くんとを交互に見た。
さっきまで注目されてるだろうなとか、みんながコソコソと何か言ってるだろうなとか、そういうことばかり考えてたのにもう気にしていられない。
「な、いいっしょ。二人より三人の方が楽しそうだし」
木嶋くんが顔の前に手をやって、隣りに座ってる男の子に頼み込む。
「オレはいいけど。……ってか、糸瀬の意見も聞けよ」
可哀想だろ、なんて呆れたふうに言う黒髪の男の子。
えっと、この人は確か……。
「あ、兼末っていいまーす」
僕の心を読んだように、兼末くんが小さく手を上げて自己紹介してくる。
夢菜にも指摘されるけど、そんなに分かりやすいかな。
「……っし、一応全員グループ組んだな」
すると先生の声が聞こえてきて、僕は慌てて木嶋くんと兼末くんに倣うように二人の少し後ろに座った。
「んじゃあ中村、前出て」
「なんで俺なんすか!?」
「いや、手本見せないとだろ。先生一人じゃ何もできん」
「じゃあ最初っから二人一組になれ、って言わなかったらいいでしょ!?」
「今日やるって朝決めたから、今更変えるのはちょっとなぁ。っておい、もう五分経ってるから早く立て!」
「えーーーーー」
一番前に座っていたらしい中村くんと先生のやり取りに、ドッとみんなが笑う。
「……ふふっ」
僕もつられるように笑ってしまって、中村くんも先生の意志が固いって分かってるのか、しぶしぶ立ち上がるのが見える。
「まずは背中合わせになって──」
視線は前に向けつつお手本を見ていると、木嶋くんと兼末くんがボソボソと話してるのが聞こえてきた。
「……んで、さっきの続きな」
「今言うのおかしくね? まぁ聞くけど」
兼末くんが溜め息を吐きながら言うと、すぐに木嶋くんが何かを耳打ちした。
先生の大きな声が体育館に反響してるから、何を話してるのかはあんまり聞こえない。
そもそも盗み聞きする気はこれっぽっちもないから、たとえ聞こえたとしても聞き流すけど。
……せっかく木嶋くんが仲間に入れてくれて、本当なら嬉しいはずなのに、誰かが僕抜きで楽しそうに話してるのを見るとどうしても駄目だ。
やっぱり僕は邪魔なんだろうな、僕なんかと話してもつまらないだろうな、って嫌な考えばかりが浮かんでくる。
もちろん切り替えないとって思うから、精一杯大丈夫なふりをする。
「ほんじゃあ、今やったみたいに隣りの人としっかり準備運動してくださーい」
先生の間延びした声が聞こえる。
どうやらお手本が終わったみたいで、中村くんはというとゼェハァと息を切らせて苦しそうだ。
「や……あの、休憩……いや、パス……」
「先生がお前くらいの時なんか、連続で二回は余裕だったぞ!?」
中村くんの蚊の鳴くような声に、すかさず先生が大声で言う。
「たかが準備運動でこんな、おかしいだろ……」
でももう突っ込む気力は無いみたいで、ガクッと中村くんはその場で膝を突いて頭から突っ伏した。
ちょっとぼんやりしながら見てたけど、後半はハードなやつばっかりだったな。
というか、組体操でやるようなやつがあった気がするのは気のせい、じゃないよねきっと。
はぁ、と小さく息を吐きながら、先生が手を叩いて急かすのに合わせてみんなが立ち上がる。
「さー、やるかぁ。めんどいけど」
なんて言いながら、兼末くんがだらりと両手を前に出した。
「あ、俺先でいい?」
木嶋くんに向けて手を差し出しながら、兼末くんが聞いてくる。
「う、うん」
どっちみち僕は後から入れてもらった身だし、お先にどうぞ。
そう心の中で付け足して、改めて二人の動きを見る。
えっと、最初は向かい合って手を繋いで、思い切り引っ張り合うんだっけ。そのあと背中合わせになって、背筋を伸ばす運動。
「痛てててて! ちょ、茜キツい! キツいって!」
すると兼末くんにどれくらい引っ張られてるのか、木嶋くんの悲痛そうな声が体育館に響く。
「うるせー、腕もげろー」
「酷くね!? なぁ糸瀬、悪魔に腕取られる!」
「……あんまり引っ張っちゃ駄目だよ」
二人のやり取りに苦笑しながら、でも楽しそうな木嶋くんと兼末くんに向けて小さく言う。
そういえば兼末くん、名前に似合わずめちゃくちゃ男っぽいんだよね。
僕も中性的というか、女の子っぽい名前だから初対面の人と話す時は間違われやすい。
まぁSNSもほとんどやってないし、現実で仲良い友達は夢菜だけだからあんまり実感はないけど。
「──そういやさぁ」
「っ!?」
ふと兼末くんが思い出したように、僕の方に顔を向けてくる。
見れば二人は背中合わせになっていて、背筋を伸ばす運動をしていた。
二人ともあんまり身長差がないからか、お互い脚が着いたままで少し不格好に見える。
「薫って呼んでいい?」
「え、あ……っ」
そ、そりゃあいいけど。むしろいいんですか……!?
「おい、糸瀬のこといじめんなよー」
僕が困ってると思ったのか、木嶋くんが間延びした声で口を挟んだ。
「いじめてない。それよかブーメランだから返すわぁ」
「え、えっと」
すかさず兼末くんが言い返して、何がなにやら……この場合、なんて言うのが正解なんだ!?
「あんま話した事ないよな、一応こいつとは小学校からの幼馴染みだから」
にこりと兼末くんが安心させるように笑う。
「そう、なんだ。仲良いんだね」
当たり障りないように、なんとかそれだけを口から絞り出した。
気遣ってくれるのは嬉しいしありがたいけど、いきなり距離を詰めてこられたのはあんまりないから、すぐには頭が追い付かない。
でも嬉しくて、勝手に口角が上がっていくのが分かった。
……あれ、でも僕ってそんな頼りなさそうに見える?
「そ。だからなんかあったら言いなー……まって高い、足つかんて!」
それまでぽつぽつと穏やかに喋っていたけど、突然兼末くんが慌てたようにバタバタと足をバタつかせた。
あ、兼末くん足が浮いてる。それも両足。
「だーいじょーぶだって。こんなん、別に減るもんじゃねぇんだし」
な、と木嶋くんがからかいも含んだ声で言う。
「お前、さっきの仕返しだろ!? 絶対、ぜーったいそう!」
「どーだろーなー」
木嶋くんはのほほんと笑いながら、十秒くらいそのまま兼末くんを抱え上げる。
……こうして見てると木嶋くんは身体つきがしっかりしていて、僕なんか余裕で持ち上げられてしまいそうだった。
「落とすなよ、絶対落とすなよ!?」
「それフリかなんか?」
「ちがーう!」
今度は木嶋くんに変わって、兼末くんの絶叫が体育館に響く。
「お前ら、遊んでないでちゃんとやれー」
やがて見兼ねた先生の声が聞こえてきた。
実際、木嶋くんが腕を引っ張られすぎた仕返しも込みで遊んでるというか……兼末くん、涙目なんですが。
「へぇへぇ」
さすがに先生のひと声でこれ以上やると怒られると思ったのか、木嶋くんが丁重な動きで兼末くんを降ろす。
「あー……バカ大河。嫌うぞ本当」
兼末くんはいじけたように床に手を突いて、恨めしげに木嶋くんを睨んだ。
「んな顔しても説得力ないんだよなー」
睨み付けられた木嶋くんは、楽しそうにケラケラと笑う。
本当に二人は仲良いんだな。軽口で言われても怒らない辺り、木嶋くんは肝が据わってるというか。
ややあって木嶋くんが僕の方に近付いてきて、にっこりと口角を上げた。
「次、糸瀬」
言いながら僕の方に両手を差し出されて、最初は何を言っているのか分からなかった。
「……あ、ああ! ごめん!」
そういえば次は僕の番だ! せっかく木嶋くんが仲間に入れてくれたのに!
「なんで謝んの」
慌てて手を伸ばして反射的に謝罪したけど、木嶋くんは怒るでもなく、くすくすと小さく笑うだけ。
そのまま何を言うでもなく、僕の両手をぎゅうと握った。
さっき身体を動かしてたからかな、木嶋くんの手はぽかぽか温かくて、どうしてか僕までほんの少し体温が上がった気がした。
僕は心の中でにっこりマークよろしく微笑んで、でも現実は焦りでいっぱいだった。
今日は体育があって、こればっかりはもう仕方ないと割り切ってる。
ただ、気分で動く体育教師が居るから、ほぼ毎回のように授業の場所が変わる。
一限目の授業中、先生が『今日は寒いから体育館に集合』って廊下から言ってきて、みんながザワついていた。
そりゃあ寒いの嫌だもんね。
でも今の問題は、これから二人一組になって準備運動をするということだった。
今までしなかったのに、出欠を取り終えた先生が『今日は趣向変えてみるかー』なんてのほほんと言ったから、僕は先生に向けて初めて悪態を吐いた。
なんでこんなこと考えつくんだ、僕みたいなぼっちはどうしたらいいんだよ!
……なんて、面と向かって言える勇気があれば苦労しない。もし言ったとして、怒られるのは確実だと思うけど。
「──お、糸瀬は一人か。仕方ない、どっかのグループ……いや、ここは俺と組むか」
「え」
すると僕が一人でぽつんと立ってるのに気付いたのか、先生がちょいちょいと手招きしてくる。
見ればもう二人一組のグループがいくつも出来ていて、立っているのは見渡す限り僕だけ。
改めて先生を見ると、上機嫌なのを隠そうともしていなかった。
……あれ、もしかして前に行って先生と一緒にお手本をやるんですか?
「……はい」
そう言いたいのをぐっと堪えて、僕は先生のところに向かった。
ああ注目されてる。みんなの視線が痛い。消えてしまいたい。
「──糸瀬っ」
「っ……!?」
でも脚を踏み出したと同時に、体操服のズボンの裾をくいと引かれた。
かすかな力にそのまま振り返ると、木嶋くんが僕を見上げてにっこりと微笑んでいるのが視界に入る。
「俺らと一緒に組も。な?」
「え、ええ……?」
突然の事に僕は目を瞬かせるしかできなくて、先生と木嶋くんとを交互に見た。
さっきまで注目されてるだろうなとか、みんながコソコソと何か言ってるだろうなとか、そういうことばかり考えてたのにもう気にしていられない。
「な、いいっしょ。二人より三人の方が楽しそうだし」
木嶋くんが顔の前に手をやって、隣りに座ってる男の子に頼み込む。
「オレはいいけど。……ってか、糸瀬の意見も聞けよ」
可哀想だろ、なんて呆れたふうに言う黒髪の男の子。
えっと、この人は確か……。
「あ、兼末っていいまーす」
僕の心を読んだように、兼末くんが小さく手を上げて自己紹介してくる。
夢菜にも指摘されるけど、そんなに分かりやすいかな。
「……っし、一応全員グループ組んだな」
すると先生の声が聞こえてきて、僕は慌てて木嶋くんと兼末くんに倣うように二人の少し後ろに座った。
「んじゃあ中村、前出て」
「なんで俺なんすか!?」
「いや、手本見せないとだろ。先生一人じゃ何もできん」
「じゃあ最初っから二人一組になれ、って言わなかったらいいでしょ!?」
「今日やるって朝決めたから、今更変えるのはちょっとなぁ。っておい、もう五分経ってるから早く立て!」
「えーーーーー」
一番前に座っていたらしい中村くんと先生のやり取りに、ドッとみんなが笑う。
「……ふふっ」
僕もつられるように笑ってしまって、中村くんも先生の意志が固いって分かってるのか、しぶしぶ立ち上がるのが見える。
「まずは背中合わせになって──」
視線は前に向けつつお手本を見ていると、木嶋くんと兼末くんがボソボソと話してるのが聞こえてきた。
「……んで、さっきの続きな」
「今言うのおかしくね? まぁ聞くけど」
兼末くんが溜め息を吐きながら言うと、すぐに木嶋くんが何かを耳打ちした。
先生の大きな声が体育館に反響してるから、何を話してるのかはあんまり聞こえない。
そもそも盗み聞きする気はこれっぽっちもないから、たとえ聞こえたとしても聞き流すけど。
……せっかく木嶋くんが仲間に入れてくれて、本当なら嬉しいはずなのに、誰かが僕抜きで楽しそうに話してるのを見るとどうしても駄目だ。
やっぱり僕は邪魔なんだろうな、僕なんかと話してもつまらないだろうな、って嫌な考えばかりが浮かんでくる。
もちろん切り替えないとって思うから、精一杯大丈夫なふりをする。
「ほんじゃあ、今やったみたいに隣りの人としっかり準備運動してくださーい」
先生の間延びした声が聞こえる。
どうやらお手本が終わったみたいで、中村くんはというとゼェハァと息を切らせて苦しそうだ。
「や……あの、休憩……いや、パス……」
「先生がお前くらいの時なんか、連続で二回は余裕だったぞ!?」
中村くんの蚊の鳴くような声に、すかさず先生が大声で言う。
「たかが準備運動でこんな、おかしいだろ……」
でももう突っ込む気力は無いみたいで、ガクッと中村くんはその場で膝を突いて頭から突っ伏した。
ちょっとぼんやりしながら見てたけど、後半はハードなやつばっかりだったな。
というか、組体操でやるようなやつがあった気がするのは気のせい、じゃないよねきっと。
はぁ、と小さく息を吐きながら、先生が手を叩いて急かすのに合わせてみんなが立ち上がる。
「さー、やるかぁ。めんどいけど」
なんて言いながら、兼末くんがだらりと両手を前に出した。
「あ、俺先でいい?」
木嶋くんに向けて手を差し出しながら、兼末くんが聞いてくる。
「う、うん」
どっちみち僕は後から入れてもらった身だし、お先にどうぞ。
そう心の中で付け足して、改めて二人の動きを見る。
えっと、最初は向かい合って手を繋いで、思い切り引っ張り合うんだっけ。そのあと背中合わせになって、背筋を伸ばす運動。
「痛てててて! ちょ、茜キツい! キツいって!」
すると兼末くんにどれくらい引っ張られてるのか、木嶋くんの悲痛そうな声が体育館に響く。
「うるせー、腕もげろー」
「酷くね!? なぁ糸瀬、悪魔に腕取られる!」
「……あんまり引っ張っちゃ駄目だよ」
二人のやり取りに苦笑しながら、でも楽しそうな木嶋くんと兼末くんに向けて小さく言う。
そういえば兼末くん、名前に似合わずめちゃくちゃ男っぽいんだよね。
僕も中性的というか、女の子っぽい名前だから初対面の人と話す時は間違われやすい。
まぁSNSもほとんどやってないし、現実で仲良い友達は夢菜だけだからあんまり実感はないけど。
「──そういやさぁ」
「っ!?」
ふと兼末くんが思い出したように、僕の方に顔を向けてくる。
見れば二人は背中合わせになっていて、背筋を伸ばす運動をしていた。
二人ともあんまり身長差がないからか、お互い脚が着いたままで少し不格好に見える。
「薫って呼んでいい?」
「え、あ……っ」
そ、そりゃあいいけど。むしろいいんですか……!?
「おい、糸瀬のこといじめんなよー」
僕が困ってると思ったのか、木嶋くんが間延びした声で口を挟んだ。
「いじめてない。それよかブーメランだから返すわぁ」
「え、えっと」
すかさず兼末くんが言い返して、何がなにやら……この場合、なんて言うのが正解なんだ!?
「あんま話した事ないよな、一応こいつとは小学校からの幼馴染みだから」
にこりと兼末くんが安心させるように笑う。
「そう、なんだ。仲良いんだね」
当たり障りないように、なんとかそれだけを口から絞り出した。
気遣ってくれるのは嬉しいしありがたいけど、いきなり距離を詰めてこられたのはあんまりないから、すぐには頭が追い付かない。
でも嬉しくて、勝手に口角が上がっていくのが分かった。
……あれ、でも僕ってそんな頼りなさそうに見える?
「そ。だからなんかあったら言いなー……まって高い、足つかんて!」
それまでぽつぽつと穏やかに喋っていたけど、突然兼末くんが慌てたようにバタバタと足をバタつかせた。
あ、兼末くん足が浮いてる。それも両足。
「だーいじょーぶだって。こんなん、別に減るもんじゃねぇんだし」
な、と木嶋くんがからかいも含んだ声で言う。
「お前、さっきの仕返しだろ!? 絶対、ぜーったいそう!」
「どーだろーなー」
木嶋くんはのほほんと笑いながら、十秒くらいそのまま兼末くんを抱え上げる。
……こうして見てると木嶋くんは身体つきがしっかりしていて、僕なんか余裕で持ち上げられてしまいそうだった。
「落とすなよ、絶対落とすなよ!?」
「それフリかなんか?」
「ちがーう!」
今度は木嶋くんに変わって、兼末くんの絶叫が体育館に響く。
「お前ら、遊んでないでちゃんとやれー」
やがて見兼ねた先生の声が聞こえてきた。
実際、木嶋くんが腕を引っ張られすぎた仕返しも込みで遊んでるというか……兼末くん、涙目なんですが。
「へぇへぇ」
さすがに先生のひと声でこれ以上やると怒られると思ったのか、木嶋くんが丁重な動きで兼末くんを降ろす。
「あー……バカ大河。嫌うぞ本当」
兼末くんはいじけたように床に手を突いて、恨めしげに木嶋くんを睨んだ。
「んな顔しても説得力ないんだよなー」
睨み付けられた木嶋くんは、楽しそうにケラケラと笑う。
本当に二人は仲良いんだな。軽口で言われても怒らない辺り、木嶋くんは肝が据わってるというか。
ややあって木嶋くんが僕の方に近付いてきて、にっこりと口角を上げた。
「次、糸瀬」
言いながら僕の方に両手を差し出されて、最初は何を言っているのか分からなかった。
「……あ、ああ! ごめん!」
そういえば次は僕の番だ! せっかく木嶋くんが仲間に入れてくれたのに!
「なんで謝んの」
慌てて手を伸ばして反射的に謝罪したけど、木嶋くんは怒るでもなく、くすくすと小さく笑うだけ。
そのまま何を言うでもなく、僕の両手をぎゅうと握った。
さっき身体を動かしてたからかな、木嶋くんの手はぽかぽか温かくて、どうしてか僕までほんの少し体温が上がった気がした。

