「はぁ……」
テーブルに頭を預けて、お腹の奥から思いっきり息を吐く。
溜め息を吐いたら幸せが逃げるって言うけど、そこまで気を遣う余裕はなかった。
「──今日は喜んだり落ち込んだり、忙しいねぇ」
すると苦笑いした声が聞こえてきて、僕はのっそりと顔を上げる。
見れば夢菜がトレイを持って、歩いてくるのが見えた。
土曜日の今日は僕のリクエストで、ショッピングモールに来ている。
前は夢菜の希望で公園のイベントに行ったきりだったから、今度はゆっくり遊んだりご飯を食べよう、ってことで朝からずっと居る。
ゲーセンに行ったり服を見たり、欲しかったものを無事に買えたりで、いつもより充実してるはず……なんだけど。
「だって……最近どうしたらいいのか分からなくて」
「お? なになに、噂の木嶋くん?」
僕の言葉に夢菜はいそいそと向かいの椅子に座ると、やや前のめりになって聞いてくる。
なんというか、ここまで楽しそうな……ううん、何か悪巧みしてそうな夢菜も新鮮だな。
確かに木嶋くんのことで悩んでるのは事実だけど、言ったら言ったで絶対からかわれるだろうし。
夢菜は思ったことははっきり言うものの、僕が本気で嫌なことや貶すようなことは言わない。
それは木嶋くんも同様で、というかそれが普通なんだろうけど。
「まぁ……ちょっと、色々あって」
「なによー、親友様には教えてくれないの?」
それとなく濁すと、すかさず夢菜が小さく頬を膨らませる。
けれどポテトを一本摘みながら、夢菜が笑う。
「じゃあなんだろ、あんまりテストの出来がよくなかったとか。……って、それは私なんだけど」
「テストはまぁまぁ、かな。多分平均よりちょっと上くらい」
平均以上あって欲しいけど、今回の出来は正直なところ自信がない。
「ま、模試に比べたらマシだよね。学校の方がムズいっておかしいー」
すると夢菜は努めて明るい声で言って、『薫も食べな?』とポテトを向けてくる。
「そ、だね」
夢菜の声にどこか上の空でポテトをつまみながら、頭の中では木嶋くんのことを考えていた。
テストが終わってからずっと、電話越しに木嶋くんが放った『俺のなんすよ』って声が頭の中を巡っている。
もちろん、あれは僕じゃなくてリオのあみぐるみ『が』だって分かってる。
翌日、それとなく木嶋くんのリュックを確認してみたら、ファスナーの持ち手にリオが付けられていたから、テスト期間中に付けたのは確定だと思う。
あくまで予想だけど、ちゃんと木嶋くんへの好意を自覚してから話すのが苦痛になっていた。
当たり障りない程度に相槌を打って、でも何を言ってるのかはあんまり覚えてない。
夢菜に気付かれないように、テーブルの下で手を握り締める。
僕はこれからどんな顔をして、木嶋くんと話せばいいんだろう。
どうしたら普通に、それこそ『友達』として傍に居られるんだろう。
──木嶋くんも『僕のことが好き』って、そんなことは絶対にないのに。
夢菜に相談するべきか迷った。
夢菜の言う『恋愛感情が分からない』って言葉がどういう意味か理解してる。
なのに僕の一方的な恋愛相談でも、夢菜は真剣に話を聞いてくれる。
なんなら自分を責めないように、何度も優しい言葉を掛けてくれた。
それは気持ちを強く自覚する言葉にもなって、でも木嶋くんと通話した日の夜も相談してしまったから、今日も聞くのは僕にとって都合がよすぎるんじゃないか。
「……ってか、平日なのに今日は人多いね。ライブあるのかな、ここから近いし」
きょろきょろと周りを見回す夢菜につられて、僕もそれとなく周囲を見る。
二十代くらいの女性を中心に、ちらほらと男性がフードコート内を歩いているのが視界に入った。
でも席はほとんど空いてなくて、というか八割くらいが同じTシャツを着てるのは少し異質だなと思う。
そういえば茜くんが、今日この近くで木嶋くんに会えるって言ってたな。
「あ、もしかして」
すると夢菜が慌ててスマホを取り出して、僕に見えるようにテーブルに置くと検索アプリを開いた。
「──あった、これ」
「え」
真っ先に目に入ったのは大きく書かれた英語で、Fleuve de nuit──フルーヴ・ドゥ・ニュイ──木嶋くんがここでライブをする、と言っていた画像だった。
というかそれは僕が描いたチラシで、ラフ画を見せた時に木嶋くんが好きだって言って選んでくれたものだ。
でもラフ画を頼まれた時、ライブは月末だって言ってた。
しかも今は十二月の半ばで、その日から二週間以上過ぎている。
疑問に思いながら日付けを見ると今日明日の二日間で、始まるのは十七時かららしかった。
「へぇ、近くでライブあるんだって。まだ結構時間あるし、行ってみない?」
スマホの時間を見ると十五時を過ぎたばかりで、会場までそう遠くない。
「そうだね。……行ってみよっか」
木嶋くんに会えたらな、って多少は期待して来たところもあるけど、いつまでも落ち込んでちゃ夢菜に心配される。
がやがやとしたフードコートの喧騒が、今だけは救いだと思った。
テーブルに頭を預けて、お腹の奥から思いっきり息を吐く。
溜め息を吐いたら幸せが逃げるって言うけど、そこまで気を遣う余裕はなかった。
「──今日は喜んだり落ち込んだり、忙しいねぇ」
すると苦笑いした声が聞こえてきて、僕はのっそりと顔を上げる。
見れば夢菜がトレイを持って、歩いてくるのが見えた。
土曜日の今日は僕のリクエストで、ショッピングモールに来ている。
前は夢菜の希望で公園のイベントに行ったきりだったから、今度はゆっくり遊んだりご飯を食べよう、ってことで朝からずっと居る。
ゲーセンに行ったり服を見たり、欲しかったものを無事に買えたりで、いつもより充実してるはず……なんだけど。
「だって……最近どうしたらいいのか分からなくて」
「お? なになに、噂の木嶋くん?」
僕の言葉に夢菜はいそいそと向かいの椅子に座ると、やや前のめりになって聞いてくる。
なんというか、ここまで楽しそうな……ううん、何か悪巧みしてそうな夢菜も新鮮だな。
確かに木嶋くんのことで悩んでるのは事実だけど、言ったら言ったで絶対からかわれるだろうし。
夢菜は思ったことははっきり言うものの、僕が本気で嫌なことや貶すようなことは言わない。
それは木嶋くんも同様で、というかそれが普通なんだろうけど。
「まぁ……ちょっと、色々あって」
「なによー、親友様には教えてくれないの?」
それとなく濁すと、すかさず夢菜が小さく頬を膨らませる。
けれどポテトを一本摘みながら、夢菜が笑う。
「じゃあなんだろ、あんまりテストの出来がよくなかったとか。……って、それは私なんだけど」
「テストはまぁまぁ、かな。多分平均よりちょっと上くらい」
平均以上あって欲しいけど、今回の出来は正直なところ自信がない。
「ま、模試に比べたらマシだよね。学校の方がムズいっておかしいー」
すると夢菜は努めて明るい声で言って、『薫も食べな?』とポテトを向けてくる。
「そ、だね」
夢菜の声にどこか上の空でポテトをつまみながら、頭の中では木嶋くんのことを考えていた。
テストが終わってからずっと、電話越しに木嶋くんが放った『俺のなんすよ』って声が頭の中を巡っている。
もちろん、あれは僕じゃなくてリオのあみぐるみ『が』だって分かってる。
翌日、それとなく木嶋くんのリュックを確認してみたら、ファスナーの持ち手にリオが付けられていたから、テスト期間中に付けたのは確定だと思う。
あくまで予想だけど、ちゃんと木嶋くんへの好意を自覚してから話すのが苦痛になっていた。
当たり障りない程度に相槌を打って、でも何を言ってるのかはあんまり覚えてない。
夢菜に気付かれないように、テーブルの下で手を握り締める。
僕はこれからどんな顔をして、木嶋くんと話せばいいんだろう。
どうしたら普通に、それこそ『友達』として傍に居られるんだろう。
──木嶋くんも『僕のことが好き』って、そんなことは絶対にないのに。
夢菜に相談するべきか迷った。
夢菜の言う『恋愛感情が分からない』って言葉がどういう意味か理解してる。
なのに僕の一方的な恋愛相談でも、夢菜は真剣に話を聞いてくれる。
なんなら自分を責めないように、何度も優しい言葉を掛けてくれた。
それは気持ちを強く自覚する言葉にもなって、でも木嶋くんと通話した日の夜も相談してしまったから、今日も聞くのは僕にとって都合がよすぎるんじゃないか。
「……ってか、平日なのに今日は人多いね。ライブあるのかな、ここから近いし」
きょろきょろと周りを見回す夢菜につられて、僕もそれとなく周囲を見る。
二十代くらいの女性を中心に、ちらほらと男性がフードコート内を歩いているのが視界に入った。
でも席はほとんど空いてなくて、というか八割くらいが同じTシャツを着てるのは少し異質だなと思う。
そういえば茜くんが、今日この近くで木嶋くんに会えるって言ってたな。
「あ、もしかして」
すると夢菜が慌ててスマホを取り出して、僕に見えるようにテーブルに置くと検索アプリを開いた。
「──あった、これ」
「え」
真っ先に目に入ったのは大きく書かれた英語で、Fleuve de nuit──フルーヴ・ドゥ・ニュイ──木嶋くんがここでライブをする、と言っていた画像だった。
というかそれは僕が描いたチラシで、ラフ画を見せた時に木嶋くんが好きだって言って選んでくれたものだ。
でもラフ画を頼まれた時、ライブは月末だって言ってた。
しかも今は十二月の半ばで、その日から二週間以上過ぎている。
疑問に思いながら日付けを見ると今日明日の二日間で、始まるのは十七時かららしかった。
「へぇ、近くでライブあるんだって。まだ結構時間あるし、行ってみない?」
スマホの時間を見ると十五時を過ぎたばかりで、会場までそう遠くない。
「そうだね。……行ってみよっか」
木嶋くんに会えたらな、って多少は期待して来たところもあるけど、いつまでも落ち込んでちゃ夢菜に心配される。
がやがやとしたフードコートの喧騒が、今だけは救いだと思った。

