むすんで、ほどいて、君の名を呼ぶ

 やがて甘いものを食べ終えて、温かい飲み物で人心地ついた頃。

 僕は改めて、木嶋くんに対する気持ちを夢菜に吐露した。

「……夢菜はそう言ってくれても、木嶋くんはただの友達って思ってるかもしれない。それに男、同士……だし」

 後半はお店の喧騒も相俟って聞こえてないかもしれないけど、どうしても小声になる。

 そりゃあ最近は多様性とか色々言われてて、そういう指向の人も居るって理解してる。

 ただ、いざ自分が同性を好きだって……木嶋くんを好きだって思ったら、恥ずかしさと同じくらい不安が募った。

「今どき誰もそんなの気にしないと思うけどなぁ。クラスにも付き合ってる子は居るから、あながちアリかもよ?」

 僕がネガティブ思考になってるのとは対照的に、夢菜はあっけらかんと学校内の恋愛事情をバラす。

「簡単に言うよなぁ……」

 夢菜はお嬢様学校で、僕は共学で。

 そりゃあ価値観の違いとか、それこそ人との関わり方とか丸っきり違うのかもしれないけど。

「……もしかして私、薫にとって嫌なこと言った?」

 落ち込んだ僕の反応に、夢菜が慌てたように顔を覗き込んでくる。

「ごめん、そういうつもりはなくて。ただ、そこまで悩んでる薫もあんまり見たことないから、思ったこと言い過ぎた」

 ごめん、と夢菜がもう一度謝ってくる。

 ……本当、夢菜のそういうところが好きになったんだよね。

 僕が泣いたり悩んだりしたらずっと話を聞いてくれて、傍に居てくれる。

 反対に夢菜が同じ事になったら隠そうとするのが、玉に(きず)だけど。

「大丈夫か、って言われたら……大丈夫じゃない」

 もう冷めてしまった珈琲の水面を見つめながら、僕は小さく呟く。

「でも、ありがと。こんな相談、乗ってくれて」

 まっすぐに夢菜を見て、僕はありったけの感謝を言葉に込めた。

 きっとこの先も迷惑掛けるかもしれないけど、というかまだ自分の感情を自覚しただけなんだけど。

 どんな事があっても、夢菜は僕の味方で居てくれるんだろうな。

「いいえー」

 のんびりとした口調で夢菜が笑い、僕も釣られて笑う。

「あ、そういえば聞いて。月曜日、クラスの子が──」

 そうしてしばらくの間、お互いの学校での出来事を近況報告も兼ねて言い合っていると、不意に夢菜がパンと両手を叩いてテンション高めに言った。

「──さて、親友の恋が実るのを願って。今日は私の奢りでーす!」

「や、そこまでは」

 無理を言ってカフェで話を聞いてもらって、そう日にちも経たないうちから友達と遊ぶ予定もあるのに。

 でも『悪いよ』って言う前に、夢菜がひょいと伝票を摘んで自分の顔に持ってくる。

「いいの、私が奢りたいんだから。……まぁ無事に木嶋くんと付き合ったら、二倍三倍にして返してもらうけど」

 最後の方はこれ以上ないほど低い声で、加えてにっこりと綺麗な笑顔を浮かべられた。

 ……お小遣い、足りるかな。

「でも最低六千円くらいかぁ」

 それくらいなら毛糸を買うとすぐに無くなるから、まだ許容範囲かも。

「ごめん、冗談。薫と私の金銭感覚、そもそも違うんだった」

「え」

 自分じゃそう思ってないんだけど。なんだか夢菜が珍しく遠慮してる気がする。

「普通、それくらい使わない?」

 僕がそう尋ねても夢菜は苦笑するだけで、なぜかこの問い掛けにははっきり答えてくれなかった。