自動販売機の前で、三人は立ち止まった。
朝倉がポケットを探って小銭を出した。「何がいい?」とユリに聞いた。
ユリが光る列を眺めた。「温かいものなら、何でも」
「美佳は?」
「同じで」
朝倉がボタンを三つ押した。缶が落ちる音が三回した。朝倉が一本ずつ渡した。コーンスープだった。
ユリが両手で缶を包んだ。目を閉じた。温度を確かめているようだった。
美佳も缶を持った。手のひらに熱が伝わってきた。
三人はしばらく、自動販売機の前に立っていた。
特に話すことがあったわけではなかった。ただ、すぐに動く気にならなかった。
ユリがプルタブを開けた。一口飲んで、「おいしいです」と言った。
「よかった」と朝倉は言った。
美佳も缶を開けた。甘くて、塩気があって、体の芯に届く温度だった。自動販売機のコーンスープが、こんなに必要なものに感じられた夜は初めてだと思った。
「美佳さん」とユリが言った。
「はい」
「昨日の夜、一人でここにいて──変なこと考えていました」
「変なこと」
「もう答えを求めるのをやめたら、楽になれるかなって」
美佳は缶を持ったまま、ユリを見た。
「答えをやめるんじゃなくて」とユリは続けた。「もっと根本的なところで、やめたら、って」
美佳は「根本的なところで」という言葉を、一度だけ確かめた。「今もそう思っていますか」と聞いた。
ユリが少し考えた。「今は思っていないです」とユリは言った。「でも昨夜は、かなり思っていました」
「教えてくれてありがとうございます」と美佳は言った。
朝倉が缶を持ったまま、ユリの隣に来た。何も言わなかった。ただ隣に立った。
「一つだけ聞いていいですか」と美佳は言った。
「はい」
「今は、どうして思わなくなりましたか」
ユリが少し考えた。すぐには答えなかった。
波の音がまだ遠くから聞こえていた。
「夜が明けたから、だと思います」とユリは言った。「それだけです」
「それだけで十分です」と美佳は言った。
ユリが美佳を見た。「怒らないんですか」
「怒っていません」
「心配、とか、なんで一人でいたの、とか」
「心配はしていました。でも今あなたがここにいるから」美佳は缶を少し持ち直した。
「なんで一人でいたかは、分かります」
「分かりますか」
「どこに行けばいいか分からなかったんでしょう。ノートにも書いてありました」
ユリが俯いた。「読まれていますね、全部」
「全部」
「恥ずかしいです、やっぱり」
「でも正直だった」と美佳は言った。「それがよかったと思っています」
朝倉が「そろそろ動こうか」と言った。
「電車、まだありますか」とユリが聞いた。
朝倉が端末を確認した。「あと一時間くらいは大丈夫」
三人で歩き始めた。缶を持ったまま歩いた。自動販売機の光が遠ざかった。
美佳は翔に短く連絡した。今から移動します。今夜はユリを連れて帰ります。Aラインに動きがあれば教えてください。
翔からすぐ返ってきた。了解。今のところ静かです。朝倉さんと一緒にいますか。
一緒にいます。
よかったです。気をつけて。
美佳は端末をしまった。翔らしい返信だと思った。
駅までの道は、来た道と少し違う経路を朝倉が選んだ。遠回りだったが、街灯が多かった。
歩きながら、ユリが「@LAPIS_echoのアカウント、消した方がいいですか」と聞いた。
美佳は少し考えた。「消したいですか」
「消した方がいいと思っています。でも、消したら何かが終わる気がして」
「何が終わりますか」
「分かりません。でも、あそこで見ていた問いたちが──なくなる気がして」
「アカウントを消しても、問いはなくならないです」と美佳は言った。「あなたが六ヶ月書き続けたノートがあるから」
ユリが少し黙った。「そうか」と言った。
「消すかどうかは、急がなくていいです」と
美佳は言った。「ただ、少し離れることはできますか。今夜だけでもいいので」
「できます」とユリは言った。「今夜は見ません」
「それで十分です」
駅が見えてきた。
改札の前で、朝倉が「俺は一度廃施設に戻ります。翔を一人にしておくのが心配なので」と言った。
「大丈夫ですか」と美佳は聞いた。
「翔がいるから大丈夫です」と朝倉は言った。それから少し間を置いて「そっちが大丈夫かどうか、の意味で聞いていますか」と確認した。
「両方の意味で聞きました」と美佳は言った。
「両方大丈夫です」と朝倉は言った。
美佳はそれを信じることにした。朝倉がそう言うときは、大体本当だった。
「翔によろしく言ってください」
「言います」
朝倉がユリの方を向いた。「今夜、美佳の部屋に行ってください。一人にならないでほしいです」
ユリが頷いた。「はい」
朝倉が改札を通った。別のホームへの階段を降りていった。
美佳とユリは同じ路線だった。ホームのベンチに並んで座った。
電車が来るまで十分あった。
「美佳さん」とユリが言った。
「はい」
「さっき話してくれたこと──共感ボタンの仕組みのこと」
「はい」
「悔しいです」とユリは言った。「怒れないって言ったけど、悔しいです」
「それは正直な感覚だと思います」
「育てられていた、って──自分の問いじゃなかったみたいで」
「自分の問いだと思います」と美佳は言った。「ノートの最初の記述は、共感ボタンより二ヶ月前でした。あの問いは最初からあなたのものだった」
「でも、大きくされた」
「大きくされた」と美佳は繰り返した。「それは本当だと思います」
「悔しいです」とユリはもう一度言った。一回目と少し声が違った。泣いているわけではなかったが、何かが動いているような声だった。
美佳は「悔しくていいです」と言った。「その感覚は、正しいと思うから」
ユリが「正しいって言葉、美佳さんはちゃんと使いますね」と言った。
「どういう意味ですか」
「なんとなく、美佳さんは正しいって言葉を使いたがらない人だと思っていました。でも今、使いましたね」
美佳は少し考えた。「使いたがらないのは本当です。でも、使える場面では使います」
「どう違うんですか」
「自分の判断を誰かに押しつけるために使うのが嫌なんだと思います。でも今は、あなたの感覚がどこから来ているか、私には分かる。だから言えました」
ユリが「そうか」と言った。それから「ありがとうございます」と言った。
電車が来た。
空いていた。二人で並んで座った。
ユリが窓の外を見た。暗い車窓に、自分の顔が映っていた。
「美佳さんはこれからどうするんですか」とユリは聞いた。「システムのこと」
「明日、動きます」と美佳は言った。「落とせる部分を落とします」
「私には何もできないですか」
美佳は少し考えた。「今夜ゆっくり眠ることが、今できる一番のことだと思います」
「それだけですか」
「それだけです。でも、それは小さくないです」
ユリが窓から目を離して、美佳を見た。「美佳さんは、全部終わったら、どうしたいですか」
美佳は少し間を置いた。「カフェで普通に働きたいです」と言った。
「普通に」
「普通に」
ユリが少し笑った。初めて見る顔だった。
「それ、普通じゃないですよね、今の状況からしたら」
「そうですね」と美佳は言った。「でも、普通のことが一番難しいときもあるから」
ユリが「そうかもしれない」と言った。
電車が駅を一つ通過した。車内のアナウンスが流れた。
美佳のアパートに着いたのは、夜の十時を少し回った頃だった。
部屋に入ると、美佳はすぐにお湯を沸かした。タオルを出して、ユリに渡した。「シャワー、使えます」と言った。
ユリが「借りていいですか」と言った。
「どうぞ」
ユリがバッグから着替えを出した。一泊分の準備はしていたのだと美佳は思った。どこかへ行くつもりで、ここには来るつもりがなかった。でも準備はしていた。そのことを何も言わなかった。
シャワーの音が聞こえている間、美佳はソファに座って端末を見た。
翔からのメッセージが来ていた。Aラインの動き、今夜はもうないと思います。ミオさんが廃施設に移動しました。有栖川さんと一緒にいます。明日の朝九時に、全員で話しましょう。
美佳は分かりましたと返した。
それから有栖川からも来ていた。ミオさんが、ユリさんに謝りたいと言っていることを、伝えてもらえますか。謝罪を受け取るかどうかは、ユリさんが決めることですが。
美佳は端末を置いた。それは明日でいい、と思った。今夜はいい。
シャワーの音が止まった。
しばらくして、ユリが出てきた。
「少しましになりました」とユリは言った。顔色が戻っていた。
「よかったです」
美佳がマグカップを二つ出した。インスタントのほうじ茶を入れた。ユリに渡した。
二人でソファに座った。
「寝られそうですか」と美佳は聞いた。
「たぶん」とユリは言った。「昨夜あまり眠れなかったから、今夜は眠れると思います」
「そうか」
「美佳さんは」
「眠れます。眠ります」と美佳は言った。意識して言った。
ユリがマグカップを両手で持った。「明日、何が起きますか」
「システムの一部を止めます。全部ではないけれど」
「怖いですか」
「少し」と美佳は言った。「でも、やります」
「私は何もしなくていいですか」
「何もしなくていいです。ここにいてください」
ユリが頷いた。
布団を一組出した。ユリに使ってもらった。
美佳はソファに毛布を引いた。
電気を消す前に、ユリが「美佳さん」と言った。
「はい」
「来てくれてよかったです」
美佳は「来てよかった」と言った。
「おやすみなさい」
「おやすみなさい」
部屋が暗くなった。
外の風の音が、かすかに聞こえた。波の音はもう聞こえなかった。ここまでは届かなかった。
美佳は目を閉じた。
明日のことは、明日考えればいい。今夜だけのことは、今夜で終わった。
朝倉がポケットを探って小銭を出した。「何がいい?」とユリに聞いた。
ユリが光る列を眺めた。「温かいものなら、何でも」
「美佳は?」
「同じで」
朝倉がボタンを三つ押した。缶が落ちる音が三回した。朝倉が一本ずつ渡した。コーンスープだった。
ユリが両手で缶を包んだ。目を閉じた。温度を確かめているようだった。
美佳も缶を持った。手のひらに熱が伝わってきた。
三人はしばらく、自動販売機の前に立っていた。
特に話すことがあったわけではなかった。ただ、すぐに動く気にならなかった。
ユリがプルタブを開けた。一口飲んで、「おいしいです」と言った。
「よかった」と朝倉は言った。
美佳も缶を開けた。甘くて、塩気があって、体の芯に届く温度だった。自動販売機のコーンスープが、こんなに必要なものに感じられた夜は初めてだと思った。
「美佳さん」とユリが言った。
「はい」
「昨日の夜、一人でここにいて──変なこと考えていました」
「変なこと」
「もう答えを求めるのをやめたら、楽になれるかなって」
美佳は缶を持ったまま、ユリを見た。
「答えをやめるんじゃなくて」とユリは続けた。「もっと根本的なところで、やめたら、って」
美佳は「根本的なところで」という言葉を、一度だけ確かめた。「今もそう思っていますか」と聞いた。
ユリが少し考えた。「今は思っていないです」とユリは言った。「でも昨夜は、かなり思っていました」
「教えてくれてありがとうございます」と美佳は言った。
朝倉が缶を持ったまま、ユリの隣に来た。何も言わなかった。ただ隣に立った。
「一つだけ聞いていいですか」と美佳は言った。
「はい」
「今は、どうして思わなくなりましたか」
ユリが少し考えた。すぐには答えなかった。
波の音がまだ遠くから聞こえていた。
「夜が明けたから、だと思います」とユリは言った。「それだけです」
「それだけで十分です」と美佳は言った。
ユリが美佳を見た。「怒らないんですか」
「怒っていません」
「心配、とか、なんで一人でいたの、とか」
「心配はしていました。でも今あなたがここにいるから」美佳は缶を少し持ち直した。
「なんで一人でいたかは、分かります」
「分かりますか」
「どこに行けばいいか分からなかったんでしょう。ノートにも書いてありました」
ユリが俯いた。「読まれていますね、全部」
「全部」
「恥ずかしいです、やっぱり」
「でも正直だった」と美佳は言った。「それがよかったと思っています」
朝倉が「そろそろ動こうか」と言った。
「電車、まだありますか」とユリが聞いた。
朝倉が端末を確認した。「あと一時間くらいは大丈夫」
三人で歩き始めた。缶を持ったまま歩いた。自動販売機の光が遠ざかった。
美佳は翔に短く連絡した。今から移動します。今夜はユリを連れて帰ります。Aラインに動きがあれば教えてください。
翔からすぐ返ってきた。了解。今のところ静かです。朝倉さんと一緒にいますか。
一緒にいます。
よかったです。気をつけて。
美佳は端末をしまった。翔らしい返信だと思った。
駅までの道は、来た道と少し違う経路を朝倉が選んだ。遠回りだったが、街灯が多かった。
歩きながら、ユリが「@LAPIS_echoのアカウント、消した方がいいですか」と聞いた。
美佳は少し考えた。「消したいですか」
「消した方がいいと思っています。でも、消したら何かが終わる気がして」
「何が終わりますか」
「分かりません。でも、あそこで見ていた問いたちが──なくなる気がして」
「アカウントを消しても、問いはなくならないです」と美佳は言った。「あなたが六ヶ月書き続けたノートがあるから」
ユリが少し黙った。「そうか」と言った。
「消すかどうかは、急がなくていいです」と
美佳は言った。「ただ、少し離れることはできますか。今夜だけでもいいので」
「できます」とユリは言った。「今夜は見ません」
「それで十分です」
駅が見えてきた。
改札の前で、朝倉が「俺は一度廃施設に戻ります。翔を一人にしておくのが心配なので」と言った。
「大丈夫ですか」と美佳は聞いた。
「翔がいるから大丈夫です」と朝倉は言った。それから少し間を置いて「そっちが大丈夫かどうか、の意味で聞いていますか」と確認した。
「両方の意味で聞きました」と美佳は言った。
「両方大丈夫です」と朝倉は言った。
美佳はそれを信じることにした。朝倉がそう言うときは、大体本当だった。
「翔によろしく言ってください」
「言います」
朝倉がユリの方を向いた。「今夜、美佳の部屋に行ってください。一人にならないでほしいです」
ユリが頷いた。「はい」
朝倉が改札を通った。別のホームへの階段を降りていった。
美佳とユリは同じ路線だった。ホームのベンチに並んで座った。
電車が来るまで十分あった。
「美佳さん」とユリが言った。
「はい」
「さっき話してくれたこと──共感ボタンの仕組みのこと」
「はい」
「悔しいです」とユリは言った。「怒れないって言ったけど、悔しいです」
「それは正直な感覚だと思います」
「育てられていた、って──自分の問いじゃなかったみたいで」
「自分の問いだと思います」と美佳は言った。「ノートの最初の記述は、共感ボタンより二ヶ月前でした。あの問いは最初からあなたのものだった」
「でも、大きくされた」
「大きくされた」と美佳は繰り返した。「それは本当だと思います」
「悔しいです」とユリはもう一度言った。一回目と少し声が違った。泣いているわけではなかったが、何かが動いているような声だった。
美佳は「悔しくていいです」と言った。「その感覚は、正しいと思うから」
ユリが「正しいって言葉、美佳さんはちゃんと使いますね」と言った。
「どういう意味ですか」
「なんとなく、美佳さんは正しいって言葉を使いたがらない人だと思っていました。でも今、使いましたね」
美佳は少し考えた。「使いたがらないのは本当です。でも、使える場面では使います」
「どう違うんですか」
「自分の判断を誰かに押しつけるために使うのが嫌なんだと思います。でも今は、あなたの感覚がどこから来ているか、私には分かる。だから言えました」
ユリが「そうか」と言った。それから「ありがとうございます」と言った。
電車が来た。
空いていた。二人で並んで座った。
ユリが窓の外を見た。暗い車窓に、自分の顔が映っていた。
「美佳さんはこれからどうするんですか」とユリは聞いた。「システムのこと」
「明日、動きます」と美佳は言った。「落とせる部分を落とします」
「私には何もできないですか」
美佳は少し考えた。「今夜ゆっくり眠ることが、今できる一番のことだと思います」
「それだけですか」
「それだけです。でも、それは小さくないです」
ユリが窓から目を離して、美佳を見た。「美佳さんは、全部終わったら、どうしたいですか」
美佳は少し間を置いた。「カフェで普通に働きたいです」と言った。
「普通に」
「普通に」
ユリが少し笑った。初めて見る顔だった。
「それ、普通じゃないですよね、今の状況からしたら」
「そうですね」と美佳は言った。「でも、普通のことが一番難しいときもあるから」
ユリが「そうかもしれない」と言った。
電車が駅を一つ通過した。車内のアナウンスが流れた。
美佳のアパートに着いたのは、夜の十時を少し回った頃だった。
部屋に入ると、美佳はすぐにお湯を沸かした。タオルを出して、ユリに渡した。「シャワー、使えます」と言った。
ユリが「借りていいですか」と言った。
「どうぞ」
ユリがバッグから着替えを出した。一泊分の準備はしていたのだと美佳は思った。どこかへ行くつもりで、ここには来るつもりがなかった。でも準備はしていた。そのことを何も言わなかった。
シャワーの音が聞こえている間、美佳はソファに座って端末を見た。
翔からのメッセージが来ていた。Aラインの動き、今夜はもうないと思います。ミオさんが廃施設に移動しました。有栖川さんと一緒にいます。明日の朝九時に、全員で話しましょう。
美佳は分かりましたと返した。
それから有栖川からも来ていた。ミオさんが、ユリさんに謝りたいと言っていることを、伝えてもらえますか。謝罪を受け取るかどうかは、ユリさんが決めることですが。
美佳は端末を置いた。それは明日でいい、と思った。今夜はいい。
シャワーの音が止まった。
しばらくして、ユリが出てきた。
「少しましになりました」とユリは言った。顔色が戻っていた。
「よかったです」
美佳がマグカップを二つ出した。インスタントのほうじ茶を入れた。ユリに渡した。
二人でソファに座った。
「寝られそうですか」と美佳は聞いた。
「たぶん」とユリは言った。「昨夜あまり眠れなかったから、今夜は眠れると思います」
「そうか」
「美佳さんは」
「眠れます。眠ります」と美佳は言った。意識して言った。
ユリがマグカップを両手で持った。「明日、何が起きますか」
「システムの一部を止めます。全部ではないけれど」
「怖いですか」
「少し」と美佳は言った。「でも、やります」
「私は何もしなくていいですか」
「何もしなくていいです。ここにいてください」
ユリが頷いた。
布団を一組出した。ユリに使ってもらった。
美佳はソファに毛布を引いた。
電気を消す前に、ユリが「美佳さん」と言った。
「はい」
「来てくれてよかったです」
美佳は「来てよかった」と言った。
「おやすみなさい」
「おやすみなさい」
部屋が暗くなった。
外の風の音が、かすかに聞こえた。波の音はもう聞こえなかった。ここまでは届かなかった。
美佳は目を閉じた。
明日のことは、明日考えればいい。今夜だけのことは、今夜で終わった。



