君は〇〇霊

和気は人気のしない学校までの道を歩いて行く。
頼りになるのは外灯と時々通る車ぐらい。
いつにも増して和気の周りには黒い怪異達が蔓延っていた。
加えて、和気の足先に現れて進路を邪魔しているようで。

「何で、いつもよりこんなに…」

和気はそれらを避けながら学校まで辿り着いた。
校門にはいつものように待ってくれている宵が。

「ごめん、お待たせ。」

和気はフードを引っ張り、より深く被る。

「おっせぇよ。」

宵は和気の足元にいる黒いソレらを一瞥する。
その瞬間、ソレらは和気から距離を取り、スッと消えて行った。

門を押して中に入ってから、念の為元に戻しておく。

そして宵と和気は例の音楽室へと歩き出す。

「夜の間宵は何してるの?」

「何もしてねぇよ。」

「何もしてないことないでしょ。」

「だぁから、何もしてねぇって。多分、夜の間、俺は消えてる。」

宵は自分の手の平を出し、じっと見つめる。

「今日は夜の間も起きようとしたから今ここにいてっけど…
いつもならお前が帰って暫くしてから俺の意識は消えちまってる。」


「そう、なん、だ…」


初めて宵のこういったことを聞けた気がして、
和気は嬉しいような気がした。
だけど______


正門から入って、廊下を進み、目的地へと向かう。
暗い廊下を和気のスマホのライトのみが照らす。
だがふと思い出す。今の現状がおかしいことに。

「ねぇ宵。何でどこも鍵がかかってなかったんだろ。」

二人は足を止める。
窓から月明かりが差し込み、和気のフードの影を作る。

「思えばおかしいよね。用務員さんが毎日かけるはず。
なのにここに来るまでどこも鍵がかかってなかった。」

和気の顔に冷や汗が滲む。

「確かに……おっちゃん、ちゃんと仕事してたな…」

「なら何で…!」

ジージジジジーーーーーー

真っ暗な廊下に明かりが付いては消えてはと、
点滅し始める。
天井にある蛍光灯。
それが夜になって活動をしようとしているのだ。
ボタンなんて押していないのに。

「電気がっ…」

和気は宵の左腕をぎゅっと抱きしめた。

「音楽室でも例の階段でもないのに…」

「いや、ただの怪異や霊なんざそこらじゅうにいる。」

宵は手で押して和気を自分の後ろにやる。


ふんふーん ふんふーん ふんふーん ふーふん


廊下の先から鼻歌が聞こえてくる。
二人は少しだけ背を丸め、警戒する。
鼻歌に反応するかのように蛍光灯は点滅し続ける。


ふーんふふーんふふーーー


子供用な声色で、可愛らしいはずなのに不気味だ。



ふんふんふんふんふんふーふん



………


ふふっ

ふはっ




















ふはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは





子供の笑い声が、二人を囲むように周囲から聞こえてきた。

笑い声が止んでから再び点滅が起こる。
そしてどのタイミングで起こったのか、次に廊下に明かりが戻った際、廊下の先には子供の姿が現れた。

おかっぱ頭に黒色の袴を着た子供。
下を向いていて表情が見えなかった。

次の点滅で、和気に一つ近い蛍光灯の下へ現れる。
そして次も、また次も。
段々と近付いていた。

「えっどどうしよう宵?!」

「ばっか俺に聞かれたって…」

和気は宵の体を横から勢いよく縋り付くかのように抱きしめる。

「どうしよっ…宵…!よぃっ……!」


すぐ手前まで来たその子供は顔を上げる。
目のあるはずの部分は黒く、底が見えない。
そしてゆっくりと、笑う。


『へへっ』


静まり返った廊下にその声が響く。
電灯の点滅が止み、スマホのライトによる明かりに照らされた所だけが鮮明に見える。

和気のフードで隠された顔から涙が落ちた瞬間、


「ふっ、」

「あははっ!ごめんごめんー。」

子供のいる方から、さっきと打って変わって無邪気な笑い声が聞こえる。
和気は恐る恐る顔を上げると、
袴を着ているが至って平凡そうな顔立ちの子供がいた。
彼は笑いつつ腹を抑え、目から少し現れた涙を軽く拭う。

「何おどかそうとしてくれてんのー?」

「ごめんって〜ふふっ。」

その子供は下駄をカラカラとした音を立てながらこちらへと小走りにやってきた。
なのに、先ほどの恐怖はもう薄れている。

「久しぶりに見える側の人間が来てくれたからさ、
嬉しくなっちゃって。
まぁ、君みたいな子は久しぶりに見たけど。」

子供は宵をチラリと見るが、すぐに笑顔を戻す。
和気は相変わらず宵を抱きしめたまま。
だがその力は確かに弱まっていた。

「ほんじゃそこらの霊や怪異なら俺を避ける。
けど、そうじゃねぇってことは………お前だな。」

その子供はにっこりと優しく笑む。
害意なんてない、明るい子供のように。

「__________七不思議が壱番。」


その子供は腕を上げ、大きく丸を描く。

「せいか〜い。
ボクは七不思議が壱番。
だけどボクには何の力もないよ。」

和気が宵に隠れながらその子供に問う。

「どういうこと…?」

その子供は二人の顔を見上げる。

「夜の学校に行こうとする子ども達って多いでしょ?
そしたら、問題になるのが鍵。
おいちゃんが閉めるから入れない。
どうやって入ろう?」

その子供はどこから取り出したのか多くの鍵が取り付けられた輪を取り出し、人差し指でくるくると回す。

「誰か鍵、もう一度開けてくれないかな〜
幽霊さん、開けてくれないかな〜
なーんていう噂の集合体がボク…!」

自信満々にそんなことを言うが、
それはそんなに誇っても良いことなのだろうか。

(まぁ自信持つのはいい、こと…か…?)

「威力としては弱いけど、
肆番さんと同じで僕も歴史が長いんだ。」

「肆番のこと知ってんのか?」

子供は鍵を手で包み、再び開く。すると鍵は消えていた。

「うん、もちろん。けど詳しいことは内緒。
肆番さんの邪魔をしたくはないしね。」

ポケットから懐中時計を取り出し、時間を確認してから子供は目を見開く。

「あっ、もうこんな時間だ。
まだ仕事終わってないのに…」

立ち尽くす二人を残してその子供は手を振り走り去って行く。

「じゃーまたね〜!」

「あっ、おい!」

宵は手を差し伸ばす。
だが、明かりが消えた瞬間にその子供は完全に姿を消した。

宵は伸ばした手を下ろし、気が付いたのか腹に手を回す和気を見る。

和気は気付かなかったが、宵の唾を飲み込んだ後が聞こえた。

「________怖がりかよ。」

「怖いよ。」

宵は和気のフードの下にある瞳を視認した。
いつもは神で隠されているはずの瞳。

「いつも見る霊とかはこんなことしないし…」

「お前…髪、切った?」

「______え…あ、うん。え今?!」

宵は和気の肩と己の腹に回す手を掴み、歩き出す。

「お前がフード被ってるから分かんなかったんだよ。」

和気は屈み気味になりながら宵の後ろをついて行く。


「なんで。」

「え?」

「なんで切ったんだよ。」

和気からは宵の表情が見えない。
宵にとってはそれで良かったのだろうが。

「じぃちゃんに夜の学校に行くって言ったらさ、
危ないから…念の為に、神様に捧げようって。」

和気は宵の手を解き、腹に回していた腕を解いた。
宵は眉を微かに下げる。

「でも、今まで何を捧げても一度だって助けてくれなかったよ。神様なんて、いるのかなぁ…」


「___________さぁな。」

宵の声は何故か、既に知りきっているのように感じた。

***



二人はそのまま歩き進め、廊下の突き当たりにある音楽室を視認する。
そして、

ピアノの音が聞こえてきて足を止める。

低く、
重厚で、
荘厳で、
どこか威圧感を感じる。


和気の背筋が伸び、二人に緊張感が漂う。

「なに?びびってんの?」

宵がわざとらしくニヤける。

「______うるさぃ。」

二人は再び歩き出す。
音楽室に近づくにつれ、ピアノの音は大きくなっていく。
扉の前に辿り着き、宵が扉に手を掛け、、


────────バーン


と、勢いよく開けた。

「えっ?!ちょっ、え?!」

そんな風に開けると思わず、和気は焦る。
しかし、そんなものはすぐに消えた。

二人が音楽室に足を踏み入れた瞬間、
ピアノの音色は一気に変わり、
弾けて明るい、楽しそうな曲になった。

二人の動きは止まる。
そのピアノの音がゆっくりと脳内に流れ込み、侵食して行く。
正常な思考が奪われ、意識が薄れていく。

和気の脳内には、過去のある記憶が蘇った_________