君は〇〇霊─僕らの名前と君の魂─

「_________って」
「俺は_____なんだから____ろ」
「___て、____ぼれが__よ」

「んっ、んん………。」

「和気っ?!」
「和気くん?!」

(もう、なに…うるさいな……。)

重たい身体。
だけど瞼だけでもと、何とか持ち上げた。

座る和気の膝の上には彼の臀部。
僕の頬を両手で挟み、まっすぐ見つめる、宵。

「おっまえまじで心配したんだぞ!急に寝るし魘されてるし土御門はお前に手出そうとするし。」

「やっ、そんなことっしてなっ!」

「だからって何でこんな状況に……。」

和気は思い出したかのように目の前の宵へと向かい合った。

「あっ、宵。伍番はもう、大分力を失ったと思うよ。」

「そっか。」

宵は立ち上がり、和気頭上に手を置いた。

「お疲れさん。伍番の正体は何だったんだ?」

一度瞬きをして、和気も立ち上がる。
その椅子へとゆっくりと振り返った。

「________ただの、普通の子だったよ。」

「ふーん…。」

「もう帰ろう。時間だ。」

土御門はスマホの時計を見せた。
時刻は三時二十分と、
和気の盗撮をアップ画面に表示されていた。

***

静かな廊下、和気達は歩き慣れたように進んでいく。
足音は二人分。
いや、三人分。に変わった。
足を止めても聞こえる一人分の足音。
だが、恐怖は微塵も感じない。
それは直ぐに廊下の角から正体を現した。

「あっれ〜!ボクにまた会えるなんて、運が良いね。」

「うわっ壱番か。」

「 “うわっ”って何さ。」

むすっとした顔で、再びそのおかっぱ頭に黒色の袴を着た子供と再会した。

「そっれっよっりぃ〜七不思議の力が弱まってるね。」

壱番は手を握って開いてを繰り返す。

「伍番まで解き明かしたなんて凄いや。」

悪い意なんて一切ない笑顔で、子供は和気の顔を見上げた。

「ここまでするってことは、君らの目的はやっぱり漆番さんなんだ。」

「俺はそっちも。けどどっちかっつーと俺らは陸番、『名取さん』が本命だ。」

「そっかー。」

壱番の視線は宵から、土御門を経て和気へと注がれる。

「ねぇ、伍番の…あの子に、会ったんだよね?」

和気は頭を縦に振る。

「どうだった?」

和気は感じた。
初めて、この子が本当に幼く見えたのだ。
何せこんなにも心配そうな顔で…

「ただの笑顔が似合う、可愛い子だったよ。」

(自分を、貫いていた…)

脳内に浮かぶのは風に揺らされたスカートを履いた笑顔のあの子。

「そっか、そっか……。」

壱番は安堵した表情を浮かべる。

「良かったね。」

小声でそう呟いた気がした。
もしや接点があるのか、なんて考えつつ、

「屋上でまた会おうって、話したんだ。良かったら君も」

「そりゃ会いたいさ。けど、ボクらは七不思議に縛られてる。あの子と会える時間に、ボクはまだ目覚めていないから。」

壱番は俯く。
同情したのか、和気も暗い顔をしてしまった。
後ろの土御門と宵は立ち尽くしたまま。
この空気をどうしようか。
それは直ぐに解決した。

「気が変わったっ!」

壱番は軽く手を叩いて口角を上げる。

「今ならなーんでも答えてあげる!ボクが知ること。七不思議のことも、もちろん陸番さんや漆番さんのことだって。それか、君の隣にいるお兄さんたちのことも。」

睨まれた二人が肩を上げる。
だが、和気は全く動じていなかった。

「陸番について、教えてほしいな。」

「ふーん。いいよ。君たちがどこまで知ってるのか知らないけど、ボクが知ってることは教えてあげる。

壱番は止めていた足を動かし始め、他三人もそれについて行く。

「まず、陸番さんはボクも会ったことがないんだ。」

「______会えない?弍番みたいに存在しないってこと?」

「さぁ。知らないや。だって陸番さんは“近い子”の前にしか現れないんだもん。」

「 “近い子”…?」

「黄泉の国に近い、俺たちみたいな祓い家の家系だったり影が薄いやつのことだろ。」

壱番は頷く。

「陸番さんは“近い子”を取り込むために現れて、名を奪う。名前の通りでしょ〜?『名取さん』って。」

「会うためにどうしたらいいの?」

和気の質問に、壱番は無言になる。

「それは…」

重たい空気。
何を言い出すのか。
どんな恐ろしいことを言い出すのか…


「ボクも分かんない!」

「役立たずがっ!」

「何さ役立たずってー!
いつかまた、奪われるのを待ってたら〜?」

壱番は両の手の平を上に上げて回らながら歩く。

「んな悠長なこと言ったられっか。」

「なら漆番さんを先にしたらいいじゃん。漆番さんと会う方が、時間はかかるんじゃない?」

「俺も、ずっと探してるけど……」

「どうやったら会えるの?」

宵の言葉が濁り、和気は核心を突いた質問をする。

「簡単さっ。学校の敷地内の何処かにある、地面に刺さった石を見つければ良い。」

「______ん?」

(地面に刺さった石?)

「だぁから、俺もずぅーっと探してんだって。」

「僕も見かけたことないね。」

「漆番さんとは会ったことがないんだぁ。七不思議の中じゃ一番強いのに、神出鬼没度で言うとマックスだよマックス。」

「あのぉー……」

3人の視線は手を恐る恐る上げた和気へと向かう。
何も期待なんてしていなかった。
なのに、

「僕、それ見た。」

・・・・・・・・・

「「「はっ?!」」」

数秒の沈黙の後、3人の顔は一斉に和気の真正面にやって来た。

「どう言うこと和気くん?!」
「あの石見たのか?!」
「どごで会ったの?!」

「わわわわおっ、落ち着いて。一人ずつでお願いします。」

和気が落ち着くようただジェスチャーをすると、3人は一歩後ろへと引き下がる。

「はい!」

「はい宵くん。」

小学生のように勢い良く1番乗りに手を挙げた宵。

「いつ会ったんですか。」

「つい最近の土曜日です。」

「土曜……?」

「はい!」

「はい壱番。」

呼ばれた壱番は顔を顰める。
その不服さに小声で呟いてしまう。

「なんかその呼び方やだな…どこで会ったんですか!」

「校門近くの中庭です。」

「はい!」

「はい大和くん。」

「和気くんのタイプは?」

「漆番と関係ある質問をしようね。」

和気の代わりに、宵が土御門の頭上にチョップを入れた。
笑顔だった土御門の顔はみるみる変わり果てる。
和気と壱番が歩く後ろで、その二人が何やら言い合いをしているのが聞こえていた。

***

「何でおにぃさんは会えたんだろうね〜。」

「分からない。それに、あれが漆番だとは、思えなかった。」

何故なら、余りにも掛け離れた空気を纏っていたから。
七不思議特有の恐怖なんてさらさらなかった。

「漆番についても、教えてくれる?」

「いいよん。あの子を救ってくれたお礼だっ!」

壱番は和気の前へと走り出したから振り返る。
どこか不吉な笑みを浮かべて、とある噂話を語り始める。


この学校にいるのは、思春期の、悩みの絶えない子供達。
彼らの抱く不安や救済願望。
それを解決してくれるのが、とある石だった。
何かに苦しめられているなら、その石を探し、地中に突き刺せばいい。そうすれば、その石が何でも願いを叶えてくれる。
ただ、二つ問題があった。
一つは、その石は願いの代償として、願いと見合った大切なものを奪う。
大切な人との記憶。
数十年分の寿命。
芽生え出した華色の感情。
悪ければ命や存在まで。
二つは、地面に突き刺す時。
突き刺す力が弱ければ願いは届かないし、強ければ石に込められた邪念達が降り掛かる。

味方かと思われたそれは、裏を返せば酷い敵。
だとしても、それに縋る者は少なくなかった。



「………って言うのが、漆番さんのう・わ・さっ!
どうー?どうどうー?怖い?」

流石は怪異。
七不思議の名も伊達じゃない。
人の怖がることをこんなにもうきうきした瞳で期待するなんて。

「他の七不思議に比べると怖くなかな。」

「______ちぇー、なーんだ。」

「期待してんじゃねぇよ怪異が。」

「おにぃさんだって似たようなもんじゃん!」

「あーうるせぇうるせぇ。」

次は宵と壱番が騒ぎ始める。
夜の学校。
人数は四人。
だというのに、何故こんなにも賑やかなのだろうか。

「和気くん、ちょっと時間やばいかも。」

そう言って土御門が見せた画面には、3時52分と書かれていた。

「急ごう、和気くん。」

「____うん!」

和気は後ろの二人へと振り返る。
宵は頷く。
だが、壱番は口角を上げて笑みを浮かばせる。

「ボクのお見送りはここまでだよ。
早くおかえり〜。」

何一つ不自然さのない笑み。
可愛らしい子供の、笑み。

「うっ、うん。ありがと。」

「じゃーなー。」

宵と土御門は駆け足になり、それに和気も続く。
壱番のその様子を目に焼き付けながら。

(なんで、だろ……

────初めてこの子供を、
──────────こんなにも不気味に感じた。)

***

玄関から校門までの間を走って行く。
目前に校門が迫った時、和気は後ろへと振り返る。

「宵!」

「早く行け!」

「____えっ…。」

同じく走っていたはずの宵とは距離が空き、彼は地面へ膝をついていた。

「でもっ、宵がっ!」

「俺は大丈夫だから!」

「和気くん、もう時間だ。」

土御門のスマホに映された時間は59分。
彼の元に駆け寄る時間はなかった。

「行けって!」

躊躇った和気。
そんな彼の手は取られ、連れ出された。
和気は振り返ることもできずに、その場を去らざるおえなかった。


「_____はは。悠長に壱番と話すんじゃなかったな。」

宵は自身の手の平を見つめる。
その手は空気と溶け合い、消えかけていた。

「ほんっとに、不便な身体だ」

誰にも気付かれることなく、宵はその場から完全に消える。
光の粒子となって。