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【実話怪談】図書館の"あれ"
著者:中臣悠月
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数行読み進めたところで、画面をなぞる指先に、嫌な汗が滲むのを感じた。
『地下1階から地下4階まで続く広い閉架書庫。本を探している間、まったく誰とも会わないこともよくあるし、遅い時間になると、地下2階には自分一人しかいないというようなことも頻繁にあった。最初は、まるで自分専用の広い研究室ができたようで、単純に嬉しかった。それが、大学院に入って一ヶ月も経つと、苦痛になった。
後ろが気になるのだ。』
(中臣悠月『【実話怪談】図書館の"あれ"』より引用)
この感覚。
私も、感じたことがある。
今日も、地下2階の史書コーナーで、私は同じ「剥き出しの視線」を感じた。
私は、画面をさらに下へスクロールし始めた。
パズルのピースが、繋がり始めている。
この不安の正体を、私は突き止めなければならない。
「…………」
心臓の鼓動が、少しだけ速くなる。
私の通うX大学の図書館にも、地下書庫がある。私はそこが大好きだった。静寂。秩序。誰にも邪魔されない空間。
だが、この著者が書いていることは、私の身に起きていることと酷似していた。
『書棚から必要な本を何冊か手に取り、一人用の机に持って行き、本を開く。
しばらくすると、後ろから誰かに見られているような、落ち着かない気分になって、本を読んでいられなくなるのである。
それは、夜中にシャワーを浴び、顔を洗っているとき、背後に人の気配が感じられるような気がするけれど、怖いし、泡が目に入るしで、目が開けられない。そんな気配に似ていた。』
(同上)
私は画面を見つめたまま、自分の背後――夜の閉架書庫の、静まり返った空気――を意識せずにはいられなかった。
この「シャワー中の気配」という比喩。あまりに卑近で、それゆえに逃げ場のない恐怖。
それは今日も、地下2階の史書コーナーで私が感じた、あの「剥き出しの視線」とまったく同じ種類のものだ。
「……でも、これはうちの大学じゃない」
私は冷静になろうと、ノートにスペックを書き出した。
X大学の図書館は地下3階までだ。この小説にある「地下4階」という深さは存在しない。本棚の材質も、光の入り方も、微妙に違う。
けれど、この感覚だけが、まるでコピーされたように一致しているのはなぜだ?
私は画面をさらに下へスクロールし、コメント欄を一つずつ精査し始めた。
『これ、市ヶ谷の大学っぽいな。心当たりがある』
『いや、四谷の大学でも同じ話を聞いた。書庫の空気が急に重くなるんだ』
『私の大学(飯田橋)も同じ。書庫の奥に長くいると、頭が重くなる』

