【流出映像】図書館の防犯カメラに、様子のおかしい学生が映っていた―市ヶ谷・外堀沿いの大学で起きていること―



【防犯カメラ映像③:正座して天井を見る人】
タイムスタンプ:2025/12/01 23:12


 本棚の間の通路。一人の学生が胡座をかいている。
 背筋を異様なまでに伸ばし、首を直角に曲げて天井の一点を見上げている。
 特筆すべきは、その(かたち)だ。
 口が、顎の外れる限界を超えて、真っ黒な洞穴のように開いている。剥き出しになった白目は、もはや焦点を結んでいない。
 喉の奥が、異常に深い。
 粗いノイズのせいか、それとも実在する深淵か。その喉孔は、光を吸い込む海の底のように暗く、静まり返っている。


 私は、熱を帯びたスマートフォンを、忌まわしい呪物を手放すかのように机に置いた。
 だが、指先の震えは止まらない。それは、知ってはならない禁忌(タブー)に触れてしまった者が抱く、根源的な畏れだった。

 ふと意識を現実に戻せば、私は今、この瞬間に図書館という名の紙の墓標の中にいる。太陽の光が一切届かない地下二階、閉架書庫という名の、現世(うつしよ)常世(とこよ)の境界のような場に。

 もし、この天井の隅で冷たく光る機械の目が、今の私の姿を映していたら――。
 私は、あの映像の中の「彼ら」と同じ(かお)をしているのだろうか。何かに魅入られ、こちらの世界の道理を失った、あちら側の――異界の住人として記録されているのだろうか。

 私は、弾かれたように周囲の闇を確認した。
 誰も、いない。

 視界にあるのは、死者の列のように音もなく並ぶ書架の群れだけだ。
 だが、本当に独りだろうか。私の視界が届かない背後の死角に、何か決定的な変異が静かに佇んでいるのではないか。
 いや――違う。
 外側に何かがいるのではない。私自身の内側の輪郭が、既にこの土地が持つ古い記憶に侵食され、融け始めているのではないか。

 私は、自分の掌を眼前に掲げた。
 
 濡れている。
 
 いや、それは「濡れている」という、あまりにも生々しい触覚の幻だ。
 視覚的には、私の皮膚は乾燥し、青白く透けている。実際には、乾いている。だが、感覚は嘘をつかない。まとわりつくような湿り気があると、呪いのように主張し続けていた。
 
 私は、肺の底に溜まった(おり)を吐き出すように、深く、長く息をついた。
 落ち着け。これは、あまりにも多くの「負の伝承」に触れたことによる、精神の揺らぎに過ぎない。私はまだ、正気の側に踏み止まっている。
 そう言い聞かせながらも、私の内なる「知的好奇心」という名の(ごう)は、私の意志を離れて暴走を始めていた。

 防犯カメラに映ったあの者たちは、一体何に憑依されてしまったのか。
 なぜ、この外堀の曲線に沿った場所でのみ、これほどまでに執拗な徴候が重なるのか。
 私は、磁石に吸い寄せられる鉄屑のように、再びスマートフォンに手を伸ばした。震える指が、検索欄に新たな言葉を刻み込む。
 
「図書館 怪談 外堀」
 
そして、一つのWEB小説が、検索結果の上位に表示された。