「永田君が、私のストーカーだったの?」
手を繋いだまま家に戻り、彼をソファーに座らせる。
私も隣に座って改めて確認するように問うと、永田君の笑顔がゆっくりと崩れた。そして次の瞬間、彼は小さく、しかしはっきりと答えた。
「…そうだよ」
永田君は私の目を見つめ、堰を切ったかのように熱のこもった声で話し始めた。
「入学式の日。あの日に一目惚れしてから、俺は小野寺さんから目が離せなくなった。小野寺さんの全てを知りたかった。小野寺さんがどんな物を使い、どんな音楽を聴き、どんな場所に行くのか。小野寺さんが困っている時に、誰よりも早く助けたかった。小野寺さんの笑顔を、誰よりも近くで見たかった」
彼の言葉は、まるで熱病に浮かされたように淀みなく続いた。
今まで私の身に起こっていた不可解な現象の全てが、彼の言葉によって説明されていく。
私が使った物が欲しくて行われた文房具の新調、盗聴器とカメラが仕込まれた見知らぬぬいぐるみ。そして、過剰な愛を綴ったラブレターに至るまで、全てが彼の愛を具現化した物だった。
普通なら、この状況に恐怖を感じるべきなのだろう。
けれど、なぜか私は全く怯えていなかった。むしろ、私の口から出たのは素直な感謝の気持ちだった。
「文房具の交換とかしてくれてたよね?ありがとう。正直助かってた」
私の言葉に、永田君の瞳が大きく見開かれた。彼は驚きで言葉を失っているようだった。
「私ね、誰から向けられたものであっても、人からの愛を無下にしたくないの。好意を向けてもらえるのは嬉しいし、愛してくれるなら、できるだけちゃんと受け止めたいと思ってる。でも、回りくどいことは苦手なの。するのも、されるのも。……そんなに想ってくれているなら、真っ直ぐ伝えてくれたらよかったのに」
彼の顔には驚きと困惑。そして、かすかな喜びが入り混じった複雑な表情が浮かんでいた。
静まり返った部屋に夕焼けの光だけが差し込んでいる。その中で、私は彼の目を真っすぐ見つめ返す。
永田 晴人という男は、私のことをどこまで知っているのだろう。そして、私自身が知らない私の一面を彼はどれだけ見抜いているのだろうか。そんな他人事のような思考に耽ってしまう。



