__狂っている。
最初に出た感想はそれだった。幼馴染の知らない一面。何か言うよりも先に、乾いた笑いが零れた。
「誰かに言う気か?」
「まさか。言うわけないじゃん。柊斗と私の秘密。毎週水曜日に、このファミレスに2人で来るのと同じだね」
同じなわけがない。
でも、同じだ。
「…チョコレートケーキ、美味しいか?」
「うん!食べる?」
「一口くれ」
「はい、あーん」
「あーんはやらねぇよ」
「いいじゃん」
新品のフォークで一口貰う。適度に甘くて適度に苦い。ちょうどいい味だ。
「良いバランスの味でしょ」
「うん」
「恋愛も一緒だよね。甘すぎず苦すぎない愛じゃないと毒になる」
思わず顔を上げるとニコニコした綾香と目が合った。
「…どこまで知ってんだ?」
「ぜーんぶ。私が小林さんの自殺の原因の一端を担ってるってことも。いや~、独占欲って怖いね。幼馴染っていうだけで敵視されちゃうんだもん」
「怖いのは勢いだけどな。まさか、脅しでフェンスを越えるとは思ってなかった」
「あの時は風が強かったもんね。そりゃ、あんな強風で吹かれたら誰だって落ちちゃうよ」
『あの女と毎週ファミレスで会ってるくせに!!浮気よ!!!!』
『幼馴染か何か知らないけれど、彼女の私よりも大事なの!?!?』
ヒステリックな声が脳内で再生される。ああ、うるさい。キンキン声で叫ばないでほしい。
「ごちそうさまでした」
2個目のチョコレートケーキの最後の一口。飽きることを知らなそうな笑顔で完食した綾香は、満足そうに頷いた。
「美味しかった~」
「2個も凄いな」
「柊斗が手伝ってくれたじゃん」
「一口だけな。ほぼノーカンだ」
荷物を持って会計に向かい、先にまとめて払う。店を出てから綾香の分の料金を受け取って、貸し借りを0にする。
このやり取りも毎週のことだ。
「はー、明日も学校か」
「半分は超えたよ」
「俺は土曜日、部活なんだよ」
「あらら」
2人で帰路につきながら、高校生らしい会話をする。ついさっきまで物騒な話をしていたのが、遠い昔のことのように感じてしまう。
「じゃあここで」
お互いの家へと別れる分岐点。
街灯の光に照らされる彼女は、いつもと変わらない笑顔で俺を見上げている。その表情に安心する自分がいた。あの1件を知って尚、綾香は変わらない。
「ああ、じゃあ」
「うん。また来週」
__毎週水曜日の午後7時。人の少ないファミレスで。



