死に魅せられた高校生たちは今日も誰かと生きている


「あー…ごめんね。私、1年後に死ぬ予定だから」

 そんな言葉が聞こえてしまい、思わず口を手で覆った。
 鉢合わせてしまった告白現場。慌てて校舎の影に隠れた僕は、聞こえた言葉に耳を疑った。

(あれは、たしか同じクラスの斎藤さんだよな)

 直接喋ったことはないけれど、そうに違いない。
 学校のマドンナである彼女は、誰にでも優しく接して笑顔が輝かしくて、それで、

「ふふっ、みーつけた」

 その言葉に小さく悲鳴を漏らすと同時に視界に飛び込んできたのは、眩しいほどの笑顔だった。

 「……え、あ、いや」

 校舎の影、湿った土の匂いがする場所には似つかわしくない、春の陽だまりのような少女。クラスの誰もが憧れる、斎藤(さいとう) 美月(みつき)がそこにいた。

「盗み聞きは感心しないな。ねえ、君。名前は?」
「……瀬戸(せと)秋良(あきら)
「そっか、瀬戸くん。今の聞いてたでしょ」

 彼女は、先ほどまで自分に告白していた男子生徒のことなど、もう意識の端にも置いていないようだった。ただ、獲物を見つけた猫のような瞳で僕を覗き込んでいる。

「ね、聞いたでしょ」
「…ごめん」
「別にいいよ。私ね、2年前から死ぬ準備をしてるの。で、今日がちょうど『あと1年』の記念日。……あ、そんなに怯えないで。病気とかじゃないから。ただの予定で意図的だから」

 彼女の口から語られる『死』は、まるで週末に買い物へ行く約束と同じくらい軽やかで、だからこそ不思議な雰囲気を纏っていた。
 クラスの良心。明るくて元気で、非の打ち所がない良い子の代名詞。そんな彼女が、なぜ。

「ねえ、瀬戸くん。これも何かの縁だし、私に付き合ってよ」
「付き合うって……告白?」
「ううん、まさか! 恋愛なんて、死ぬのには重すぎるもん」

 彼女はクスリと笑って、僕の制服の袖を遠慮がちに、でも拒絶を許さない強さで掴んだ。

「『思い出作り』と、『死に方探し』。私と一緒に、最高の終わり方を考えて。1年後、私が綺麗にいなくなれるように」

 掴まれた袖から、彼女の体温が伝わってくる。
 すこぶる元気で幸せそうな、死ぬはずのない温度。
 
 僕はこの日、学年一の良い子が抱える、真っ黒で空っぽな心の内側に足を踏み入れてしまった。