言の葉の翠

2026-04-25
『カウンター越し』

好きだから会いに行きたいけど
会いに来るか待つのも大事だね。

恋をしている店員が言った。

カウンター席に座って水を飲んでいる僕は
その店員と目を合わせて、拉麺を注文した。

お客は僕だけだったからすぐに作られ
届いた拉麺をずるずると啜って食べる。

目の前の厨房では男性と女性が恋の話で
それなりに盛り上がっていて参加したい。

「でも、彼女いそうなんですよね~」
女性が男性にそう言って軽く笑った。

「分からないよ、いないかもしれないね」
「でも、いたら悲しいから期待はすんな」

男性は冷静に女性の話を聞いてから
求めていなさそうな正論をぶつけた。

僕は水を飲む。

「金曜の夜から連絡が来なくなって」
「また日曜の夜から連絡が来るのは」
「彼女いそうじゃないですか、多分」

女性は何もすることがないのか
机に腰かけて男性のほうを向く。

「それ、休日は彼女と遊ぶ予定があるから」
「君から連絡が来たら気まずいってことか」
「でも、俺だったら通知オフにするけどな」

また、女性が求めていない正論をぶつける。

入口のほうから「1人なんですけど~」と
別のお客さんが入ってきて女性が案内した。

そして注文を受けてからまたすぐに作られ
その人のもとへ拉麺が届くと話が始まった。

「どこまで話してたっけ」

男性は話の内容を覚えているだろうに
気にしていない風を装って再度訊ねる。

「好きな人に彼女がいるかって話」
「先輩だったら、どう思いますか」

見るからに男性は女性のことを好きそうだった。

同じ時間帯に2人きりになれるバイトが
楽しくて終始口角が上がっていそうだが。

「俺だったら連絡しないな、彼女がいたら」
「思わせぶりになるからね、気持ち悪いし」

遠回しに女性の好きな人を弄っているようで
少し空気が悪くなりそうな予感もしたけれど
女性はそれに気付いてなく、ただ笑っていた。

「先輩はいいですね、すぐ彼女できそうなのに」
「私の恋が叶うことも願ってくださいね、先輩」

少し語尾が上擦っていて、可愛い声になる。
先輩はどこか厨房の裏へと行ってしまった。

食べ終わった。

また女性と目を合わせ手を合わせて
お会計をしてほしい旨を伝えてから
レジでそそくさと支払いを済ませた。

長崎駅の隅っこで僕はインスタを開いてから
「どうか、男性に彼女がいませんように」と
女性の恋を応援するストーリーだけ更新した。

歩いてホテルに向かっている最中
「いないよ、彼女」と連絡が来た。

僕のストーリーを見た中学からの友達からで
「だろうな」と返信をしてスマホをしまった。

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