言の葉の翠

2026-04-02
『目の前のカップル』

傷付くのを分かった上で恋をするとか
失うのを分かった上で愛するだなんて。

到底、出来そうにない。

街を歩くと様々なカップルがいて
羨ましいな、と思ったりするけど。

人に恋をするという感覚が鈍くて
好きになることはないんだと思う。

彼女がいる。

誰よりも可愛いと言えば嘘になるけど
確かに可愛くて優しくて、そして脆い。

悲しいという感覚も鈍くなってきたのか
夢で彼女と別れても泣くことはなかった。

少し前だったら泣いて目覚めていたのに
寧ろ、清々とした気持ちで目覚めたから。

恋は、僕に向いていない。

愛を与えてくれる人も幾数人はいて
ちゃんと返しているつもりだけれど
その頻度が低く不安を与えてしまう。

あ、目の前のカップルが手を繋いだ。

彼女と手を繋いだときのことを思い出すが
あまり嬉しさはなく、ただ温もりがあって。

それ以上の感情を抱くことはなかった。
手を振って、解いて、また繋ぎ合って。

「こういうの好きだな~」と彼女は歩きながら
ボソッと呟くように、僕に聞こえるように言う。

「ね」と共感めいた反応をここではするけれど
ただ手を繋いでいるだけで幸せになれるなんて。

羨ましいな、と思ったりして。

また手を振って、解こうとするのだけれど
ギュッと握られた手は解かれることがなく。

そこには、脆さがあった。

思いっきり振り払った手は無残にも解かれ
悲しそうな表情をしたまま、彼女は笑った。

その笑顔にはどこか見覚えがあって
過去の記憶を辿るように思い返すと。

僕に対して、愛が尽きた元カノの笑顔と似ていた。
確かに口角は上がっているのに、目が死んでいる。

どこか安心した。

いつもと同じような結末が待ち受けていて
僕に「愛はない」と突き付けているようで。

あ、目の前のカップルが抱きついた。

愛する人をより近く感じるために抱きつき
その人にしかない匂いを胸いっぱいに吸う。

彼女の匂いを知らなかった。
元カノの匂いすら知らない。

悲しそうな表情をした彼女との記憶が
次第に薄くなっていくのだろうと思う。

誰かに好かれて、誰かに愛されて
けれど、誰かを悲しませてしまい
また同じ表情をさせてしまうから。

失うのを分かった上で、愛は要らない。

あ、目の前のカップルがキスをした。
見るに至らなくて、僕は追い越した。

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