消失者たち

【警視庁捜査第一課 会議録(続き)】
松岡課長:
「つまり、科捜研でも説明できないということですね」
三島警部:
「はい。だが、これは重要な手がかりかもしれません。何らかの『未知の技術』が使われている可能性があります」
山本警部補:
「未知の技術……ですか。しかし、それは何のために?人を消すため?」
三島警部:
「わかりません。しかし、もし何らかの技術で人を『転送』できるとしたら……」
岩崎警部補:
「SF映画じゃないんですから」
三島警部:
「ええ、荒唐無稽に聞こえます。私自身、信じられません。しかし、現実に17人が消えているんです。そして、そのうちの3人は、物理的に説明不可能な方法で消えた。
我々は、既成概念にとらわれず、あらゆる可能性を検討すべきです」
松岡課長:
「……わかりました。では、他の14件についてはどうですか?こちらは通常の拉致のように見えますが」
渡辺警部補:
「はい。私が担当した事案C-003、高橋恵子さんのケースですが、犯人は大手宅配業者を完璧に偽装していました。制服、車両、話し方まで。
これは相当な準備が必要です。単なる犯罪者ではなく、プロフェッショナルな組織の仕業と考えられます」
山本警部補:
「私が担当した事案D-004、中村大輝くんのケースも同様です。警察官の制服、警察手帳の偽造。一般人には入手困難なものです」



三島警部:
「そこです。犯人たちは『信用される存在』に化けています。宅配業者、警察官、郵便局員、農協職員……これらは全て、社会的に信頼されている職業です。
つまり、犯人たちは『信用』を武器にしている。そして、それぞれの家庭に最適な『顔』を使い分けている」
松岡課長:
「組織的、計画的、そして資金も豊富。しかし、動機は?身代金要求はないんでしょう?」
三島警部:
「一切ありません。家族への接触も、脅迫もない。失踪者はただ消えただけです」
岩崎警部補:
「人身売買の可能性は?」
渡辺警部補:
「それも考えました。しかし、対象者の選定が不自然です。8歳の女児から58歳の農業従事者まで。人身売買なら、もっと『商品価値』の高い対象を選ぶはずです」
三島警部:
「その通り。これは人身売買ではない。では何なのか?
私は考えました。失踪者17名に、我々が見落としている『隠れた共通点』があるのではないか、と」
松岡課長:
「隠れた共通点……」
三島警部:
しかし、もっと深い部分、たとえば……血縁関係、出身地、趣味、健康状態、遺伝的特徴……そういった部分に共通点があるかもしれません」「年齢、性別、職業、居住地、交友関係……表面的な共通点は見つかりませんでした。
松岡課長:
「なるほど。では、失踪者の詳細な身辺調査を改めて行うということですね」
三島警部:
「はい。特に、医療記録に注目したいと思います」
山本警部補:
「医療記録?」
三島警部:
「ええ。もし、失踪者たちが何らかの『身体的特徴』で選ばれているとしたら、それは医療記録に現れるはずです」

【捜査メモ - 三島隆】
日付: 2023年11月7日 午後11時30分

会議を終えて、一人で考える。
17人。バラバラに見える17人。しかし、必ず共通点がある。犯人は何らかの基準で彼らを選んでいる。
なぜ彼らなのか?
人身売買ではない。身代金目的でもない。政治的動機も見当たらない。
では、何のために?
エレベーターから消えた安藤圭一。化粧室から消えた西村香織。コンビニから消えた井上拓也。
物理法則を無視した消失。
だが、これらも同じ事件の一部だとしたら?
最初の14件は「拉致」。最後の3件は「消失」。
手口が変わった?いや、違う。
最初から複数の手口を使い分けていた。状況に応じて、最適な方法を選んでいる。
では、なぜ途中から「消失」という方法を使い始めた?
答えは一つ。
「拉致が困難な状況」だったから。
安藤圭一はオフィスビルから出るところだった。周囲に人がいる。連れ去るのは難しい。
西村香織はレストランにいた。同僚が近くにいる。連れ去れば目撃される。
井上拓也はコンビニにいた。店員がいる。防犯カメラもある。
だから、「消した」。
では、どうやって?
ノイズ。0.5秒から0.7秒の一瞬。
その瞬間に、人が消える。
これは技術か?魔法か?
いや、待て。冷静になれ。
科学的に考えろ。
もし、これが技術だとしたら……我々の知らない、誰かが開発した技術だとしたら……
それを持っている組織がいる。
そして、その組織は、何らかの目的のために、特定の人々を集めている。
「選別」している。
では、選別の基準は?
明日、失踪者全員の医療記録を取り寄せよう。
必ず、何かある。