時が止まるまで、君と

 隆平とメールで意思疎通を図りながら登校すると、学校の門のところで同じクラスの瀬川とばったり会った。
「おはよう」
「おはよう……」
 瀬川は悪い人間ではないのだが、距離感が近くてどうにも苦手だ。
 俺が挨拶もそこそこに足早に校舎に入ろうとするのを見て、隆平が近くに来て耳元で囁く。
「どうした?」
 隆平は2年になってからは違うクラスになったため、瀬川のことは知らない。
 つい条件反射でそれに答えようとそちらを向いた、その時だった。
「あ!」
 突然、瀬川が大声を上げて、隆平がいる辺りを指差しながら俺に詰め寄る。
「皐月君、見えるんだ?」
「え!?」
 思わず隆平と顔を見合わせかけたのを堪えて、しらを切ろうとしたのだったが。
「君、見えるの?」
 当の隆平がどこか嬉しそうに瀬川に話しかけてしまい。
「ちょっ」
 俺が慌てて制止しようとするのも空しく。
「ああ、もちろん俺には見えるよ。皆には隠しているけど、うちは霊能一家でね。でも、皐月君も?」
「は、はは……声しか聞こえないけどね」
「そうなんだ。皐月君も霊感があるのは嬉しいな」
「いや、俺は……」
「あれ?だけどおかしいな。君、確かずっと皐月君に付きまとっていた幽霊だよね?それに、何か見覚えあるような……」
 瀬川がずいと隆平に近づこうとしたので、間に割って入る。
「それがどうした?」
「だって、それならどうして今、皐月君は気づいたのかなって」
「急に見え出しただけ」
「えっ、急に?それは興味深いな。ちょっと詳しく……」
 瀬川が興味津々な様子で質問を重ねてこようとした時、その背後から誰かがぽんと肩を叩いた。
「ちょっと、俺は今取り込み中だから後に……」
 相手の方を見向きもしないで瀬川が手で払う動作をしたのを見て、その相手が見えている俺は背中に冷や汗が浮かんだ。
「瀬川君、まずい」
 小声で教えようとするが、瀬川は話に夢中で聞いていない。
「まずい?ああ、確かに急に見え始めるのはまず……」
 瀬川の背後にいる男が大きく咳払いをする。その音でようやく気づいたらしい瀬川は、顔を青くしながら振り返った。
「瀬川君。いつまで水無瀬君に絡んでいるんだ?」
「松山、先生……」
「君は今何時か分かっているのか?」
 慌てて腕時計を確認した瀬川は、ホームルームの開始時間になっていることに気がついて勢いよく頭を下げた。
「すみません!皐月君も急いで!」
 そのまま松山の叱責から逃げるように脱兎のごとく部署へ向かう瀬川に、松山は密やかに笑う。
 松山は不真面目な者には厳しいが、真面目な者には優しい。
 俺も松山に頭を下げて走って行こうとすると、隣から呼び止められた。
「皐月」
「何?」
 小声で聞けば、隆平も合わせるように小声で返す。
「ごめん、俺が瀬川ってやつの話に乗ったから」
「いいよ。瀬川は苦手だけど、霊感があるっていうのは興味深かったし」
 松山のところから離れながら素早くメールを打って見せれば、隆平は頷いた。
「俺もそこが気になって。瀬川はこの状況をどうにかする方法とか知ってるのかな?」
「どうにかって?」
「たとえば、俺を(よみがえ)らせる方法とか」
 隆平の言葉に、俺は目眩がするような思いがした。
 そのあまりに魅力的な可能性に、苦手だからと瀬川から逃げてばかりではいられないなと思った。
「聞いてみる。俺も隆平を(よみがえ)らせることができるなら、どんなことでもしたい」
 力強く頷いて見せると、頭に温もりを感じた。