隆平を自宅に連れ帰ると、嘘のように雨が上がった。通り雨だったのだろう。
俺が濡れて張り付いたを脱ぎ捨てていると、隆平が「うーん」と唸った。
「どうした?」
「タオルを渡してあげようかと思ったけど……」
隆平が言わんとすることを察して、何と返したらいいか分からなかった。
困ったように笑う他に、何が出来るというのだろう。
「ごめん、暗くしてしまったね。俺、皐月の部屋に来られて嬉しいよ」
「俺も、隆平がいてくれるだけで嬉しい」
そうだ、隆平がここにいる。声しか聞こえないけれど、確かに皐月の前には親友の隆平がいた。
実感が沸いてくると、ふと涙で視界が滲んでしまいそうになり、慌てて顔を隠す。
誤魔化すように忙しなく衣服が入ったタンスを漁り始めると、隆平が何かを呟いた。
「何?何か言った?」
「これ、持っていたんだ。俺の時計」
「ああ、形見……大事な物だからな」
急いで服を着替えながら言い直すと、隆平は残念そうに口にした。
「はめたままにしておきたかったなあ」
事故の衝撃で外れてしまって霊体である隆平の腕にはついていないのかもしれない。
隆平に持っていて欲しかったのは、俺も同じ気持ちだ。
「でも、皐月が持っていてくれるなら安心だ」
その台詞を聞きながら、皐月は生前の隆平が言っていた言葉を振り返ると、複雑な心境になった。
「皐月がくれたものだから、これをつけていないと落ち着かないんだ」と。
今となっては、もう隆平が腕時計をつけることは叶わない。
その代わりに自分がつけるとなると、まるでそうすることで隆平の死を互いに知らしめているかのようだった。
腕時計の締め付けがきついような錯覚を覚えて、外そうと手をかけたところで、温かい空気が触れる。
見上げると、当たり前なのだが、隆平の姿は見えない。けれど、手のひらを腕時計に添えているのだと思う。
何も告げられなかったが、外さないでくれと頼まれているのを察して、代わりにその手に反対の手を乗せてみる。
確かに声や気配は感じるというのに、はっきりと生きている状態で触れられないのが、悲しくて仕方がない。
今度こそ涙を堪えきれなくなって一筋流してしまうと、隆平が透明な手で頬に触れてきて、困ったように笑うのが目に浮かんだ。
温かいと感じるだけのはずなのだが、目を閉じると隆平の息遣いや温もりが甦るようだ。
どちらからともなくベッドに横たわると、身を寄せて眠りについた。
事故以来、久しぶりの夢一つない深い眠りだった。
俺が濡れて張り付いたを脱ぎ捨てていると、隆平が「うーん」と唸った。
「どうした?」
「タオルを渡してあげようかと思ったけど……」
隆平が言わんとすることを察して、何と返したらいいか分からなかった。
困ったように笑う他に、何が出来るというのだろう。
「ごめん、暗くしてしまったね。俺、皐月の部屋に来られて嬉しいよ」
「俺も、隆平がいてくれるだけで嬉しい」
そうだ、隆平がここにいる。声しか聞こえないけれど、確かに皐月の前には親友の隆平がいた。
実感が沸いてくると、ふと涙で視界が滲んでしまいそうになり、慌てて顔を隠す。
誤魔化すように忙しなく衣服が入ったタンスを漁り始めると、隆平が何かを呟いた。
「何?何か言った?」
「これ、持っていたんだ。俺の時計」
「ああ、形見……大事な物だからな」
急いで服を着替えながら言い直すと、隆平は残念そうに口にした。
「はめたままにしておきたかったなあ」
事故の衝撃で外れてしまって霊体である隆平の腕にはついていないのかもしれない。
隆平に持っていて欲しかったのは、俺も同じ気持ちだ。
「でも、皐月が持っていてくれるなら安心だ」
その台詞を聞きながら、皐月は生前の隆平が言っていた言葉を振り返ると、複雑な心境になった。
「皐月がくれたものだから、これをつけていないと落ち着かないんだ」と。
今となっては、もう隆平が腕時計をつけることは叶わない。
その代わりに自分がつけるとなると、まるでそうすることで隆平の死を互いに知らしめているかのようだった。
腕時計の締め付けがきついような錯覚を覚えて、外そうと手をかけたところで、温かい空気が触れる。
見上げると、当たり前なのだが、隆平の姿は見えない。けれど、手のひらを腕時計に添えているのだと思う。
何も告げられなかったが、外さないでくれと頼まれているのを察して、代わりにその手に反対の手を乗せてみる。
確かに声や気配は感じるというのに、はっきりと生きている状態で触れられないのが、悲しくて仕方がない。
今度こそ涙を堪えきれなくなって一筋流してしまうと、隆平が透明な手で頬に触れてきて、困ったように笑うのが目に浮かんだ。
温かいと感じるだけのはずなのだが、目を閉じると隆平の息遣いや温もりが甦るようだ。
どちらからともなくベッドに横たわると、身を寄せて眠りについた。
事故以来、久しぶりの夢一つない深い眠りだった。


