時が止まるまで、君と

 神社を出ると、何となくその場に行かなければいけない気がして、全力で走って隆平の墓前に訪れた。
 黄昏に染まりゆく景色の中、清々しい風に吹かれて手を合わせる。
「隆平、さっきのは、やっぱりお前の声だったのか?」
 隆平の墓は沈黙ばかりしか返さないが、どこか確信めいた予感があった。
「隆平、何とか言ってくれないか。頼む……」
 しばらく墓を見つめ続ける中で、諦めの念が浮かび始めて立ち上がろうとした時、頬に(しずく)がこぼれた。
「え?」
 一瞬、自分が泣いてしまったのかと思ったが、そうではなかった。頭上から降り注ぐ天の涙だ。
 見上げると、いつの間にか暗雲が立ち込めていた。
 それから急激に雨足が速くなり、事故の時を彷彿させる。
「帰らないとな」
 半ばぼんやりとしながら呟いて、墓前に背を向けた。傘は持っていない。
 あの日と同じように、天気予報は雨だとは告げていないからだ。
 濡れるのも気に止めず、ゆったりとした動作で帰路へ就こうとした時、人の気配が背後にあった気がした。
「皐月」
 振り返る寸前、懐かしい声に呼ばれた。雨音にも負けない、しっかりとした低音だ。
 それは聞き間違えようのない、かの人のもの。
 信じられない思いで目を向けるが、そこには誰の姿もない。
「本当に、隆平なのか?」
 雨の中、濡れ鼠のようになりながら問いかけると、隆平の声がまた響いた。
「そうだよ。やっと気がついてくれた、良かった……」
「やっと?」
「俺はずっと傍にいたのに、皐月は気がついてくれないから。霊感はないって言ってたし、このまま気づいてくれないんじゃないかと不安だった」
「隆平、俺……っ」
「何も言わなくていいよ。手のひらを、こっちに出して」
 言われるままに差し出せば、隆平が手のひらを合わせてきたような微かな温もりを感じた気がした。
「隆平、りゅう、へい」
 俺はその温もりを掬い上げ、頬に押し当てる。
 雨が静かにさらさらと降り続けていたが、雲間から光が差し、天使の梯子が舞い降りてくる。
 俺はその光景を、姿の見えない隆平と一緒に見ていた。