男が掻き消えた後、俺と隆平は無言で歩き続けた。
隆平もきっと、考えをまとめているのだろう。
俺の方は、隆平が生き返るためなら何でもする覚悟でここまできたのだから、たとえこの時間を互いに忘れたところで特に弊害はない。
自室に入ってドアを閉めると、隆平に向き合った。
「隆平、俺はお前に生きていて欲しいから、この時間のことはお互いに忘れてしまっても……」
「俺は嫌だな」
ばっさり拒絶されて、俺は息を飲む。
「何で?俺はお前に生きていてもらえたら、それだけでいいのに」
「俺は、死んだ瞬間にすごく後悔したんだ。生きているうちに、皐月に自分の気持ちを伝えなかったこと。こんな姿になって、どういうわけか皐月と話ができて、ようやく皐月に想いが通じそうなのに、忘れるのは嫌だ」
「待てよ。俺に想いが通じそうって……別に俺はそんなんじゃ……。それに、それなら尚更、お前は生き返って俺に」
「無理だよ。この状態の俺じゃなきゃ、皐月に気持ちを伝えられるわけがない。皐月は鈍いし、俺はもともと臆病だから、こんな大きなきっかけがなきゃ、伝えられない。だから、こうなれるのは今だけなんだ」
「あの、ちょっと待って。そもそもお前、俺のこといつから……」
いつから好きなの、と口にするのは躊躇われた。
それを口走れば、何かが壊れると思った。
でも、もう遅かった。
「そんなの分からない。気がつけば、好きになってた。いつも傍にいてくれて、誰よりも俺のこと分かっていて、ずっと、ずっと近くにいてくれたから」
「隆平、でも俺はお前のことそんな風に意識したことはない。今もそれは変わらない。だから、生きてやり直せば、いつか……」
「いつかってなに」
「隆平」
「皐月、嘘ついてるね」
「嘘なんか」
「俺のこと、本当に今意識してない?それなら、なんでキスした時拒絶しなかったの」
「それは……そんなん、お前が強引だから」
「強引にされたら誰でもいいわけ」
「違う!」
「じゃあなに」
「……もう、この話はなしだ」
どこまで行っても平行線だと感じ、俺は無理やり話を終わらせた。
隆平は納得がいかないという顔をしつつも、部屋の隅に移動しただけで出て行ったりはしない。
喧嘩するといつもこうだ。どんなにぶつかり合っても、隆平は俺から逃げることはない。必ず分かり合えると信じているからこその行動なのかもしれない。
でも俺は、今回ばかりは隆平の期待に応えることはできないからこそ、自室を出た。
隆平と俺の意見が対立するのは無理もない。
自分が死んだ場合と、相手に死なれた場合とでは、どちらも後悔するのは同じだというのに、立場が違えば全く別の望みを抱いてしまう。
いや、違うか。
俺は本当は分かっていた。
分かっていて、目を逸らしている。
隆平とのこれまでの時間を、関係を壊したくないばかりに、自分のエゴを押しつけている。
「でも、隆平。俺はお前に」
死んで欲しくない。
いなくなって欲しくない。
傍にいて欲しい。
今まで通りの関係でいたい。
でもこの望みは、隆平にとっては許容できないし、辛いことだと分かっている。
それでも。
階段に座り込み、ぎゅっと自分の肩を抱いた時、後ろから温もりに包み込まれた。
「隆平?」
柑橘系の匂いが漂っているから誤魔化しは効かないというのに、隆平は無言のまま俺を背後から抱き締めている。
俺と隆平はすぐには分かり合えないけれど、きっと。
俺は目を閉じ、温もりに身を任せた。
隆平もきっと、考えをまとめているのだろう。
俺の方は、隆平が生き返るためなら何でもする覚悟でここまできたのだから、たとえこの時間を互いに忘れたところで特に弊害はない。
自室に入ってドアを閉めると、隆平に向き合った。
「隆平、俺はお前に生きていて欲しいから、この時間のことはお互いに忘れてしまっても……」
「俺は嫌だな」
ばっさり拒絶されて、俺は息を飲む。
「何で?俺はお前に生きていてもらえたら、それだけでいいのに」
「俺は、死んだ瞬間にすごく後悔したんだ。生きているうちに、皐月に自分の気持ちを伝えなかったこと。こんな姿になって、どういうわけか皐月と話ができて、ようやく皐月に想いが通じそうなのに、忘れるのは嫌だ」
「待てよ。俺に想いが通じそうって……別に俺はそんなんじゃ……。それに、それなら尚更、お前は生き返って俺に」
「無理だよ。この状態の俺じゃなきゃ、皐月に気持ちを伝えられるわけがない。皐月は鈍いし、俺はもともと臆病だから、こんな大きなきっかけがなきゃ、伝えられない。だから、こうなれるのは今だけなんだ」
「あの、ちょっと待って。そもそもお前、俺のこといつから……」
いつから好きなの、と口にするのは躊躇われた。
それを口走れば、何かが壊れると思った。
でも、もう遅かった。
「そんなの分からない。気がつけば、好きになってた。いつも傍にいてくれて、誰よりも俺のこと分かっていて、ずっと、ずっと近くにいてくれたから」
「隆平、でも俺はお前のことそんな風に意識したことはない。今もそれは変わらない。だから、生きてやり直せば、いつか……」
「いつかってなに」
「隆平」
「皐月、嘘ついてるね」
「嘘なんか」
「俺のこと、本当に今意識してない?それなら、なんでキスした時拒絶しなかったの」
「それは……そんなん、お前が強引だから」
「強引にされたら誰でもいいわけ」
「違う!」
「じゃあなに」
「……もう、この話はなしだ」
どこまで行っても平行線だと感じ、俺は無理やり話を終わらせた。
隆平は納得がいかないという顔をしつつも、部屋の隅に移動しただけで出て行ったりはしない。
喧嘩するといつもこうだ。どんなにぶつかり合っても、隆平は俺から逃げることはない。必ず分かり合えると信じているからこその行動なのかもしれない。
でも俺は、今回ばかりは隆平の期待に応えることはできないからこそ、自室を出た。
隆平と俺の意見が対立するのは無理もない。
自分が死んだ場合と、相手に死なれた場合とでは、どちらも後悔するのは同じだというのに、立場が違えば全く別の望みを抱いてしまう。
いや、違うか。
俺は本当は分かっていた。
分かっていて、目を逸らしている。
隆平とのこれまでの時間を、関係を壊したくないばかりに、自分のエゴを押しつけている。
「でも、隆平。俺はお前に」
死んで欲しくない。
いなくなって欲しくない。
傍にいて欲しい。
今まで通りの関係でいたい。
でもこの望みは、隆平にとっては許容できないし、辛いことだと分かっている。
それでも。
階段に座り込み、ぎゅっと自分の肩を抱いた時、後ろから温もりに包み込まれた。
「隆平?」
柑橘系の匂いが漂っているから誤魔化しは効かないというのに、隆平は無言のまま俺を背後から抱き締めている。
俺と隆平はすぐには分かり合えないけれど、きっと。
俺は目を閉じ、温もりに身を任せた。


