時が止まるまで、君と

「瀬川のやつ、意外と大人しかったね」
「そう、だな」
 放課後、隆平と共に帰路に着きながら、瀬川のことを話題にする。
 あれはもしかしたら、隆平とキスをするところを目撃されたからかもしれないと思ったが、わざわざ言わなくてもいいだろう。
「隆平、あと5回したら本当に戻りそうだね」
 単に隆平の姿を見て口にしたのだが、隆平はニヤリと笑った。
「なに?」
「いや、あと5回もしたら、皐月は完全に俺の虜になるだろうなあと」
 にやにやとしながら顔を近づけられて、俺はムッとする。
「何だよ。からかうなよ。俺は真剣にーー」
「お兄さん、本当にしちゃったみたいだね」
 聞き覚えのある声が、ふいに会話に割って入る。
 これだけ人通りがあるのに、その声は耳元で囁かれたように鮮明だった。
「あ、あなたは……」
 道端には、あの時の怪しげな男が、やはり帽子で顔を隠したまま座っていた。
「隆平君、だっけ。君は前、代償を伴うんじゃないかと聞いてきたよね。その答えを教えてあげる」
「やっぱり何かあるんですね」
 流石に今度は無碍(むげ)にできないと感じたのか、隆平は男の話を聞こうと歩み寄る。
 俺も後に続こうとすれば、隆平の透けた手が制してくる。
 隆平を見上げると、大丈夫だからと頷き返された。
「あるよ。ただし、これを代償と受け取るかどうかは君たち次第だけれどね」
「それは何ですか?」
「代償は、隆平君、君が今霊体として過ごしている時間だよ。記憶、とでも言うのかな。そもそも、君が死ななかったようにするには、この時間をなかったことにするしかない。それ(ゆえ)に、二人とも完全にこの瞬間の出来事は忘れるだろう」
「それは……つまり」
「とはいえ、蘇る代償としては小さいものだね」
「あの!あなたは何者なんですか?」
 気を抜けばまた掻き消えてしまいそうだったため、俺は慌てて尋ねた。
「なぜあなたは俺たちにこんなことを」
「正しい運命に戻すため、とでも言っておこう」
 突風が吹いたかと思うと、男はその言葉を最後に掻き消えた。