時が止まるまで、君と

 「学校に行っておいで。待ってる」と隆平に言われて一人で登校することになった。
 俺は一人で登校しながら、隆平のことを考える。
「キスの意味、て言われてもな……」
 自分の唇に触れて首を傾げる。
 俺は昔からモテなかったから、付き合ったことはもちろんなく、キスの経験もない。
 ある意味、あの時隆平としたのがファーストキスになってしまった。
「といっても、相手はあの隆平だもんな」
 驚いたけど、嫌ではなかった。
「でも、なんで嫌じゃなかったんだろう」
 やっぱり好きじゃないから何とも思わなかったのか。
 それとも。
「皐月君、どうした」
「うわっ」
 校門が見えてきたところで、いきなり背後から肩を抱かれた。
「瀬川君、あの、離れ……」
「今日は連れてきてないんだ、轟隆平君」
「え」
「いや、何か見覚えあるなと思っていたら、彼、隣のクラスの生徒だったんだね。皐月君といつも一緒にいた」
「そうだけど……」
「隆平君って、皐月君の何?友達?恋人?」
「えっ!?」
 コイビト、と言われた途端にかっと顔が熱くなった。
「え、何その反応。マジなの?」
「ち、ちが……」
 単に経験がないだけに意識しただけだ。
 けれど、瀬川には通じなかった。
「そうか、やっぱりか」
「やっぱり、て?別に俺たちはそんな関係じゃ……」
「ふうん。じゃあ、付け入る隙はあるわけか。まあそもそも、向こうは死んでるわけだしな」
 ぶつぶつと独り言を言っている瀬川を引きはがし、これ以上妙なことを言われる前にと足早に教室へ向かう。
「あ、ちょっと皐月君、まっ……」
 瀬川が呼び止めようとするのも無視して教室に辿り着き、席に座ったところでホームルーム開始のチャイムが鳴った。
 担任の金山が現れ、教壇に立つと、眼鏡を押し上げてぐるりと周りを見渡した。
「えー、皆さん。席に着きましたか?今日は進路について皆さんに考えていただくため、進路希望調査の紙を用意しました。親御さんとしっかり話し合って、来週の金曜までに提出してください」
 俺はクラスメイトたちがざわめき出す中、一人、窓の外へ視線を転じた。
「進路……」
 隆平は何になりたいと言っていたか。
 もし本当に蘇るなら、隆平はどうするんだろう。
 気がつけばまた、隆平のことを考えてしまう。
 常に一緒にいるのが当たり前だった隆平がいなくなった時の恐怖は、絶望は、悲しみは、まるで体の半身を奪われたような痛みを伴った。
 そのせいか、俺は今の隆平に対して執着に似た感情を抱き始めているのかもしれない。
 本当に蘇るのか、いつまた。
 俺は進路希望調査のプリントを鞄に仕舞い、授業に向けて無理やり頭を切り替えた。