時が止まるまで、君と

 その後、俺は隆平を連れて自宅に帰り着いた。
 遅くなったため何か言われるかと思ったが、母は泣き腫らした目を見て微笑み、頷くだけだった。
「お母さん、違う意味に捉えたかも」
「そうだね。でも言えるわけないからいいんだよ。それよりさ、皐月」
 隆平が窓辺に行き、透明な手でカーテンを開く。
「何?」
「ほら、見て」
 隆平が指差した方を見上げると、空には満月が浮かんでいた。
「あ……そうか」
 今日は満月だ。
 ということは。
「あの男が言っていたのは本当のことだった?でも、何でそんなことが普通の人間にできるんだ」
 俺の疑問に、隆平はあっさり答えた。
「普通の人間に見えなかったけど。俺のこと見えたばかりか、名前まで当てたし」
「……確かに。隆平、知り合いだった?」
「いや。あんな面白い人いたら、真っ先に皐月に言うよ」
「そっか。そうだよな」
 俺が隆平と月を眺めていると、部屋のドアをノックされた。
「皐月、入っていい?」
「お母さん?うん、いいよ」
 隆平の方を見ると、隆平は一つ頷いて部屋の隅に行った。
「今、誰かと話してた?」
「え?ううん、独り言だよ」
 慌てて取り繕うと、母はそれ以上は追及せず、ジュースを二つと団子を乗せた盆を俺の机に置いた。
「お母さん、それは?」
「今日は隆平君の初七日でしょう?お団子、隆平君の好物だったから」
「お母さん……」
 母の目には光るものがある。
 今、部屋の隅でじっと話を聞いている隆平が、母には見えない。
 母にとっても隆平は息子同然だったに違いない。
「お母さん、あのさ……」
 俺は教えてあげたくて口を開く。
 けれど、隆平が肩に手を置いてきて、首を横に振るのを見て口を噤(つぐ)んだ。
「皐月、何?」
「ううん、何でもない。ありがとう」
 隆平の代わりに例を言うと、母は静かに笑って目元を拭い、そっと部屋を出て行った。
 足音がすっかり遠ざかってから、俺は隆平にコップを差し出す。
「飲めるか?」
「まだたぶん無理。皐月が飲んで」
 頷いて、コップを机に戻し、また窓辺に寄った。
 隆平も隣に並び、一緒に月を仰ぎ見る。
「皐月、俺さ」
「うん」
「本当に俺の死がなかったことになったら、言いたいことがあるんだ」
「言いたいことって?今は言えないの?」
 隆平は俺の唇に触れ、囁いた。
「さっきのキスの意味、よく考えて」
 キスの意味?
 だってあれは蘇るためであって、それ以上何が。
「隆平、俺とお前は親友、だよな?」
 隆平は笑みを返してまた月を見上げた。
 俺も一緒に見上げながら、生じた疑問の答えをぼんやりと考えた。