時が止まるまで、君と

「いなくなった」
「そうだね」
 まるで狐につままれたように、男の姿はどこにもなかった。
「隆平、さっきの言葉ってどういう意味?」
「どういう意味だと思う」
「……俺にとって隆平は、かけがえのないとも……」
 その時、俺はほんの微かに唇に何かが触れるのを感じた。
「んっ……」
 驚いて一瞬目を閉じた拍子に、唇に触れる感触が僅かに強くなり、それが何なのか理解してしまった。
「え……」
 ぱっと目を開くと、間近に見慣れた顔があった。
 やや垂れ気味の目と薄い唇、高い鼻梁は間違いなく。
「隆平……?」
 かなり薄く透けているけれど、確かに彼の姿だと認識できた。
「人工呼吸って、キスのことだったんだね」
 冗談ぽく舌を出す隆平。
 俺は自分の口をばっと腕で押さえる。
「意識、してくれてる?」
 悪戯っぽい目と口調で聞かれて、怒るつもりだったのに、涙が溢れた。
「えっ、あれ?そんなに嫌だった?」
「ちが……」
 俺はそれ以上何も言えず、ただ突き上げる激情を堪えきれずに(むせ)び泣く。
 隆平にまた会えた。
 声だけじゃなく、姿まで見えた。
 嬉しいのに、涙が止まらないなんて初めてだった。
「皐月……」
 隆平が俺の髪を()くように撫でる。
 その感触を前よりもしっかりと感じることかできて、間違いなく隆平の撫で方で、ただそれだけのことがこれほどまでも。
 俺は一目も(はばか)らず泣き続けた。